日本が尖閣諸島を国有化したのを引き金にエスカレートする中国の反日行動。外交・安全保障を巡り、日本は数多くの問題にどう対処すべきか。まずは自民党の石破茂・前政務調査会長に聞いた。

(写真:新関 雅士)

 問 日本政府による尖閣諸島の国有化をきっかけに中国国内のデモや海洋監視船が日本の領海に侵入するなど、領土問題が深刻化している。

 答 尖閣についてはいかに中国の主張が誤っているのかを政治家や日本人一人ひとりが理解し、世界に向かって訴えていかねばならない。

 同時に尖閣の実効支配を高めていくべきだ。問われているのは、我が国自身の取り組みと日米同盟の強化だ。我が国としては海上保安庁の能力向上とともに、領空侵犯だけでなく、国際法的に違法な領海侵犯にも自衛隊が対応できるよう法的整備を急ぐべきだ。

「日本のことは日本で」が基本

 抑止力向上のためには、日米同盟の強化、わけても権利や義務の対称化が必要だ。そのためには、日本が集団的自衛権を行使できるようにし、日本でできることは日本でやる態勢を整えねばならない。海兵隊のような部隊の機能も向上させるなど、中国にきちんとメッセージを発し、正面から向き合うことが肝要だろう。

 韓国に対しても、基本は同じだ。竹島問題について、なぜ我が国は竹島を日本の領土と主張するのか、なぜ韓国の主張は国際法的にも、歴史的にも不当なのかということを、例えば世界中の在外公館の大使らを総動員するなどし、明確に発信していくべきだ。

 問 集団的自衛権の行使を可能とする「国家安全保障基本法」の制定を目指す考えを示している。特徴は。

 答 文民統制の徹底を前提としたうえで集団的自衛権の行使を可能にすることが第1点。国の安全保障を防衛省・自衛隊任せにするのでなく、国を挙げて取り組むことを明確にするのが2つ目の柱だ。

 我が国を取り巻く安保環境が激変している今、集団的自衛権の行使について立法の不作為は許されない。この問題については党内で10年以上も議論が尽くされており、自信を持って国会に提出したい。

 問 TPP(環太平洋経済連携協定)交渉参加問題についての見解は。

 答 今の民主党の外交力で交渉できるはずがない。まず政権交代させ、交渉権を我々が持つ。そのうえで、日本に有利な交渉ができるかどうかが大前提だ。いかにして日本に有利なルールを作るかということが必要で、TPPだけの問題ではない。

 そもそもTPPと関係なく、農政改革は必須だ。どのような貿易協定であろうと、「最初に妥結、その後に対策を」というのはダメだ。

 農政に携わってきた者として自己反省を込めて言えば日本の農政は自給率至上主義を捨て、「自給力」の向上を目指すべきだ。農地面積や農家の後継者数、農産物の品質向上などを重視する。自給率はその結果でしかないはずだ。

 生産農家は農協に出荷したらそれでおしまい、という状況を変えていかねばならない。各々の農家がプロとして、ニーズに合ったものを作り、信頼を得る。そんなビジネスとして当たり前の状況にしていくべきだ。

 民主党の戸別所得補償は農業を強くしようと思っての対策ではない。規模拡大につながるような効果を見込み、所得補償する対象を明確にしていくべきだろう。コメの輸出などの道も模索した方がいい。

 日本政府が沖縄県・尖閣諸島を国有化したことをきっかけに、日中間の緊張が高まっている。韓国とは竹島の領有権を巡る対立が先鋭化し、北方領土に対するロシアの圧力も強まっている。領土を巡る摩擦への対処が外交・安全保障上の重要課題に急浮上してきた。

 中国などの対応の背景について、外交専門家の見方はおおむね次の3点に収斂される。(1)民主党政権下での日米同盟関係の揺らぎ(2)各国の経済力の変化(3)各国とも政権交代期を迎え国内向けの政治力学が働く――がそれだ。

(写真:都築 雅人)

 安倍晋三・元首相は特に中国について、「さらなる経済成長のためにエネルギー資源の確保を狙っている。だからこそ、南シナ海、東シナ海へ進出を図り、石油・天然ガス資源が豊富な尖閣にも狙いを定めている」と指摘。「米軍普天間基地の移設問題などで日米同盟が揺らぎ、チャンスと思って攻勢を強めている」と分析する。

(写真:都築 雅人)

 「中国はGDP(国内総生産)で日本を抜き世界第2位となり、超大国としての自信とプライドを回復しつつある。日本との屈辱の歴史を清算しようとしている面もあるだろう。韓国も経済成長を背景に日本に対する自信を深めている」。こう指摘するのは、谷内正太郎・元外務次官だ。

 裏を返せば、経済力、外交力など日本の総合的な国力の低下が中国などの強気の対応につながっているというわけだ。

「対中」へ急務の日米同盟再強化

 では日本はどのように対処すべきか。特に、日本外交にとって最大の懸案である対中関係の対応がカギとなる。

 尖閣問題について、安倍氏は「尖閣に公務員を常駐させるなどして尖閣への上陸は断固として阻止すべきだ」と主張。「日米同盟を再強化し、オーストラリア、インドなど周辺国との連携を強め、『私たちの誇りに手をつけたら絶対許さない』という強いメッセージを中国側に伝えることで紛争は防げる」と話す。

 石破茂・自民党前政務調査会長が36ページのインタビューで主張するように、海上保安庁の能力強化や、領空侵犯だけでなく、領海侵犯にも自衛隊が対応できるように法的整備を急ぐことも選択肢として考えられる。中長期的な対応として、安倍、石破両氏をはじめ、日米同盟の対称化にも寄与する集団的自衛権の行使容認の検討を進めるべきだとの声も相次いでいる。

 さらに、対中外交の基本姿勢として、谷内氏は「エンゲージメント(関与)とヘッジング(保険をかける)」の重要性を主張する。

 前者の柱となるのが、アジア太平洋地域に自由で開かれた国際秩序を構築していくこと。東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス6(日本、中国、韓国、豪州、ニュージーランド、インド)などの経済連携やTPP(環太平洋経済連携協定)のルール作りを日本が主導し、そこに中国が参加できるような環境整備を進めるべきだと説く。

 政府間だけでなく、民間レベルでの交流の活発化も重要だ。

 こうした試みに中国が乗ってこなかったり、海洋秩序を破るような行動をする場合に備え、日米豪などが協調して備えを強めておくというわけだ。

(写真:都築 雅人)

 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所理事長は「日本の将来は東アジアの活力を生かすことができるかがカギ。日本が市場統合や中国との信頼醸成、資源の共同開発といった外交の長期戦略を立て、能動的に動くことが大事」と強調する。

 それに向け、田中氏が重視するのが、外交のプロフェッショナルによる戦略策定機能の強化だ。

 「『米との対等の関係』といった今の民主党政権のような戦略なきキャッチフレーズ外交の限界は明らかだ。専門家である官僚が政治に意見具申できる体制にし、首相官邸に民間の有識者も含めた縦割りを超えた戦略を練る組織を作るべきだ」と田中氏は提案してきている。「情報に基づき、確信をもって大きな絵を描き、日本の総合的な力を活用する。プロによる戦略に基づき政治が力を発揮できるように体制を整備しない限り、外交は立て直せない」と強調する。

日経ビジネス2012年10月1日号 36~37ページより

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