SNS上で政治情報を得る若年層が米国で増えている。大統領選に向け、こうした変化をにらんだ新興メディアが台頭。「検索される」から「シェアされる」へ。読まれ方も変わり始めた。

 米国で政治の情報源と言えばCNNやニューヨーク・タイムズといったメディアが思い浮かぶ。だが、ウェブ開発者のパトリック・マレー氏(24歳)は少し違う。彼は「バズフィード」というニュース収集サイトを愛用し、フェイスブック上で友人と記事を「シェア」している。バズフィードには「殴り合いだとオバマとロムニーのどちらが勝つか」といった冗談半分の記事もあり、マレー氏のようなミレニアム世代*1にとって親しみやすい話題が多い。

*1=定義は諸説あるが、2000年以降に成人になった世代を指す
大統領選をきっかけに、バズフィードでは政治記事を強化している

 11月6日の大統領選投票日が近づくにつれ、民主党のバラク・オバマ大統領、共和党のミット・ロムニー候補の両方の政策や人柄について、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)上での投稿が増えている。既存メディアのサイトやグーグル検索を利用するよりSNSで情報を得る。そんな若者にとってバズフィードは「ホームページ」の1つになっている。

 米ピュー・リサーチ・センターが9月に発表した調査結果によると、SNSユーザーの36%が政治ニュースについていくためにSNSが「非常に重要」「やや重要」と回答している。18~29歳の若年層ではその重要性がより高いという。バズフィードのような新興メディアが政治を重視し始めたのは、こうしたトレンドと軌を一にしている。

 インターネットでの米国のニュースサイトと言えば、ハフィントン・ポスト*2が有名だ。有名政治家や評論家の寄稿もあり、政治好き読者のたまり場になった。検索サイトで上位に表示されるよう最適化する技術が優れているのも成功の要因とされる。それに対し、バズフィードのようなサイトは記事が「ウェブ検索」されるよりも、SNSで「シェア」される方を強く意識している。

*2=2005年にアリアナ・ハフィントン氏が創設したオンラインニュースサイト。2011年に3億1500万ドルでAOLが買収した

フェイスブックも支援に動く

 同サイトを率いるジョナ・ペレッティ氏はハフィントンにも参画していたが、SNSの広がりでネットユーザーに急速な変化が起きていると感じ、バズフィードを立ち上げた。

 SNS上で友人とシェアしやすい手軽な話題を掲載し、目を引く写真やユーチューブの動画などを積極的に貼りつける。当初はライフスタイルや芸能関連の情報を中心に読者を獲得してきたが、さらなる拡大を目指し政治に目をつけた。大統領選を控えた昨年12月には米政治ニュースサイト「ポリティコ」の有力記者をヘッドハントした。

 「政治を強化するのは自然な進歩だった。面白いスクープ記事やオピニオンなどがたくさんある。SNS上でシェアされるにはもってこいだ」。バズフィードの収入部門の責任者であるアンディ・ウェイドリン氏はこう言う。

 起業家やSNSのサービス提供会社もこうした変化に関心を持ち始めた。フェイスブックは8月末、共和党の全国大会開催中のフロリダ州でメディアや投資家を招いたイベントを開催。フェイスブックを利用して政治ネタを提供し始めた起業家を紹介した。こうした「明日のバズフィード」が増え、SNS利用者の情報共有が活発になればフェイスブックにとっても悪い話ではない。

 「ハイパーボーカル」もそのイベントに出展した1社。1年半ほど前に設立されたニュースサイトだ。CNNでプロデューサーなどを務めたリー・ブレンナー氏が立ち上げた。会社はまだよちよち歩きだが、著名テレビショーの元プロデューサーも加わりコンテンツを強化していく考えだ。

 オバマ大統領が誕生した2008年の選挙戦では、SNSが陣営の戦い方を大きく変えたと言われる。あれから4年。有権者、とりわけ若者を中心に、政治ニュースの消費のされ方も、SNSによって大きく変わり始めた。その変化は、新興メディアに新たなチャンスをもたらしているようだ。

(ニューヨーク支局 マイケル・センズィン)

日経ビジネス2012年10月1日号 128ページより目次

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