ユニ・チャームの社長執行役員、高原豪久は、創業者で元会長である高原慶一朗の長男だ。オーナー経営者の強みと弱みを理解し、着実かつ柔軟な経営スタイルを確立した。柔和な語り口には、2代目の悩みを克服した強烈な自負がうかがわれる。

高原 豪久(たかはら・たかひさ)
愛媛県出身、51歳。1986年成城大学経済学部卒、三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、91年ユニ・チャーム入社。2001年社長。2004年から現職。(写真:宮原 一郎)

 居合道では「鞘のうちで勝負が決まる」って言うでしょう。私も、そう思います。2001年に社長になる10年前から準備をしていました。自分では用意周到に準備をして社長になったつもりです。しかし、親父には「おまえのせいで株価が下がる」と真面目な顔で言われました。何くそと思いましたよ。それでも社内は圧倒的に会長を見ています。これがオーナーシップだと思いました。サラリーマン経営者は逆立ちしても追いつけません。

 時価総額1兆円を目標に掲げました。株価とは企業の通信簿で、企業価値の集合体です。理論値の幅に収斂するものですから、時価総額で1兆円を達成するなら売上高、利益、キャッシュフローを一定の水準にまで拡大しなければいけません。オーソドックスですが、集中と選択が基本です。

 当時は業績が振るわず、会社の雰囲気が悪くなっていました。若手が茶飲み話で経営陣を批判し、経営陣は派閥を作り出す。トップには、この状況が伝わらず、絵に描いたような裸の王様でした。肌感覚で覚えています。これを変えなくてはいけない。

 そこで目標達成に向けた事業の組み替えを進めました。創業事業である建材も含めて膨れ上がった国内事業を整理し、浮いたお金と人を強い製品や技術に振り向け、アジアなど世界で戦っていく。会社の軸がぶれないように求心力を強め、社員一人ひとりが同じ方角を向く仕組みを作りました。結果として社長就任時をボトムとして、業績は右肩上がりを続けています。時価総額は9400億円にまで拡大しました。

売上高3倍超の目標共有

 会社という組織の方向性を合わせ、目的意識を社員一人ひとりに共有させるのがトップの仕事でしょう。それを数字に落とし込み、2020年度に売上高を1兆6000億円(2012年度計画は4900億円)にする目標を立てた。世界で10%強のシェアを取り、トップ3に滑り込める規模です。この目標を経営計画に反映させ、1年や四半期ごとの目標とします。すると、最も小さな単位では週ごとに取るべき行動が分かります。一人ひとりが毎週している努力は、2020年度につながっています。

 結果よりプロセスや行動を重視します。時には運よく結果が出る時がありますが、結果が出ない時は行動が間違っている。取引先への訪問が少ないとか、キーパーソンに会えていないとか。行動を問われるのは厳しいことですが、私自身も社長になってから行動を改善して結果を求めてきました。社員にも地道な作業を継続してもらっています。この真面目な企業文化を作った先輩方には、本当に感謝していますね。

 経営者は楽しい仕事ですが、業績が悪化することは、夢に見るほど怖い。身の程を知る機会を持つために、異業種の大企業の経営者と会う機会を意識的に作っています。1兆6000億円の売り上げを目指すなら、兆円単位の会社を経営しているスーパーサラリーマンとはどんな方か、その薫陶を受けさせてもらっています。これは本当に個人的な作業です。

 オーナー経営者の利点は長期的な視点で経営できることにありますが、周囲が見えなくなるリスクもあります。社外役員の方に気づかされることもあるでしょうが、やはり、一緒に仕事をしてきた仲間に「社長、それは間違っています」と言われなければダメでしょう。いくつになってもそう言われるように、体が続く限り、社員と遊ぶようにしていますよ。

日経ビジネス2012年10月1日号 95ページより

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