注目を集めるバイオ医薬品分野を牽引する中外製薬。会長 最高経営責任者の永山治が2001年に下した大胆な決断が、現在の立ち位置を作り上げた。中外の株式の50.1%を世界大手、スイスのロシュに売却するという「戦略提携」を断行したのだ。2001年3月期の中外の営業利益は302億4200万円。国内屈指の老舗で業績も堅調だったにもかかわらず、あえて外資の傘下に飛び込んだ決断は今も異彩を放つ。

永山 治(ながやま・おさむ)
東京都出身、65歳。71年慶応義塾大学商学部卒、日本長期信用銀行(現新生銀行)入行。75年同行ロンドン支店勤務。78年中外製薬入社。常務、副社長などを経て92年社長。今年3月から現職(写真:後藤 究)

 自分から戦略提携を打診したんですよ。2年ぐらいかけていくつかの会社を検討しましたが、企業カルチャーと物の考え方が一致しないとなかなか難しい。単に会社を売却して、後はもう向こうの一部としてやっていくならもっと単純ですが。そうでなくて日本の研究を強化し、サイズは向こうの方が大きくとも、こちらも自主的に経営するような方式で考えてくれ、当社の研究開発の強化も支援してくれるということで、ロシュに絞り込んだのです。

 2000年6月、米大統領のビル・クリントンと英首相のトニー・ブレア(いずれも当時)が、ヒトゲノムの概要解読を終了したと発表しました。「生命の世紀」などという言い方も生まれました。病気の原因と遺伝子の関係について、毎日のように発見がある中で薬を作るには、膨大な費用がかかります。

 中外は化学合成による創薬が主流の国内製薬企業の中で、いち早くバイオ分野に注力してきました。(腎性貧血治療に用いられる)エリスロポエチン(EPO)など成功例もあります。でも、宇宙のように限度がない世界で、当社だけが単独でリスクのあるバイオ分野の新製品開発を必ずやっていけるというのは、もう全くイリュージョンです。時期が来たら動かねばならないということで、新年の挨拶や中期計画などを通じて、社員に対しては問題意識を投げかけ続けていました。

 国内同士の提携が普通の日本のやり方だと思うし、そういう打診を受けたことも実はあります。ただ、当時の中外のバイオだけでは世界の競争には勝ち続けられない。組むならバイオも化学合成も強い会社ですが、なかなか日本にはなかったんですね。

言い続けて企業文化を醸成

 今後の10年は、過去の10年以上に業界の状況は変わっていくでしょう。単純に今までのように50社ある会社が30社になるといったことだけでは事態を解決できません。

 我々が事業体として残っていけるかは、患者にどれだけ貢献できるかにかかっている。これまでの薬や診断薬は今後も中心として残る。でも、それ以外で患者さんやお医者さんが求めているソリューションがある。

 今までは薬は症状がある人に全部使って、3割効いたとか4割効いたとかいう世界でした。そこで、事前に遺伝子的に効かないことが分かっている場合には事前に外すということが可能になるように、バイオマーカーとセットで薬を開発するようにしています。

 経営者になった頃は30年後に、会社あるいは従業員の人が安心して仕事できるような会社にしたいと思っていましたが、今や10年先もだんだん分からなくなってきました。

 でも2~3年では、なかなか会社を変えられない。10年前に考えたことを、そのまま達成することはまずありません。それでも目標達成には今、何が欠けているのかということを常に見つけ出していくことが必要だと思います。そうした文化をきちっと会社の中に作ることが非常に大事なのです。

日経ビジネス2012年10月1日号 94ページより

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