フォルクスワーゲンが、主力車種「ゴルフ」の新モデルを発表。2018年までにゴルフの車台を40車種、400万台で共有する。経営効率を高め、品質と環境性能で他社を抜き世界一を目指す。

 「ドイツ車らしい高い品質だ。情報が少ないから急いで調べないと」。ある日本車メーカーの技術者は、スーツのまま床に這いつくばり、クルマの下を覗き込んでデジタルカメラのシャッターを何度も切っていた。

パリモーターショーで新型ゴルフを発表するVWのヴィンターコーン社長

 9月27日に始まったパリモーターショーでは、独フォルクスワーゲン(VW)が4年ぶりに投入する新型「ゴルフ」に注目が集まった。ゴルフは、欧州で「Cセグメント」と呼ばれる小型車市場で、品質や機能のベンチマークとされているクルマだ。VWの開発担当のウルリッヒ・ハッケンベルク取締役は、「新型ゴルフでライバルとの差を広げることを狙った」と明かす。

 現行モデルに比べてサイズを大きくした一方で、設計から生産技術まで見直して重量を約100kgも軽量化した。欧州で今秋、発売する排気量1.6リットルのディーゼルエンジンを搭載したモデルのCO2(二酸化炭素)排出量は99g/km。これは、トヨタ自動車がパリで発表して来年1月から納車が始まる新型「オーリス」(排気量1.4リットルのディーゼル車)とほぼ同じ水準だ。

 来年夏にも発売する低燃費技術「ブルーモーション」を搭載する新型ゴルフ(ディーゼルエンジン)では、CO2排出量はさらに85g/kmまで下がり、トヨタの「オーリス・ハイブリッド」の同89g以下/kmを下回るという。VWグループのマルティン・ヴィンターコーン社長は、新型ゴルフを「安価で消費者の手に届く最先端技術」と胸を張る。

 だが、こうしたカタログ値の性能以上に競合にとって脅威となるのは、VWグループの設計及び生産の戦略が大きく前進したことだ。その核となっているのが、同社が「MQB」と名づけた新型プラットホーム(車台)である。

クルマ作りの標準化で強気

 VWグループは、ゴルフだけでなく、独アウディやスペインのセアト、チェコのシュコダなどグループ傘下のブランドでもMQBを共有する方針で、Cセグメントより一回り小さいBセグメントの「ポロ」、より大きいDセグメントの「パサート」など、異なるサイズの車種でも活用していく。

 VWグループは2018年に年間販売台数1000万台を達成し、世界首位を狙うが、その時点で約40車種、合計350万~400万台がMQBを使ったクルマになる見込みだ。

 MQBは、設計ルールをブランドの枠組みを超えて標準化する役割を担う。例えば、従来はエンジニアが好き勝手に設計した結果、エンジンを車台に載せる位置や方向が、ポロやゴルフなどグループ内の車種で約250通りに分かれてしまっていた。それを、MQBの活用で2通りへと激減させる。

 MQBによる部品の共有化率は約7割に達し、生産効率は従来より2~3割向上する。この新生産システムをドイツの本社工場を皮切りに世界の工場に展開する。ロボットなどの生産設備を共通化することで、設備調達のコストも引き下げる。MQBを使えば、同じ生産ラインで異なる車種の生産も容易になるため、需要に応じて生産する車種を臨機応変に変更して、工場の稼働率向上に生かしたい考えだ。

 MQBはPHV(プラグインハイブリッド車)やEV(電気自動車)にも対応できる。そのため、VWは市場の立ち上がりを見つつ柔軟にPHVやEVの生産量も増やしていく方針だ。

 VWは欧州危機にもかかわらず、今年は8月までに591万台を出荷、通年では昨年の連結売上高1593億ユーロ(約15兆9300億円)を上回り、営業利益は昨年と同水準の113億ユーロ(約1兆1300億円)を達成する見通しだ。世界経済に逆風が吹く中、新型ゴルフはVWにとって世界首位への野望達成に向けた強力な武器になりそうだ。

(ロンドン支局 大竹 剛)

日経ビジネス2012年10月8日号 128ページより目次

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