来春、ほぼすべての使用済み家電を対象にリサイクルを進める法律が施行される。携帯電話機などに含まれる貴金属・レアメタルを再利用し、持続可能なモノ作りを目指す。“再資源化ビジネス”は秋田や富山などで軌道に乗り始め、全国に広がろうとしている。

 秋田県大館市。かつて良質の亜鉛や鉛を産出した花岡鉱山の跡地に、県全域から携帯電話機や家庭用ゲーム機などの使用済み小型家電が集められている。その量は2011年度で年間129トン。今年度は300トンに増える見込みだ。

 集めているのは、ここで鉱山を経営していた非鉄大手DOWAホールディングス傘下のエコリサイクル。小型家電を電子基板や鉄スクラップ、アルミ、プラスチックなどに分解・選別し、その多くをリサイクル原料にする。

 特に金、銀、銅などの貴金属が多く含まれ、資源価値が高い電子基板は、同じくDOWA傘下で秋田県小坂町にある小坂精錬に運び、精錬炉で含有金属を抽出する。「電子基板1トン当たり、約200gの金を回収できる。含有量はどんな天然鉱山よりも多い」とエコリサイクルの笹本直人・代表取締役常務は話す。

小型家電は「都市鉱山」の本命

(出所:物質・材料研究機構)
小型家電に含まれる金属価値の品目別ランキング
(注:小型家電リサイクル法の対象予定96品目が、1年間に使用済みとなる国内総量から算出 出所:中央環境審議会)

 事実、世界の平均的な金鉱山の金含有量は1トン当たり5g程度とされる。世界有数の良質な金の鉱脈を持つ住友金属鉱山の菱刈鉱山(鹿児島県)でさえ同40gだから、電子基板の金含有率がいかに高いか分かる。

 天然鉱山ではなく、家電などにいったん加工された有用金属を資源に見立てるのが、「都市鉱山」という考え方だ。工業先進国である日本の蓄積量は当然多い。例えば金、銀で世界の年間消費量の3倍前後。電池材料のリチウム、液晶パネル材料のインジウムなどのレアメタル(希少金属)はもっと多い。

 1985年のプラザ合意によって円高が急速に進み、日本の天然鉱山は価格競争力を失い、次々と閉山に追い込まれた。花岡鉱山も例外ではなく、94年に閉山。エコリサイクルは今、花岡を都市鉱山の集積地として、再び復活させるための先兵役を担っている。

 転機となったのが2001年。テレビ、エアコン、冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機・乾燥機の「家電4品目」の再資源化が「家電リサイクル法」で義務づけられたことで、DOWAは家電リサイクル事業に参入。家電メーカーと共同出資したエコリサイクルが受け皿となった。現在では、北東北3県(青森、岩手、秋田)から家電量販店などを経由して対象となる4品目が持ち込まれている。

 日本は欧米に比べてリサイクルで出遅れている印象が強いが、この4品目の回収率は85%に達する。中古品としてそのまま再利用されるものを母数に含めても7割近い。関係者によると、対象品目の違いはあるが、欧州でも回収率は2~3割、米国では1割程度にすぎない。几帳面な国民性もあり、日本はリサイクル先進国になる可能性を十分に秘めているというわけだ。

 ここに注目したのが環境省。4品目以外の家電では、地方自治体が一般廃棄物として地中に埋め立てるなど最終処分を行うことが多い。ところが、多くの自治体が処分場の確保に苦慮しているほか、埋め立てたとしても酸性雨などによって家電内部の有害物質が溶けて染み出し、土壌汚染を引き起こす可能性もゼロではない。家電すべてをリサイクル対象とすれば、処分場に余裕ができ、環境対策にもなる。

 何より、これまで地中に埋められていた小型家電はリサイクル価値の高い貴金属を多く含む。国がリストアップした小型家電96品目に含まれる金属価値は、1年間の廃棄分の合計で843億円。デスクトップ型パソコンだけで158億円、携帯電話機で106億円だ。まさに、都市鉱山の本命と言える。

 しかも、現在は中国からの輸入に頼るレアメタルが多い。中国の輸出制限が始まってレアメタルの安定調達を懸念する声が高まり、経済産業省も小型家電リサイクルに本腰を入れるようになった。政府は2008年度から、補助金付きの回収モデル事業を開始。その1つに選ばれたのが秋田県だった。

 秋田市郊外の「イオンモール秋田」。この大型商業施設の出入り口に、ペットボトルや発泡スチロールの回収箱と並んで「こでん回収ボックス」がある。「こでん」は小型家電の略で、買い物のついでに不要な小型家電を入れてもらうための箱だ。こうしたボックスが県内約180カ所に置かれている。このほか、粗大ゴミなど一般廃棄物をいったん回収した後に、小型家電だけ抜き取る場合もある。大館市内のエコリサイクルまでの運搬は、同社が担っている。

大手商社などが事業化を検討

 現時点で小型家電を回収する自治体は少ない。だが、秋田県など先行事例での実績を踏まえ、来春には全国に拡大する見通しとなった。8月、国会で「小型家電リサイクル法」が可決・成立し、来年4月に施行されることになったからだ。市町村が認可する一般廃棄物処理業者とは別に、小型家電リサイクルの「認定事業者」を国が認定する。

 エアコンなど4品目の家電リサイクル法との大きな違いは、廃棄時に消費者が負担する2000~5000円のリサイクル料を求めないこと。そして、メーカーにも再資源化の義務を課さない。対象品目が多く、金銭負担は消費者の反発を招くと懸念したほか、前述のように小型家電には高値で売却できる金属が多く含まれていることから「企業がビジネスとして回せると判断した」(環境省リサイクル推進室)。

 運搬や分解・選別、精錬の効率を高めるため、認定事業者にはある程度まとまった地域を任せる。環境省の担当者は「事業者は全国で数社とするのが理想。既に、大手商社などが水面下で検討を始めた」と明かす。

 原料の調達から製品の販売まで、モノ作りの大動脈を担ってきた商社が、廃棄製品の回収から再資源化という、いわば静脈部分も担おうとしているのだ。それは、商社を介してモノ作りが循環することを意味する。日本が大量生産・大量消費型の社会から、限りある資源を有効活用する持続可能社会へと移りつつある中で、モノ作りも大きく進化する可能性が出てきた。

 だが、乗り越えるべき壁もある。

 1つは、リサイクル事業者が安定的に利益を出せる仕組みを構築することだ。秋田県などでのモデル事業の場合、補助金があるため損失の心配はなかった。だが、来春の法施行後は、原則として国の予算はつかない。

 回収する家電は、品目によって含まれる金属の価値のばらつきが大きい。上に掲載した品目別ランキングにあるように、パソコンや携帯電話機など上位10品目の金属価値が、全96品目の8割近くを占める。認定事業者になったものの、プラスチック主体の扇風機や電動玩具など、価値が低い家電の処理費用が膨らむ可能性もあるのだ。

 また、貴金属・レアメタルは商品市況に応じて価格が変動する。市況低迷が続けば、いくら高価値の家電を回収しても、赤字となる恐れもある。

自治体と協調深める「富山モデル」

 結論から言うと、リサイクル事業者の独立採算は可能だ。それを実践しているのが富山県高岡市のハリタ金属。張田真社長は「当社にも自治体にも、利益が残る形で事業を継続できている」と胸を張る。事実、富山県では大半の市町村が小型家電を分別回収しているが、国の補助金に頼っていない。

張田真社長(左)は思い切った設備投資で、リサイクル原料(右)を量産化した

 ハリタ金属は鉄スクラップ会社だったが、大型破砕機を持つリサイクルセンターを富山県射水市に建設し、事業を拡大している。周辺自治体に小型家電リサイクルに取り組むよう働きかけ、北陸3県と、長野県にある30の自治体から小型家電の回収を請け負い、年間約1000トンを処理している。

 ハリタ金属の事業モデルの特徴は、自治体にカネを払って廃棄家電を買い取ることだ。買い取り価格は商品市況などに応じて変動する。さらに、ハリタ金属の方から自治体に出向いて収集・運搬するため、自治体は大きな出費をせずに利益が残せる。つまり自治体にも小型家電を回収するメリットが生まれ、顧客増につながるわけだ。

 一方、ハリタ金属は収集・運搬費がかさむが、それを補うのが分解・選別工程でのコスト削減。射水リサイクルセンターの破砕機では、家電を入れると鉄や銅などの非鉄、プラスチックなどにほぼ自動で選別される。徹底した機械化でコストを下げているのだ。

 量産効果も大きい。取引する自治体数の増加で処理量が増えることに加えて、この破砕機では自動車など小型家電以外の破砕も手がける。このことで、業務はさらに効率化される。

 小型家電リサイクルでは、ハリタ金属のように自治体が参加しやすい環境を整えることが重要だ。なぜなら、法施行後も市町村にリサイクルを実施する義務はなく、あくまで自主的な判断だからだ。政府が昨年12月に実施した自治体向けアンケートでは「実施の意向なし」が、「意向あり」をわずかだが上回った。小型家電を新たに分別回収するとなると、自治体は処理コストが増えると身構えてしまうのが理由だろう。だが、必ずしもそうではない。

 例えば、富山市は市内8カ所に資源物ステーションを設け、近所の人に廃家電を持ってくるようチラシなどでこまめに呼びかける。集めた廃家電はリサイクル事業者に直接引き取ってもらい、コストを最小限に抑えている。

 自治体が事業者に歩み寄ることも欠かせない。事業者が遠く離れた自治体まで収集・運搬に行くと、当然コストが高くつく。そこで、自治体側がある程度まとまった廃家電を保管できる場所を用意できれば、事業者は回収頻度を減らし、コストを下げられる。富山県環境政策課の森友子氏は「例えば、商品市況の低迷が長引けば自治体が廃家電をしばらく預かり、相場が一定の水準まで上がった段階で売却するということも考えられる」と話す。

 つまり、事業者と自治体が密に協調する「富山モデル」をより広範囲な地域に広げれば、国が目指すように小型家電リサイクルの静脈を全国に張り巡らせることが可能となるのだ。

“公害輸出”のそしりも防ぐ

 あとは、消費者の意識をどこまで高められるか。小型家電を新たに分別することに煩わしさを感じる読者も少なくないだろう。秋田県の担当者は「雪が積もる冬は、ただでさえゴミ出しは大変。しかも少子化で高齢者が増えている。正直、どこまで市民に浸透するかは読みづらい」と本音を明かす。

 だが、小型家電リサイクルは日本が長く放置してきた「国際問題」を解決するチャンスでもある。それは有害物質を含む廃家電の不法輸出だ。現状では、日本も締約しているバーゼル条約に違反している恐れがある。

 代表例が電子基板。貴金属・レアメタルだけでなく、鉛なども含有しており、そのまま燃やしたりすると有害物質が拡散する。国内のリサイクル施設では環境対策に万全を期しているが、例えば中国では街角で電子基板をそのまま熱し、金や銅をじかに取り出す業者が少なからずいる。

 そうした業者に渡る電子基板は、実は日本から輸出されたものが少なくないとされる。市町村が一般廃棄物として最終処分するのは小型家電全体の5割以下。それ以外では、不法な回収業者を通じて中国などに輸出されているものが多い、との指摘がある。

 人件費が安く、環境対策に乏しい国では、電子基板などを再資源化するコストも安く済む。この結果、「日本で再資源化する場合の買い取り価格に比べて、4倍近い値段で中国に売れるケースもある」(環境省の担当者)。

中国では、環境対策なしに電子基板を再資源化する業者が少なくない(写真:ロイター/アフロ)

 いわゆる「不用品回収業」が輸出ルートの1つとされるが、消費者から買い取った家電を中古品として再利用する限りは問題なく、摘発は難しい。

 都市鉱山である廃家電の海外流出は、国家レベルの痛手だろう。さらに、流出先で結果的に環境汚染を引き起こしているのなら、“公害輸出”とのあらぬそしりを招く可能性すらある。

 「環境に優しい」ことばかりでなく、経済や外交にも無関係ではないことを訴えることが、消費者のリサイクル意識を高める近道となる。

(伊藤 正倫)

日経ビジネス2012年10月8日号 112~115ページより目次