「稼ぐ経営者」ランキングの全容を、次ページに掲載する。順位づけしてはいるが、このランキングが経営者の実力を完全に示しているわけではない。「運」の要素も大きく影響している。

 今年6月末時点という条件のため、直前に経営者が交代した場合は損益はゼロと計算され、株価の変化幅や変化率もわずかな期間に限られる。例えばソニー、パナソニック、シャープの家電3社は、2012年3月期に薄型テレビの販売不振から巨額の赤字を計上し、株価も急落した。しかし、3社ともに今年、経営トップが交代している。累積利益額は、そろってゼロになった。

 しかし、こうした要素を考慮しても、今回のランキングは一定の傾向を表している。上位に入った経営者は、将来を見据えた目標を掲げ、守りと攻めに着実な手を打っており、株式市場の評価も高い。直面する経営課題に日々、対処しつつも、頭の中では5年、10年先を考えている。リーマンショックのような激動期でも相対的に堅調な業績を維持し、回復も早い。

 注目すべきは同じ業種の企業と比べた順位だろう。ライバルに比べランキングが極端に低い場合、そこには何らかの「ミス」が内在する場合が多い。

 例えば野村ホールディングスは、米リーマン・ブラザーズの欧州・アジア部門を電撃買収した攻めの経営が裏目に出て、2009年3月期に7000億円を超える最終赤字を計上した。今も欧州の債務危機と恒常的な固定費の増加が、業績の重荷になっている。

 ここに、公募増資情報を巡るインサイダー取引が追い打ちをかけた。経営判断のミスにコンプライアンス(法令順守)違反というミスが重なれば、どんな一流企業であろうと企業価値が大きく毀損するのはやむを得ない。

静かなる衰退を防げ

 トヨタ自動車の世界展開を進めた元会長の奥田碩は、「変わらないことは罪」と言い続けた。経営者にとっては不作為もミスだ。経済がグローバル化して先進国、新興国ともに先行きは流動的。成長を期待していた中国では極端な反日感情の噴出といった予想外の事態が起きる。リスクを恐れて状況を座視していては、産業構造の転換に乗り遅れ、静かに衰退への道をたどる。

 「世の中に多い、無難に大過なく任期を過ごす経営者は、実際は会社に損失を与えている」。神戸大学大学院教授の三品和広はこう指摘する。ランキング上位に入った経営者が代わりに経営を担っていたらどうなっていたか。そこに差があれば、会社に損失を与えたことにほかならない。

 三品が注目するのはダイキン工業の会長、井上礼之だ。業務用エアコンから家庭用エアコンに打って出て、業界地図を塗り替えた立役者だ。井上は経営トップになった瞬間から、堰を切ったように経営改革を進めた。「自分が経営者だったら何をするかを、従業員の立場であっても常に考え続けてきた」(三品)。大きなリスクを覚悟したうえでの攻めに見えるが、実は考え抜いた末の理にかなった戦略だった。

 自分が経営トップになる見込みがなくても、当事者意識を持って会社を変えようとし、とがった意見を口に出す。こんな社員は往々にして組織の中で煙たがられ、出世街道から外されてしまいがちだ。しかし、井上ほどではなくとも、社員が経営に対して当事者意識を持たなければ組織の動きは鈍くなる。「稼ぐ経営者」たちが腐心していたのも、目標に向けて組織を効率的に動かすための仕組み作りだった。

 「命懸けで目標を考え」「強い危機感を持ち」「周到に準備をして」「利益率にこだわり」「現場に行ったら行動する」。これらは今回登場した5人のトップたちが語った言葉だ。フレーズをつなげるだけで、優れた経営者に求められる資質を読み取れる。出口の見えない日本経済を立て直すために、稼ぐ力を持った経営者が続々と登場することを願ってやまない。

日経ビジネス2012年10月1日号 98ページより

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