我々はこれから何で食べていけばいいのか――。日本の産業界は今、大きな転換点にいる。右肩上がりの成長は既に終わり、国内市場は縮小が始まっている。高品質・高効率で世界を席巻した耐久消費財は新興国にその座を奪われつつある。
 そんな中にあって、日本の次が見えてくるのがこの章の商品・サービスだ。日本人や日本社会のきめ細やかさや正確さに対する世界の信頼はあつい。独特の文化への関心も高い。こうした世界の目をうまく商品・サービスにつなげることが、日本の将来を創る。


ゴスロリファッション
世界に“逆輸出”が進む クールジャパンの申し子

海外進出年:2010年(アンジェリックプリティ=米国、フランス) 価格:フルコーディネートで3万~4万円程度(プトマヨ) 進出国・地域:6~7(プトマヨ、セレクトショップ含む)(写真:古立 康三)

 中世の西洋を思わせる独特の世界観のファッション「ゴスロリ」が、人気を集めている。ゴスロリとは「ゴシック・アンド・ロリータ」の略語。東京・原宿などで、レースやフリルのついた黒いドレスをまとった若い女性を目にしたことがある人も多いだろう。海外発にも思えるが、日本で生まれ育った、れっきとしたジャパンブランドである。

 老舗のロリータブランド「アンジェリックプリティ」を持つブティックaは2010年、サンフランシスコとパリに相次いで出店。特に好調なのは米国で、今期の売り上げは前の期に比べ2倍超。「リピーターも多く、メキシコやブラジルからもお客様が来る」(本多洋子社長)。

 ゴスロリブランド「プトマヨ」(写真)を展開するハイパーハイパーは、これまでもセレクトショップ経由で欧米に進出していたが、今年9月、単独店を上海に開業。シンガポールにも10月27日にオープン予定だ。「ゴスロリを『日本発のブランド』と認識して、その文化をリスペクトしている人がとても多い」と早川千秋社長は話す。

 電機などハードメーカーの海外戦略が踊り場を迎える中、日本のソフト産業への期待はこれまでになく高まっている。


渋谷109系ファッション
「ギャル系」人気はいまだ健在 中国100店体制を目指す

海外進出年:2006年(香港) 価格:1万9992円(右写真下のマウジーのジャケット) 進出国・地域:香港、台湾、中国

 ギャル系ファッションの聖地として君臨する「渋谷109」。海外でも「セシルマクビー」「エゴイスト」など109系ブランドの知名度は依然として高い。このブランド力を生かして、世界に打って出る企業も増えてきている。最も積極的な1つが、「マウジー」「スライ」などの人気ブランドを持つバロックジャパンリミテッド。現時点で同社の中国直営店は計19店舗。来期には中国本土を中心に100店舗まで拡大する方針だ。

 同社が心がけているのは、「日本ブランド」を強く打ち出さず、グローバルブランドとして展開している点。日本のファッションは海外でも通用すると言われるが、価値観を押しつけるのではなく、柔軟性を持つことが必要かもしれない。


geografia(紙製の地球儀)
MoMAが認めた紙製地球儀 将来への不安がヒット生む

海外進出年:2009年(MoMA通販のコレクションとして独占販売開始) 価格:2520円(ブランクのLサイズ=日本)、海外では55ドル程度(約4300円) 販売国・地域:欧米、中東、アジアなど23(写真:竹井 俊晴)

 地方の中堅企業が作った紙でできた地球儀が、知育玩具やインテリアとして高く評価されている。香川県三豊市のマルモ印刷が開発した「geografia(ジオグラフィア)」だ。創業93年と歴史は長く、地元の広告印刷などを手がけてきた。だが、印刷業として、このままでは先がないと考えた奥田章雄社長が2007年、オリジナル商品の開発に着手した。

 東京のデザイン会社に依頼して、提案されたのが紙でできた地球儀。奥田社長は当初から海外で評価される商品を目指し、初期段階からニューヨーク近代美術館(MoMA)のミュージアムショップのバイヤーに送った。色のついていない地球儀にして自分好みに色を塗れるよう商品を改良。MoMAに認められて人気に火がつき、現在は23カ国に広がる。社長の危機感が、世界が認める新製品を生み出した。


「ブローニング」の猟銃
木と金属を知り尽くし 工作機械以上の精度

海外進出年:1960年 価格:1000~6000ドル(約8万~47万円、米ブローニングの価格) 販売国・地域:12(写真:山下 隆文)

 スポーツとして欧米で根強い人気を持つハンティング。高知県南国市のミロクは、愛好者が絶大な信頼を寄せる米猟銃ブランド「ブローニング」製品のほぼ半分を受託生産する。重要な生産工程は手作業。弾の命中率を少しでも上げるため、職人が銃身の微妙なズレを修正する。また、火薬が漏れないよう、木製の銃床と金属部分をピタリと合わせる作業も職人技。木と金属の伸縮率の違いを考慮しながら、工作機械以上の精度を出す。現在の主力製品は、銃口が上下に並ぶ2連銃。1日に約100丁を生産する。

 その技術力は別の商品にも生かされている。グループ会社では、トヨタ自動車の「レクサス」向け木製ハンドルを生産。独特の風合いにファンも多い。


クラフトビール
国際大会チャンピオン 世界が惚れる地ビール

海外進出年:2001年(米国に輸出開始) 価格:380円(常陸野ネストビール ホワイトエール) 販売国・地域:米国、英国のほか南米、北欧など17

 再びブームとなっている地ビール。1996年から質の高い地ビールを造り続け、世界から称賛されているメーカーが茨城県那珂市に本社を置く木内酒造だ。190年に及ぶ酒造の老舗だけに、ビール造りも片手間では済ませない。米国から技術者を招聘して本格的な指導を受け、麦芽や水など素材にこだわる。

 同社の「常陸野ネストビール」は2002年に英国で開かれた国際ビール大会で総合チャンピオンに選ばれ、世界一の称号を得た。その後も名だたるビールコンテストで金メダルを受賞。2001年、米国に輸出を始めて現在は17カ国に広まった。規模の大小に関係なく、高品質な商品を作れば世界が評価する。木内酒造がそれを体現している。


LEDランタン、テント
本場が認めるアウトドア用品 ユーザー視点のモノ作り

海外進出年:1996年(米国に現地法人を設立) 価格:89.95ドル(約7000円、LEDランタンほおずき) 販売国・地域:米国、韓国、欧州、オセアニアなど

 元は海外の文化ながら、日本独自の製品開発が奏功し、海外で高く評価されるものもある。新潟県三条市に本社を置くスノーピークのアウトドア製品は、本場の米国でも人気が高い。売れ筋はLED(発光ダイオード)を使ったランタンで、特に評価が高いのが2010年に発売した「ほおずき」(写真左)。従来は白色LEDの製品ばかりだったが、ほおずきは暖色系の光を放ち、風や音に合わせて光がゆらぐ機能をつけた。自然の炎に近い演出で、キャンプ愛好家に人気だ。米国のほか韓国に現地法人を置き、現地のニーズに合わせた製品開発も行う。


Mume(ホテル)
外国人観光客が大絶賛 開業3年で“サービス日本一”に

開業年:2009年 価格:2万1000円~(1人1室、朝食込み) 進出国・地域:日本

 東京の高級シティーホテルを押しのけ、グローバルの旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」で「ベストサービス部門1位」に輝いたのが、京都の祇園白川沿いに佇む「Mume」だ。客室はわずか7部屋。2009年開業と歴史は浅いが、今では宿泊客全体の8割が外国人だ。高評価の理由は接客。例えば料亭に向かう客に店の外観の写真をプリントしたり、他県に行く客には時刻表を出したりと、労を惜しまず対応する。スタッフは全員ホテル未経験者。マニュアルもないが、先入観がないからこそ、細やかなもてなしが実現できるのかもしれない。


消防車
世界で伸びるはしご車需要 安全設計が信頼生む

海外進出年:1970年(タイに輸出開始) 価格:約1億5000万円(30mはしご車、国内価格) 販売国・地域:中国など約60

 消防車を作り続けて100年以上の歴史を持つモリタホールディングスは、国内でははしご車をほぼ独占。ポンプ車でも過半のシェアを握る。海外進出は1970年のタイ輸出からで、その後はアジア各国に売り出した。これまでに世界60カ国近くで販売実績がある。

 モリタの強みは、ハードからソフトまでを一貫して作る点と、高い安全性機能。消火現場では混乱が生じやすいため、誤操作によって隊員の安全が脅かされることもある。誤操作時にはしごが自動停止するソフトウエアを組み込む。また、同じ場所にはしごを何度も上下させる際に使う、メモリー機能も完備し、作業効率が良い。消防現場での徹底したヒアリングによる、きめ細やかな製品開発が生きている。


キリン フリー
世界初の「0.00%」 太平洋を渡る

海外進出年:2011年(米国) 価格:1.89~1.99ドル(約147~155円、334ミリリットル瓶) 販売国・地域:米国

 世界初の「アルコール0.00%」として誕生した「キリン フリー」。昨年秋に米国市場の開拓が始まった。

 米国にも“ノンアルコールビール”はあるが、いずれもアルコール度数は0.5%程度。日本ではドライバー向けの印象が強いフリーだが、「米国では健康上の理由で飲む人が多く、カロリーの低さに対する評価も高い」と海外事業推進担当の芦田正和氏は手応えを口にする。


新幹線
“高速”は真似できても、“安全”はできない
世界に類を見ない高速大量輸送体制

営業開始年:1964年(日本) 価格:未公表 販売国・地域:未定

 1964年開業の東海道新幹線。そのすごさは、速度だけではない。電力消費量(時速220km走行時)は初代「0系」のほぼ半分に。走行時の振動や騒音も大幅に減らした。来年2月に登場する新車両「N700A」は、安全性をさらに向上。地震発生時に車両が停止するまでの距離を前モデルから1割短縮した。1日の運行本数が約330本と、世界で類を見ない高速大量輸送体制は徹底した安全管理があってこそ。車両を含めた運行システム全体を米国などに売り込む。


Wii U
コントローラーにタッチ画面 新操作のビデオゲーム機

海外進出年:2012年11月予定(米国) 価格:米国で「Deluxe Set」(写真)が349.99ドル(約2万7500円)、 「Basic Set」が299.99ドル(約2万3500円) 販売国・地域:日本、米国、欧州など

 家庭用ゲーム機市場を牽引してきた任天堂が今年末、新たな据え置き型ゲーム機を発売する。「Wii U」はコントローラーに6.2インチ液晶タッチスクリーンを搭載。テレビと別の画面を表示して新たな遊び方ができたり、テレビ画面と同じ画面を映すことで家族がテレビ番組を見たい時もゲームを継続したりといったことが可能になる。「Wii」や「ニンテンドーDS」でゲームの裾野を広げた同社の新たな提案に、世界のゲームファンが胸を躍らせている。


宅急便
世界駆けるクロネコ 「クール宅急便」も

海外進出年:2010年(シンガポール) 価格:6シンガポールドル(約383円、縦横高さの和が60cm以内で25kg以下の場合) 進出国・地域:台湾、中国、シンガポール、香港、マレーシア

 「宅急便」の海外展開は約10年前に台湾進出を果たしてから。2010年からペースを加速し、シンガポール、上海、香港、マレーシアと立て続けに進出してきた。ドライバーが営業を兼ねる「セールスドライバー」や「クール宅急便」など、日本で培ったサービスやそのノウハウを、そのまま持ち込み、現地の運送業者とは一線を画す。


カンデオホテルズ(ビジネスホテル)
最新鋭ホテル、海外へ 日本の「当たり前」でも勝てる

海外進出年:2013年予定 価格:160万~213万ドン程度(約6000~8000円) 進出国・地域:ベトナム

 日本の「当たり前」が、海外では十分通用する。これを今後証明してくれそうなのがビジネスホテルだ。ビジネスホテルチェーンの「カンデオホテルズ」は来年、ベトナム・ハノイに海外1号店を開業する。価格は日本と同じ約6000~8000円で、大浴場や和食の朝食を用意。部屋の清潔さや空調機器なども、日本と同じクオリティーを貫く方針だ。

 「日本で鍛えられたサービス業は十分に競争力がある」と穂積輝明社長は自信を見せる。日本のビジネスホテルが、今後の“輸出産業”に育つ可能性は十分にある。


つけまつ毛
日本独自のツケマ文化 アジアで花開く

海外進出年:2011年(中国に直営店をオープン) 価格:19元(約237円、1ペア) 販売国・地域:中国、シンガポール、韓国など

 「ギャル文化」の成長とともに多種多様な商品が開発・販売され、「ツケマ」が一般名詞化したつけまつ毛。化粧雑貨などの企画、製造販売を行うSHO-BIは今年8月、中国内陸部の都市、成都に同国内で2店舗目の化粧雑貨直営店をオープンした。

 同社の直営店では、購入者に美容部員がツケマをつけてあげるサービスを実施している。これにより、20代女性が多く利用するようになったという。ツケマに興味はあるが、つけ方が分からなかったり、どうつければ奇麗に見えるのか不安に思ったりする女性が少なくない。顧客の潜在的なニーズをくみ取った結果、韓国や中国製の安いツケマ売り場を尻目に、SHO-BIの売り場には若い女性が行列を作って待っている。


漫画カメラ
1週間で100万DL 写真がたちまち漫画に

海外進出年:2012年9月 価格:無料 販売国・地域:世界

 iPhoneのカメラを向けてボタンを押すと、撮影した人物が漫画になる。ツイッターなどでの口コミで人気となり、9月11日の公開から1週間で100万ダウンロード。現在は200万ダウンロードを超えた。日本文化の漫画と最新技術を使ったアプリを、高いレベルで融合させた。漫画化した写真はスーパーソフトウエア東京代表の舩木俊介氏(左)とプロジェクトマネージャーの渡部隼人氏だ。


フリクションボール・ジェットストリーム
文具の世界で新しい文化創造 付加価値のある製品で市場を牽引

(写真左・フリクションボール)海外進出年:2006年(フランス) 価格:3ユーロ前後(約304円、欧州) 販売国・地域:100以上
(写真右・ジェットストリーム)海外進出年:2003年(米国) 価格:2.5ドル(約196円、米国) 販売国・地域:米州、欧州、アジア
(写真:竹井 俊晴)

 「文具の世界に全く新しい文化と市場を創造した」。こう評価されているのは文具大手パイロットコーポレーションが開発した、書いて消せるボールペン「フリクションボール」だ。2006年の発売以来、日本を含め世界で累計4億5000万本近くを売った。三菱鉛筆が2003年に米国で発売した、書き味の滑らかな油性ボールペン「ジェットストリーム」も各国でヒットを飛ばす。高付加価値文具は日本の独壇場だ。


アニマルラバーバンド
“2000万匹”が世界30カ国へ デザインで生まれ変わった輪ゴム

海外進出年:2002年(米国) 価格:315~630円 進出国・地域:約30(写真:竹井 俊晴)

 今から数年前。米国やフランスの小中学生の間で空前の大流行を巻き起こしたのが、動物や恐竜などをかたどった「シリーバンズ」。この商品の原型を作ったのが日本のアッシュコンセプトとパスキーデザインだ。2002年から米国で「アニマルラバーバンド」を販売。これを模倣したのがシリーバンズだった。同商品が生まれた理由を、アッシュコンセプトの名児耶秀美社長は「輪ゴムをデザインの力で生まれ変わらせて、モノを大切にする考えを広めたかったから」と語り、本家も世界約30カ国で累計2000万本売るヒット商品となっている。


ABCクッキングスタジオ
レシピを現地風にアレンジ 働く女性など中間層が通う

海外進出年:2010年12月(中国進出年) 価格:570元(約7125円、料理教室3回分) 進出国・地域:中国

 日本流の料理教室が中国に広まりつつある。国内では全国に116の教室を構えるABC Cooking Studioは2010年に中国の上海に進出。主婦だけでなく、仕事帰りの働く女性にも好評だ。ターゲットは中間層。経済成長とともに収入も増え、生活が豊かになったため潜在顧客はまだ多い。現在、上海に3店舗を構え、生徒数は3000人を超えた。先月には北京に初進出し、さらなる拡大を図る。中国だけで年明けまでに6店舗まで増やす計画だ。


新華錦・長楽国際有料老人ホーム
まるで高級ホテル 老人ホームを中国輸出

海外進出年:2012年(中国・青島) 価格:月額1万元(約12万円)~ 進出国・地域:中国

 介護大手のロングライフホールディングは今年3月、中国・青島に現地企業との合弁で「新華錦・長楽国際有料老人ホーム」を開設した。海や山が一望できる眺めのいい27階建て全161室の施設はまるで高級ホテルのような佇まい。少子高齢化が急速に進む中国に、日本で培ったきめ細やかな介護サービスを武器に打って出た。今年12月にはインドネシアで合弁会社を設立し、進出することが決まっている。


超小型車(コムス)
高齢者に優しいクルマ 世界の新・移動手段に

販売年:2012年7月(日本) 価格:66万8000円~ 販売国・地域:日本(写真:新関 雅士)

 10月上旬に開かれた電機・IT(情報技術)の見本市「シーテックジャパン2012」。初出展したトヨタ自動車は、超小型1人乗りEV(電気自動車)「コムス」を改造したコンセプトモデルを公開した。車体前方のセンサーが運転手の手の動きを検知、ドアが自動で開く。車内では音声案内が流れ、クルマと対話しながら目的地の設定ができる。

 コムスは、トヨタ傘下のトヨタ車体が7月に発売。高齢者を中心に、1日10km程度の近距離移動で使うことを想定したクルマだ。国土交通省は、こうした超小型車のための新たな車両区分を設けることを検討中。小型車に強い日本の自動車メーカーは超小型車でも世界を席巻できるか。

日経ビジネス2012年10月15日号 68~76ページより

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