写真:的野 弘路

 1988年の創業以来、当社は増収を続けてきました。もちろん、何も変えずに成長を遂げてきたわけではありません。中身を変えてきました。我々はIT(情報技術)システムの構築を手がけていますが、10年前は売り上げの5割を公共分野が占めていた。それが今は2割弱。その代わりに、民間企業を対象にした法人分野を伸ばしました。

 法人分野拡大のために私が力を入れたのが、社内の価値観の変革です。5年前に社長に就任してから、顧客に納入するITシステムの「QCD(品質・コスト・納期)」に対する社員の考え方を変えることに腐心しました。

 私が法人分野を開拓する部門にいた頃の話です。流通業のある顧客企業から、お歳暮やお中元の業務を効率化するためのシステム開発を依頼されました。公共分野の仕事では、QCDのうち品質が最優先で、それが当社の強みとなり、数多くの受注を得ていたわけですが、この案件は開発スピードが最優先でした。

 顧客は、多少のコストがかかっても、以前よりも効率よくお歳暮・お中元の業務をさばきたい。それだけ売り上げが増えますから、とにかく早く新システムが欲しいわけです。競争に勝つためにスピード経営を求められている顧客企業のニーズに応え、法人分野を伸ばすには、当社も納期を重視しなければならないと肌で感じました。

 新興国の顧客を開拓するのも同じことです。成長が速い分、新しいシステムを早く動かさないと意味がない。以前、私が担当した中国の顧客に、「最初から完璧なシステムなど必要ない。試作版でも構わないから、新システムを早く稼働させてほしい」と言われたことがあります。品質は確かに重要ですが、商談を獲得するには、たとえ不完全でも成果物を迅速に提供することが重要なのだと知りました。高品質よりも、顧客の要求水準に最適な好品質が求められるのです。

 掛け声だけでなく、システム開発の速度を上げるために様々なことに取り組ませました。海外と日本でチームを分けて24時間体制で開発することも試みました。特に力を入れたのは、ソフトウエアの自動生成です。この研究は、ずっと以前から研究開発部門が実現を目指していたのですが、なかなか成果が出ていませんでした。どんなシステムをも自動生成できる汎用的なツールを作ろうと、難しいことに挑戦し、うまくいかなかったのです。

 ところが3年前、ある開発現場が、自然言語を入力すれば、自動的にソフトウエアを開発できるツールを考案しました。汎用性は高くありませんが、結構優れもので、開発速度も品質も飛躍的に向上しました。まさにイノベーションです。現在、その知見をほかのシステム開発にも応用しています。

 画期的な汎用ツールを作ろうと精鋭を集めましたが、必ずしもうまくいきませんでした。革新は現場が起こすということを痛感しました。でも、ソフトウエアの自動生成を実現させよう、と号令をかけていたことはよかったと思います。そうしなければ、前進はなかったでしょうから。(談)

日経ビジネス2012年10月1日号 134ページより目次

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