二人三脚で歩んできた百貨店とアパレルメーカーの関係に変化が生じている。既存の取引先から離れる百貨店と、自ら売る力を模索する大手アパレル。「共依存」とも言える関係を築いてきた両者は、それぞれ自立できるのか。

 7月27日、関東有数の大型商業施設「佐野プレミアム・アウトレット」に、ある店舗がオープンした。「ISETAN OUTLET STORE」という、三越伊勢丹のアウトレット業態である。昨夏、実験的に期間限定でアウトレット店を出していたが、常設店舗を構えるのはは初めてのことだ。

伊勢丹のアウトレット店(右)。高級化粧品の小型店を駅ビルに出す試みも始めている(左)(写真2点:山本 琢磨)

 店内ではカットソーやパンツ、バッグや靴が30~50%オフなどの値引き価格で販売されている。これに大手アパレル幹部は憤る。「我々には自由な値引きも許さない。それなのに百貨店が自らアウトレットに出店するとは」。

 百貨店業界の苦戦が続く中、三越伊勢丹ホールディングスは再生を目指して様々な挑戦を始めている。その代表が、百貨店独特の取引制度である消化仕入れの見直しである。「百貨店業界はこれまで、あまりにもリスクを取らずにきた。それを続けてきたがために、百貨店同士や他業態との同質化が進んでしまった」と三越伊勢丹ホールディングスの大西洋社長は振り返る。

 改めて顧客と向き合い、顧客の求める商品を並べる。そのためには、メーカー頼りだった商品構成にメスを入れ、リスクを取って買い取り商品を増やしていく。大西社長の判断で、同社は抜本的な仕入れ構造改革を進めてきた。現在の買取比率はおよそ10%だが今後はこれを20%まで引き上げる。

 だが、買い取り商品やオリジナル商品が増えれば、在庫を抱えるリスクも増す。商品を消化するには在庫処分の役割を果たす売り場が欠かせない。それがアウトレット業態だ。

 三越伊勢丹がアウトレットに常設店を構える。これは、同社が本腰を入れて仕入れ構造改革に踏み切った覚悟の表れにほかならない。

 百貨店業界は15年連続で、売上高が前年を割り込んでいる。百貨店をメーンに商品を納入する大手アパレルも、百貨店の凋落とともに苦戦を続ける。消費者の百貨店離れには様々な要因が論じられるが、最大の理由は、消化仕入れに代表される百貨店特有のビジネスモデルが限界を迎えつつあることにある。

 消化仕入れでは、百貨店側は在庫リスクを負わない。そのため、季節や流行によって売れ行きが左右される衣料品でも、ロスを気にせず色柄・サイズを揃えられる。買い取り仕入れでは、売り切れるまで商品を並べなくてはならず、売り場の鮮度や旬は出しづらい。在庫処分に追われて値引き販売が常態化すれば、百貨店の目指す上質で感度の高い売り場は実現できなくなる。

 一方、アパレル側にとって百貨店で売るメリットはその集客力にある。売り場に商品を並べれば、百貨店のブランドと立地でお客が来てくれる。年2回のバーゲンをはじめ、季節に応じた販売促進やイベントで来店客を呼び込む力もある。

 両者の思惑が一致し、百貨店業界では特殊な取引制度が続いてきた。そしていつしか、百貨店側は商品の選定や販売員の配置さえメーカーに任せ、売り場の同質化が進んでいった。消化仕入れ特有の低い利益率は、売上高が落ちるほど百貨店とアパレルメーカーの首を絞める。利益を確保しようとすれば商品は割高になり、競争力は一層衰える。こうした構造の歪みが、「百貨店離れ」の根底にはある。

 ビジネスモデルそのものを根底から変えなければ生き残れない。百貨店不振に危機感を抱く百貨店とアパレルメーカーは、互いに次の手を打ち始めた。

「脱大手アパレル」進める百貨店

10月にグランドオープンした大丸東京店には、百貨店初出店のブランドも多い(写真:共同通信)

 「本当にここが百貨店なのか」

 9月3日、グランドオープンに先駆けて開業した大丸東京店増床フロアの売り場を見た関係者はこう口にした。

 3~5階の「セレクトファッショントーキョー」には、これまで百貨店で見かけなかったブランドがずらりと並ぶ。ユナイテッドアローズやシップス、トゥモローランドといったセレクトショップ、ZARAやバナナ・リパブリックなどの欧米SPA(製造小売業)、ローズバッドやナノ・ユニバースなどの国内新興ブランド…。「お客様の求める、東京で旬のブランドを集めたら、こんなラインアップになった」と大丸松坂屋百貨店営業本部の竹原幹人・ショップ運営第1統括部長は話す。

 大丸松坂屋百貨店を傘下に持つJ・フロントリテイリングは奥田務会長が大丸の社長に就任した1997年から、百貨店の構造改革を進めてきた。特に2009年に開業した大丸心斎橋北館以降は、新しいビジネスモデルの売り場を作ってきた。

 これまで、百貨店にセレクトショップや国内外のSPAブランドが入らなかった裏側には、取引条件の悪さがあった。通常、アパレルメーカーが百貨店に出るには、消化仕入れ契約で、メーカー側の納入価格は販売価格の6割程度となる。残る4割が百貨店の取り分だ。だがこの条件では、利益率の低いブランドが百貨店に出るのは難しい。

 そこでJ・フロントリテイリングは、一部の売り場で納入価格を販売価格の8割程度まで高め、業務の効率化によって収益を補う構造改革を進めてきた。ファッションビルや駅ビルと同じ感覚で百貨店に出るブランドが増えると見込んでのことだ。

 大丸東京店でも、「既存の大手アパレルの掛け率(販売価格に対する納入価格の比率)は65%だが、人気ブランドは85%。出店するために随分と条件面のハードルも下げている」と関係者は打ち明ける。人気セレクトショップでは、同じような条件で、ほかの百貨店にも売り場を構えるという。

 百貨店側にとって、条件の変更は好ましいことではない。だがそれでもハードルを下げるのは、大手アパレルが展開する既存の百貨店ブランドが、消費者にとって魅力的でなくなったためだ。「どうしてもこのブランドが欲しいと店を訪れる来店客がどれほどいるのか。どの百貨店にも同じようなブランドが入って、どれもが魅力に欠ける」と大手百貨店幹部は不満を漏らす。

 改めて顧客を呼び戻すため、J・フロントリテイリング以外の百貨店も、新ブランドの導入に力を注いでいる。百貨店が、大手アパレルから少しずつ距離を取り始めたのだ。

 当然、百貨店のこうした動きはアパレル側にも影響を与える。

問われるアパレル側の「売る力」

 「おたくのブランドで入れたいものはありません」

 渋谷駅前の「渋谷ヒカリエ」やお台場の「ダイバーシティ東京」など、今年、東京は大型商業施設の開業ラッシュに沸いた。これらの衣料品フロアへの出店交渉を進める中で、大手アパレルの営業責任者は、幾度かこのような言葉を投げかけられた。交渉の末、いくつかのブランドを入れることはできたが、「我々の置かれた状況は極めて厳しい」と愕然としたという。

 現在、衣料品業界で消費者の支持を集めるのは、百貨店の中にあるような、大手アパレルのブランドではない。ユナイテッドアローズやビームスといったセレクトショップ、ギャル系のバロックジャパンリミテッドやジャパンイマジネーション、クロスカンパニーやポイントなどの新興SPAである。これらの企業はどれも、ファッションビルやSC(ショッピングセンター)を中心に店を出し、前年比2ケタ以上の成長を続けている。

 両者の違いを、ファッション業界に詳しいコンサルティング会社・ジェネックスパートナーズの河合拓取締役は「売る力の差」と分析する。

 ファッションビルやSCでは、ショップ運営はアパレル側に委ねられる。値引きの自由度も高いため、動きの悪い商品は早々に値下げして売り切ることもできる。どんな商品が好まれ、何が売れないのか。日々の接客や販売実績を通して、ショップ側は消費者のニーズを手に取るように知ることができる。これを機動的に商品作りに反映し、旬のアイテムを売る、いわばBtoC型の商品作りで成長を続けてきた。

 一方、百貨店を中心に展開してきた大手アパレルが重視するのは、百貨店にいかに多くの商品を納入し、どれだけ広い売り場を確保できるかということだ。「消費者ではなく、百貨店のバイヤーを見続けてきたBtoB型の発想が、消費者が離れてしまった大きな要因」と河合氏は指摘する。

 アパレル側も無策ではない。顧客層を広げるため、毎年いくつもの新ブランドを立ち上げる。しかしそのうち、消費者に受け入れられて市場に残るものは極めて少ない。一方、セレクト大手のユナイテッドアローズがこの4年で出した大型ブランドはゼロ。それにもかかわらず成長を続けるのは、消費者の声に応え、常に新しい「売り場」を作ってきたからだ。

 ユナイテッドアローズは昨年から、駅ナカや空港などにも進出している。これまで避けてきた百貨店にも出て、新たな需要を掘り起こし始めた。「販路によって求められるものは違う。これに応えられれば、百貨店や駅ナカのような狭い売り場でもビジネスチャンスは格段に広がる」とユナイテッドアローズ・UA本部の太田勝哉ウイメンズ商品部長は期待する。

 貪欲に売り場を生み出し、消費者の声に応えていく――。セレクトショップや国内外のSPAは販売力に磨きをかけて、衣料品市場を席巻する。

 「確かにアパレル業界では、百貨店に置かせてもらうことで売り上げを作るというBtoB意識が高かった。だがもはやその感覚では通用しない。我々も意識を変え、消費者と向き合った商品や売り場を作り始めている」と三陽商会の岩田功・経営企画室長は話す。

 三陽商会は2010年から、販売力を磨くために、接客技術を競うロールプレイングコンテストを開催している。2011年以降は営業体制を刷新し、来店客の反応を商品作りに生かし体制も整えた。売り場で拾った消費者の声を機能的に吸い上げて商品作りに反映する仕組みを構築した。

 オンワード樫山や三陽商会、レナウン、フランドルなどのアパレル各社は、売上高における百貨店の割合が8割近くを占めている。だが百貨店側が大手アパレルから距離を取りつつある今、百貨店だけに頼って生き残ることは至難の業だ。そこでようやく、ビジネスモデルの刷新に乗り出している。

 「出してみると、予想もしなかった可能性が見えてきた」。TSIホールディングスの廣瀬啓二・営業本部長は、今春に出した新業態店についてこう話す。4月14日、新東名高速道路の開通と同時に上下集約サービスエリア「ネオパーサ清水」が開業した。ここにユナイテッドアローズと並んで、同社のセレクトブランド「フリーズショップ」の新業態店を構えた。

TSIホールディングスでは、海外セレクトブランドの誘致も始める(上)。ネオパーサ清水にオープンした同社の新業態(下)(写真:山本 琢磨)

 TSIホールディングスは、大手アパレルの中でも、早くから百貨店以外の販路開拓に力を注いできた。現在の売上高に占める百貨店構成比は3割台。それでも新業態を出すたびに、新興勢力の販売力に驚かされるという。「清水のユナイテッドアローズでは、高速道路専用のオリジナル商品まで作って売っている。この姿勢を見習わなくては」と廣瀬部長は話す。

 アパレル各社はここにきて、急速に百貨店以外の販路開拓に乗り出している。中国などアジア市場への進出や、国内のアウトレットモールやEC(電子商取引)サイトへの出店もそのためだ。SCやファッションビル向けブランドを自社開発したり、旬のアパレルを買収して傘下に収めたりして可能性を探っている。だが単に販路を広げるだけでは意味がない。本当の意味で、消費者と向き合い、その声に応えたモノ作り、売り場作りをできるのかが問われている。

 日本の衣料品業界は、この20年で激変した。ユニクロやZARA、H&Mといった国内外のSPAブランドが登場し、セレクトショップなどの新興勢力も台頭した。ルミネなどの商業施設が存在感を高め、「ZOZOTOWN」などのファッション専門ECも力をつけている。

 その間にも百貨店とアパレルは、特殊なビジネスモデルの繭に包まれたまま、進化を拒み続けてきた。だが、それももはや限界を迎えようとしている。生き残るためには互いに依存し合う関係に終止符を打ち、別々の道を歩き始めるしかない。たとえ、それがどんなに険しいものであっても。

日経ビジネス2012年10月8日号 96~99ページより

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