東日本大震災の発生から1年半。巨大津波や福島第1原子力発電所事故の影響は今もなお重く被災地の仕事や暮らしにのしかかる。岩手、宮城、福島3県の復興が滞れば、疲弊する日本の他地域の再生も果たせない。

(写真:尾苗 清)

 東日本大震災からちょうど1年半を迎えた9月、宮城県の村井嘉浩知事は県内の水産加工業者を視察した。

 「三陸産のワカメの価格を知事はご存じですか? 重量当たりでは牛肉よりも高価なんです」

 業者の言葉に、同知事は水産業の潜在力、付加価値の高さを痛感した。宮城県の地域経済の現状は厳しい。莫大な復興事業の経済波及効果も限定的で、震災でダメージを受けた1次産業の地盤沈下も止まらない。打開には、新しい発想や試みが急務だ。

 宮城県がその1つと目論むのが、水産特区の活用。三陸の水産物の付加価値をさらに高めるべく、漁業権の免許更新時期となる来年9月までに復興特区を設け、民間企業を呼び込む考え。養殖業者を集約して生産規模を拡大し、漁協を介さない独自の販路で売る構想だ。業者の収入や雇用を安定させ、加工や物流業者も巻き込む「6次産業化」を進める狙いを込める。

 「特区を活用した1次産業の復興や、高齢者が安心して暮らせる街作りによって、国内にも先例のないモデルを作る。それを全国に提示することが、税金によって支援してもらっている我々のせめてもの恩返しだ」。村井知事はこう意気込む。

焦点は雇用・生業の復興

(写真:的野 弘路)

 震災後の人口流出に歯止めをかけるためにも、焦点は雇用の確保に移っている。「インフラの復旧スピードは阪神・淡路大震災の時の2倍と極めて速い。今後の課題は“生業”の部分だ」と、村井知事は語る。

 一括りに被災地といっても、原子力発電所事故で多くの住民が故郷を追われ、気が遠くなるような除染や廃炉作業に取り組まざるを得ない福島県と、岩手、宮城両県とでは政策ニーズに違いが出てきている。

 「岩手、宮城の津波被害地域での復興のポイントは、市街地と住宅の再建、そして高齢者に優しい街作りを併せてやっていけるかどうかだ」。平野達男・復興相はこう強調する。

 津波が直撃した地域の住民を中心に、現時点で約3万戸、10万人以上の住民が高台への移転を希望。市街地整備に関しても、区画整理と土地のかさ上げを伴う数千ヘクタールにも及ぶ事業が想定されている。

 世界でも例がないほどの街の根本的な作り替え作業。これを成し遂げるには、予算やマンパワーなど国による支援に加え、土地利用調整や住民による合意形成といった地域力も試される。

 さらに、もともと高齢化と過疎化が進行していた被災地で医療・福祉などの体制も考慮した新たな街作りも進めば、高齢化先進国ニッポンの最先端の姿になり得る。ピンチをチャンスに変える道を追求すべきだろう。

 一方、今なお原発事故の余波が収束しない福島県の現状はより深刻だ。自宅を離れて避難生活を送る避難者は約16万人に及び、農林漁業の風評被害も拡大。事故で飛散した放射性物質を取り除く除染は長丁場となり、原発の廃炉作業には世界でも経験のない難しい工程が待ち受ける。

フクシマ復興は長丁場に
原発事故の避難地域の被災者・自治体に対する国の方針(グランドデザイン)の概要
  • 目標期間を短期(2年後)、中期(5年後)、長期(10年以降)の3段階で設定
  • 短期では避難指示区域の解除及びインフラの早期回復、生活再開のための環境作り
  • 中期では避難指示解除区域の拡大、産業振興・営農支援の進展
  • 長期では安心して定住できる地域の形成。若い世代が帰還できるよう、新産業、研究・教育機関の集積
  • 対象は福島県双葉郡と周辺の12市町村

「人の流れがない…」

宮城県が目論む水産特区での改革は、豊かな三陸の海に活気を呼び戻せるか(写真:EPA=時事)
(写真:菅野 勝男)

 「福島には人の流れが来ていない」。フラダンスで有名な「スパリゾートハワイアンズ」を運営する常磐興産の斎藤一彦社長は嘆く。民間主導による復興への壁を痛感しており、打開のきっかけとして「人の流れを生むため、国は国際会議の誘致や宿泊施設の整備を進めてほしい」と訴える。

 「避難者への支援、帰還に向けたインフラ整備、新たな産業育成。こうした問題について、国が前面に立って引っ張る責任がある」(平野氏)。9月に復興庁が福島県双葉郡とその周辺の市町村を対象とする国の取り組み方針(グランドデザイン)をまとめたのも、こうした政府としての意識の表れだ。

 そのためには、各省庁の縦割りを超えた補助金や規制緩和といった政策の投入や、地元の意向が迅速に決定できるような制度整備が欠かせない。

 未曾有の震災は、遅々として進んでいなかった身近な地域の再生に向けた住民の意識変革を促すきっかけにもなった。危機対応、産業政策、医療・福祉体制のあり方…。震災でこうした地域の抱える複合問題の根深さが浮き彫りになったためだ。

 地域再生の起爆剤として村井知事が訴えるのが、道州制の導入を視野に入れた地方分権の一段の推進だ。行政、立法、財政の各分野において、地方裁量の少なさが復興のスピードアップを妨げていると見るためだ。

 「通商や外交問題も山積し、中央政府の業務が多すぎて、どうしても政策決定のスピード感に欠ける。内政はある程度、地方に任せてくれれば、地方は地方で考え、何とかする」と村井知事は言い切る。

 地方分権に関しては、「権限と予算を手放すことに抵抗する中央省庁が慎重姿勢」との見方が一般的。だが、国からの地方交付税交付金と補助金頼みの構図に慣れきった自治体側も、本音では分権改革を望んではいないとの指摘も根強い。

 DOWAホールディングスの吉川廣和相談役は「権限を委ねることで、地方を自立・競争させる。過保護な政治で強い地方は育たない」とし、「交付金のバラマキをやめるべき」と訴える。

(写真吉川氏:共同通信、藻谷氏:清水 盟貴)

 地域経済に詳しい日本総合研究所の藻谷浩介・主席研究員は地方再生や地域経済維持のカギとして「コンパクトシティ」の推進を説く。

 ただでさえ税収の確保に悩む自治体が多い中、過疎地や合併によって広がった居住区域をそのまま維持し続けようとすれば、道路や上下水道といったインフラ維持、除雪作業費などに莫大なコストを要するのは必至だからだ。

 「例えば、30年後にこれだけ街を小さくするというビジョンを示し、中心部に住んでもらえるような税制優遇をするなどの取り組みを急ぐべきだ」と藻谷氏は指摘する。

公共投資は効率化の視点で

(注:公共投資は一般政府公的固定資本形成から算出
出所:経済協力開発機構)

 日本は高度成長期以降に公共投資を急拡大したが、財政への配慮などから、左上グラフの通り、ここ数年で大幅に縮小。突出して高かったGDP(国内総生産)に対する公共投資の割合も、現在は欧米並みの水準に落ち着いている。一方、こうした過去の集中投資の反動で、今後20年で全国の社会インフラは一斉に寿命を迎える。社会保障費も増大する中で、分散したインフラの維持・更新のための負担は地方財政を一層苦しめるのは必至だ。

 京都大学の藤井聡教授は「財政余力がまだある今のうちに、デフレ対策も視野に入れつつ、地方都市を効率化させる視点から、道路や鉄道網などへ大規模な公共投資を実施していくべきだ」と主張する。

 想定するのはこれまでのような全国津々浦々への無秩序な投資ではなく、人の流れを生むための交通インフラへの集中投資。地方の中心都市の利便性を高め、人が流入しやすくすれば、藻谷氏が言うようなコンパクトシティが形成しやすくなる。機能を集約した地方都市ができれば、災害時に首都圏のバックアップ機能も果たせるわけだ。

 地域問題という意味では、地方だけではなく、東京など大都市圏を巡る課題も一気にクローズアップされてきた。都市部でも急速な少子高齢化が進む中、住宅を巡る問題への対応も深刻さを増しているためだ。

マンション建て替えは経済に寄与

都市再生や観光振興のためには、外国人を呼び込む政策支援が欠かせない(写真:共同通信)

 特に今後都市部で直面する懸案の1つが、老朽マンションの建て替え問題だ。国土交通省によると、旧耐震基準(1981年以前)のマンションは約100万戸と推計される。いずれ建て替えが求められるが、「区分所有者の5分の4以上の賛成が必要」との要件が壁になり、建て替えはほとんど進んでいない。

 日本大学の山崎福寿教授は「都市の高度利用や経済成長への寄与の観点からも、マンション建て替えの促進を急ぐべきだ」と主張。区分所有者の賛成要件を「4分の3」に緩和することや、区分所有者全員が所有権を手放し、土地・建物を第三者に売却することを決める「解消決議」の導入を提案する。

(写真山崎氏:都築 雅人、和田氏:山本 尚侍)

 既存物件の4分の1が耐震基準を満たさないとされる戸建住宅への対応も急務だ。これについて、積水ハウスの和田勇・会長兼最高経営責任者は時限立法となっている生前贈与の優遇の恒久化や、老朽化住宅の撤去への公費負担を主張。「高齢者から若者への財産移転も促進され、社会の活性化にもつながる」と効用を説く。

 都市の再生には、住環境の改善のみならず、海外からヒト、モノ、カネを引き寄せるための魅力の向上も欠かせない。三菱地所の木村惠司会長は「東アジアの成長、人の流れを取り込む都市政策を打ち出すべきだ」と訴える。

 充実した効率的なインフラを生かし、研究開発や金融関連など海外企業を誘致し、東アジアの玄関口として東京を位置づける考えだ。「法人税の引き下げだけでなく、国が外国人のための医療・教育機関の整備を主導することも必要」と強調する。

(写真木村氏:新関 雅士、澤田氏:笹山 明浩)

 都市と地方の活性化のためにもより注力しなければいけないのが、観光だ。政府は「観光立国」を掲げ、海外観光客の増加策を矢継ぎ早に打ち上げてきたが、震災や原発事故の影響もあり、想定通りの効果につながっていない。

 エイチ・アイ・エスの澤田秀雄会長は「各自治体が個々に広報活動をするため、日本に行けば何ができるのかといった全体的なイメージを外国人は持ちにくい」と分析する。「統一された日本ブランドを海外に打ち出せば、観光資源が豊富な日本は年間1000万人、2000万人といった外国人客の目標値の達成は容易。観光庁は、広報活動のプロ集団を組織し、戦略的に日本の宣伝活動に取り組むべきだ」と指摘する。

日経ビジネス2012年10月1日号 76~79ページより

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