(写真:朝鮮通信=時事)

 「うちがラオスに工場を建てたのは、タイでの実績があったから」

 紳士用ワイシャツ大手、山喜の宮本惠史社長はこう語る。同社はASEAN第2の拠点を、首都ビエンチャン郊外に置く。長年タイや上海などで生産してきたが、人件費の高騰を受けて拠点の分散を図った。「ローコスト生産のモデルを確立したかった」(宮本社長)。

 ラオスを選んだ理由は人件費の安さだけではない。ラオス語とタイ語は8割が共通しており、両国人同士は問題なく対話できる。タイ工場で鍛えた現地社員は、工場勤務に不慣れなラオス人を容易に指導できる。地の利もあった。ビエンチャンとタイのバンコクは飛行機で1時間の距離。現地法人のラオ山喜を2005年に立ち上げる時、タイ法人の社員、十数人が応援に駆けつけた。

 山喜にとってラオ山喜は「タイ」プラスワンの拠点と言える。

 アデランスも今年7月、ラオスの協力工場で受注生産のかつらを作り始めた。「タイ」プラスワンの拠点として活用する。人件費が右肩上がりのタイから、毛髪を1本ずつかつらのベースに植える手作業をラオスに移管した。

【1】ラオツムラの渡辺義春社長(右)と、日本への留学経験を持つカムプワン・ソンビライ人事課長【2】主に桂皮と乾姜を育てている【3】山喜の宮本惠史社長(右)と、日本語とベトナム語も堪能なパリナ・インターウォン生産部門長付リーダー【4】ビエンチャンにあるアデランスの協力工場

インフラと輸送コストに課題

 ただし、生産拠点としてのラオスは決してバラ色とは言えない。インフラ、輸送コスト、労働者の習慣など課題が少なくない。

 まず電力インフラが十分ではない。週に何度か、短時間の停電が起きる。山喜の宮本社長は「縫製業の場合、ミシンが止まっても致命傷にならない。だが精密機器やIT(情報技術)機器の工場だと影響は甚大だろう」と指摘する。山がちな内陸国ゆえに、原料や完成品の輸出入にカネと時間がかかる。

 漢方薬最大手ツムラが2010年に設立した子会社、ラオツムラは、労働習慣の課題に正面から向き合う1社だ。同社はラオス南部の都市、パクセからクルマで1時間余りの農村に拠点を置く。そこから4輪駆動車で悪路を走ること30分の地に、大小合わせて3カ所、合計約350ヘクタール(東京ドームおよそ75個分)の農地を抱えている。

 ラオス人の従業員には「毎日職場に通う習慣が根づいていない者が少なくない」(ラオツムラの渡辺義春社長)。このため、突然姿を見せなくなる者が後を絶たない。野菜の価格が高騰すれば自宅の畑作業に精を出す者もいる。

 場所によってはベトナム戦争の爪痕がいまだ残っている点も気がかりだ。ラオスには戦時に投下された不発弾が残っている地域がある。昨年、ラオツムラ近くの寺院で不発弾が爆発し僧侶2人が亡くなった。同社は地雷除去が得意なNPO(非営利組織)らに依頼して、探査・除去を十分に実施した土地から耕作を始めた。

5カ国に囲まれた内陸国
ラオスの主要都市と交通網

それでも安い人件費は魅力

 それでもラオツムラは、農地の規模を将来的に1000ヘクタールまで広げる計画だ。課題はあっても安い人件費は魅力だ。同社は、繁忙期には短期契約の労働者1000人を動員する必要がある。1日7時間働いて日当3万キップ(約292円)というのが周辺の相場だ。乾燥させてから運ぶ生薬は軽く、輸送コストも大きな負担にはならない。

 ラオスへの進出は自社農地を確保しトレーサビリティー(生産履歴の管理)を強化することが狙いだが、同時に、中国リスクの緩和にもつながる。ツムラが生薬の大半を調達する中国市場では、一部の価格が2009~11年に3倍近くになった。天候不順や投機的な買い占めが原因だ。今後をにらめば、反日感情の高まりも予断を許さない。

労働集約型産業に向いている
主な業種の進出適性度を◎ ○ △ × の4段階で評価

農業 
国民639万人の約8割が農業従事者。農薬、農機などの資材は輸入に頼らざるを得ない
アパレル 
手先が器用という国民性を生かせる分野。毎日の工場勤めに慣れず、離職する人が多い
インフラ 
政府は水力発電に力を入れている。ただし中国、タイ、ベトナムの企業が多くを受注済み。日本は道路や水道などに好機ありか
機械 ×
工業団地の開発に注力するが、頻発する停電がネック
外食・小売り ×
大手が進出するには時期尚早か。マクドナルドやスターバックスは首都ビエンチャンにもない

(各種情報を基に本誌が独自評価)

韓国勢は果敢に進出

 消費市場としてのラオスは、日本企業にとってどのような存在なのか。ラオスの1人当たり名目GDPは昨年1000ドルを超えたばかり。国際連合はカンボジアやミャンマーとともに「最貧国」と位置づけている。人口規模でも迫力に欠ける。ラオスの人口は639万人。タイ(6900万人)やベトナム(8784万人)と1ケタ異なる。

 それでも実質経済成長率は、過去6年間7~8%で推移している。山喜の宮本社長の経験はラオス国民の購買力が拡大していることを裏づける。同社長は9月中旬、工場近くの中学校で奨学金の贈呈式に出席した。年に1度の恒例行事だ。今年はカメラ機能付き携帯電話を手にする生徒の姿が数多く目についた。

 消費市場としてのラオスを見る際にも、タイがキーワードになる。「ラオスではタイのテレビ番組が放送されている。ペプシコーラなどタイ経由の輸入品が数多く店頭に並ぶ」。ビエンチャン日本人商工会議所の山田健一郎・事務局長はラオスとタイの緊密な関係をこう説明する。タイで行う広告宣伝はラオスにも波及効果がある。

 ラオスへのビジネス展開で参考にすべきは、新・新興国まで果敢に攻める韓国勢の姿勢だ。ビエンチャン空港の構内には、サムスン電子の空気清浄機や液晶テレビが目立つ位置に並んでいる。11月に開かれるアジア欧州会議(ASEM)に向けて急ピッチで工事が進む市街地では現代自動車のクルマが増えている。今、進出するのは時期尚早なのか。悩んでいるうちに勝負はつきかねない。

(上木 貴博)

日経ビジネス2012年10月8日号 106~107ページより目次