日立製作所の執行役社長、中西宏明は巨額の赤字で危機に陥った経営を立て直し、就任から2年で過去最高となる純利益を達成した。就任前から続けているのがタウンホールミーティングという取り組み。社長が現場に直接、経営状況や戦略を説明する。8月には中国の現地法人を訪れ、社員と危機感を共有しようと熱弁を振るった。

中西 宏明(なかにし・ひろあき)
神奈川県出身、66歳。1970年東京大学工学部卒、日立製作所入社。2005年日立グローバルストレージテクノロジーズ会長兼CEO、2006年4月に日立副社長、12月に退任。2009年に副社長、2010年から現職(写真:宮原 一郎)

 部課長さんを全部集めて、なぜ、今の状況で満足したらダメなのかを説明しました。利益率について口を酸っぱくして言っているのはなぜか。社長が決断をするのに時間がかかるのは、社長がバカかもしれず、それは否定しないけど、ポケットにお金が入っていないと社長は決断できない。こうしたことを30分ぐらいワーッと話して質問を受け付けます。その後、若手10人ぐらいと食事をしながら1時間強、話をします。現場の声も分かるし、彼らにとって強い動機づけになる。

 リーマンショックの直撃を受けて、2009年3月期に7873億円の最終赤字を計上しました。全社的な経営の危機でしたからね、これまでは、それをバネに走ってきました。上場子会社のTOB(株式公開買い付け)やテレビ事業の縮小など、普通なら難しい判断も、あの赤字の後では異論も出ない。ですが、危機感が会社を突き動かすのはせいぜい2~3年。最高益を更新し、今の電機業界では利益が安定しているという評価を受け、緊張が緩む危険を痛切に感じています。新たな目標に向けて力を高めないと、普通の会社で終わってしまう。

 グローバルな市場で生き残るには一流にならなくてはなりません。今、ビジネスユニットという事業単位が30ほどありますが、そのすべてが世界で一流ということは、絶対にない。小さな市場でもいいから生き残っていける特徴を持たないと自然に消えるし、消さなかったから大赤字になりました。事業を強くするには投資が要ります。利益率を高めないと投資する原資がありません。生き残るために必要だから、利益率を高めないといけない。社内には同じことを言い続けています。

HDD子会社の売却は「当然」

 リーマン前の日立は、経営者を含めて外を向いていなかったのかもしれません。やはり、小宇宙を作るとダメです。でも、小宇宙から完全に出られたかというと、そうじゃない。自分たちがどこへ行くのか、何を考えなきゃいけないかという捉え方が現場の若い人たちから上がってくるようにしないといけないでしょう。グローバルに戦うのは、非常にハードルが高い。本社に寄って俺に報告なんかしなくていいから、世界で勝っていく方法を考えろ、と思っています。

 社長にとって経営経験は大事ですね。米国のHDD(ハードディスク駆動装置)生産子会社の経営を任されましたが、自分で100%の判断をする立場で、損益計算書を自分で背負って走った経験は貴重です。ただ、あの会社の売却は当然の決断でした。売却を決めた日は、株式上場の説明会を始める前の週でした。米社から買いたいという要望があり、上場するよりも高い価格だから、売りました。上場するという選択肢があったことで強気に交渉できましたけれど。

 次の目標はグローバル・メジャー・プレーヤーとしての日立です。それに向けて総コストを5%低減する取り組みを始めました。実際に始めて、かなり難しいとは感じています。仕事のやり方を変えるわけですから。でも、営業利益率を現在の5%から10%に高め、1兆円レベルの利益を確保しないと、ダメでしょう。世界のメジャーな企業なら当然の利益率です。ポケットが空だと、社長の決断が遅れますから。まだまだ、お金はたまっていませんよ。

日経ビジネス2012年10月1日号 96ページより

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