資源部門への偏重が指摘されるが、それは時代の要請に応えるためと言う。事業の取引相手を、企業から国へと広げ、自らその先頭で営業に奔走する。その先に従来の商社ではない、新たな経営モデルを描く。 (聞き手は 本誌編集長 山川 龍雄)

写真:新関 雅士
飯島 彰己(いいじま・まさみ)氏
1950年、神奈川県生まれ。74年横浜国立大学経営学部卒業後、三井物産入社。以来、一貫して製鋼材料畑を歩む。90年から英国三井物産に配属されたほか、海外では若手時代に研修員として南アフリカ共和国に短期間滞在したこともある。2006年に執行役員。2008年には6月に代表取締役常務、10月に同専務を経て、2009年から現職。モットーは「礼儀正しく紳士たれ」。かつては野球に打ち込み、現在は大柄な体格ながら小唄が趣味。

エネルギー安保は時代の要請 利益の資源依存は対応した結果 バランスを犠牲にしても投資する

 問 これまで商社の業績を支えてきた資源市況が軟化し、資源・非資源の利益のバランスをどうすべきかという議論が盛んです。とりわけ三井物産は資源一辺倒と言われています。

 答 確かに当社は、利益の9割を資源・エネルギーに依存し、今年策定した中期経営計画の期間中はこの分野への投資はさらに大きくなるでしょう。これまでは最適な事業ポートフォリオということで、非資源部門も強化しなければいけないと考えてきました。

 ただ、三井物産の創業の理念は、常に時代と社会のニーズに応えていくことです。昨年の東日本大震災と原子力発電所の事故を受けて、日本のエネルギー安全保障は非常に重要なテーマになっています。このために努力していくことこそが、三井物産に対する今の時代の要請です。

 事業ポートフォリオを多少犠牲にしても、エネルギー安保に寄与すること。それが第一の使命だと考えています。非資源部門への投融資額が減っても、資源・エネルギーには重点配分していきます。

 中長期的に考えても、世界人口が現在の70億人から2050年には90億人になり、大きなトレンドとしては資源・エネルギーの需要は増えていかざるを得ない。人口が増加し、豊かな世界になれば、そこで一番大切な基礎物資はエネルギー、水、食料です。この安定供給が大事だと考えていますので、この1~2年は投資の半分以上が資源・エネルギーになるでしょう。

 問 佳境を迎える日本のエネルギーミックス議論。どうなると考えますか。

 答 その時代ごとのベストミックスがあると考えています。再生可能エネルギーを2030年に3割にしようと言っても、その時に状況は変わっているかもしれません。足元では、今すぐ再生エネルギーにはできませんから、原発に頼らざるを得ない。安全対策を徹底したうえで段階的に稼働させながら、原発に頼らないエネルギーのベストミックスを考えるしかないでしょう。

 LNG(液化天然ガス)の調達の話にしても、今の日本は世界一高い水準の価格で購入していますが、2016~18年には新規のLNGプロジェクトが立ち上がります。米国にエネルギー革命をもたらした「シェールガス」は、中国やメキシコ、アルゼンチンでも出ます。需給が緩んで米国並みのガス価格になれば、原発がなくてもかなりの競争力を持てることになります。

 一方で、中国やインドがLNGを一斉に輸入すると言い始めれば、現在の供給計画では間に合わなくなります。ですから、エネルギーのベストミックスは短期、中期、長期でそれぞれ考えていくべきでしょう。

ミャンマー攻略の背景

 問 中期経営計画では、戦略地域として、アフリカのモザンビークやミャンマーを加えました。

 答 この2カ国は非常にポテンシャルが高い。1人当たりのGDP(国内総生産)は世界で最低水準ですが、貧富の格差の解消など、両国の発展に三井物産として寄与できる余地が大きい。

 モザンビークでは巨大なガス田を発見しました。現時点で30~60TCF(約8500億~1兆7000億m3)の埋蔵量が確認されています。もっともこれは、探鉱段階のものでまだ増える可能性があり、世界最大とも言われています。この天然ガスを使った発電や化学品など、産業の裾野の広がりを秘めており、当社としても総合力を発揮していきたいと思います。

 ミャンマーも、ガス、石油があり、鉱物資源も豊富。なおかつ人口も6200万人います。マーケットとしての経済成長の潜在力があります。インド、中国、東南アジアとも近接していることから、食料の供給基地になり得ます。そこでのインフラ整備、食料の輸出、資源開発とやれることは多い。

 問 最近は「総合商社」ではなく、「総合力企業」という表現を用いていますが、その狙いは何でしょう。

 答 今までの商社は、商品だけで仕事をして、たくさんの商品群とビジネスモデルが集まっているという状態でした。現在は組織に横串を入れて、いろんな部門が協力して仕事を取るという形になっています。

 例えば当社が出資しているブラジルの資源メジャー、ヴァーレとの仕事にしても、今までは鉄鉱石だけでした。それが非鉄金属の分野でニッケルや銅にまで広がったり、あるいはリン鉱石や肥料、インフラや発電事業に発展したりしています。ヴァーレとの関係で言えば、うちの15の営業本部のうち、11営業本部が何らかの形でつながっています。

 いろんな商品群やビジネスモデルを揃えているということで、そのノウハウによって相手先の企業や国に貢献できる。当社が総合力を発揮できる余地が大きくなっています。

国家トップとの関係強化が不可欠

 問 そうなるともはや商社と言うよりも、国を相手にしたコンサルティング会社ですね。

 答 そうなっています。だから現地の財閥系企業とも話はしていますが、一方で、やはり商業大臣や工業大臣、エネルギー大臣など閣僚とのつき合いも増えています。ミャンマーのテイン・セイン大統領が来日した際も、個別に面談することができました。

 問 商社経営者のトップセールスの重要性が増しているようにも思えます。取引先企業のトップだけでなく、国のトップを相手にすることも増えていますか。

 答 確かにそれは変わってきている感じはあります。もちろん取引先企業のトップとも会いますが、資源・エネルギーは保有国のものという視点で、国のトップと会って理解を深めるということは、絶対に必要不可欠です。

 先日もアジア太平洋経済協力会議(APEC)でロシアのウラジーミル・プーチン大統領に会い、8月にはブラジルでジルマ・ルセフ大統領と面会しました。チリのセバスティアン・ピニェラ大統領とはこの1年で3回お会いしています。こうなると次第に打ち解け、日頃お客さんと交流しているのと変わらなくなってくる。

 そこでいろいろな広がりが生まれます。様々な企業のトップを紹介してもらったり、案件が浮上したりします。人材育成や社会インフラ整備、社会貢献などの協力要請も来ます。それはその国で事業をして利益を上げる以上、当然の恩返しです。

 問 特に新興国の場合、国のトップが絶大な権力を握っているため、信頼関係を築くことが重要になります。国のトップとお会いする時、気をつけていることは。

 答 国づくりの基本は人の育成と産業を興すことです。これはどこでも一緒です。我々が会社をどうしたいかと考えるのと同じで、このデザインを考えるのが国のトップです。トップと話すことは、特に新興国で大きな仕事をするためのキーになります。

 気をつけるべきことは、その国の発展にいかに貢献していくか、それだけです。「ウイン・ウイン」の関係を築きましょうと。それによって相手国を豊かにし、日本も豊かになります。

 問 中国との領土問題が深刻化しています。企業はどう受け止めるべきでしょうか。

写真:新関 雅士

 答 すごく難しい問題ですね。今回は時間がかかるかもしれない。国を挙げてしっかりとした対話がなされていないことが根底にあります。かつての田中角栄首相と周恩来首相が成し遂げた国交正常化以来、領土問題を棚上げしてここまで来た経緯があります。

 ただし、お互いに経済がグローバル化された中で、世界の経済ネットワークに組み込まれているという厳然とした事実があります。ですから、どちらが良い、悪いではなく、しっかりと対峙して、コミュニケーションを重ねていくしかないでしょう。結局は人と人、企業と企業、国と国の関係ということで、ここは正面から向き合わなければいけないのではないでしょうか。

今こそ日本で産業創出

 問 途上国の発展に寄与しながら、そこから利益を得ていくという現在の商社の業態は、日本がこれからどうやって生き残っていくのかという道筋を示している気もします。

 答 今まではそういう意識が強かった。日本は人口が減っていき、英国のように経済が成熟していく。世界の活力を取り込んでいくしかないと。

 しかし、東日本大震災を経験して、それだけでは日本はダメだと感じました。もっと世界における日本の存在感を高めていかなくてはいけないと思います。

 現在、我々は先輩たちが過去に作った土台の上で利益を享受していますが、これから次世代のためにどう土台を作っていくのか。これがすごく大事だと思います。それに、国内のビジネスはやはり大きくしていかなくてはいけないし、強化できる余地も大きいという意識が強くなりました。

 問 国内の産業復興に目を向ける大手企業はまだ少ないですね。

 答 日本を震災から復興させるために、元に戻すだけではいけないということは、皆が言っています。そのために、まず企業活動をグローバル化して、世界の成長を取り込んでいく、これは重要です。一方で、国内では潜在的な需要を掘り起こし、新しい産業を創り出していく必要があります。

 例えば再生エネルギーや環境、観光、教育。それから、まだ規制はありますが、農業や医療もあります。チャンスは日本にもあるんです。

 海外で稼いだ利益を還流して日本で事業を興す必要性を強く感じます。ですから、震災以後、国内ビジネス推進室という組織を作り、今年4月にはイノベーション推進室も立ち上げました。これはあくまで国内に意識を向けたものです。

海外で稼いだ利益を日本に還流 日本も事業を強化する余地はある 人材を鍛えて変化に対応する

 問 具体的な案件は。

 答 例えば再生エネルギー関連は大規模にやっていこうと考えています。鳥取県でソフトバンクと始めたメガソーラーの話もありますし、うち独自でもやっていきます。地域の土地を使い、地元の業者に工事をしてもらう。再生エネルギーは国内でも十分やっていけると思います。

 また、環境分野もリサイクル事業はやりようがあります。それに医療や農業も現在は規制がありますが、いずれ緩和されるだろうという考えの下、手を打っています。

 ブラジルでの農業、シンガポールやマレーシアでの医療事業は、あくまでも日本に持ってくることを念頭に置いています。医療は現在、日本人医師にこうした国々に行ってもらい、現地で技術交流をしてもらっています。

 問 昔から「人の三井」と言われてきました。飯島さんの人材育成に対するこだわりは。

 答 明白なのは、我々にとって唯一の資産は人材だということです。想像力を働かせ、対応策は練りますが、将来を完全に予測するのは難しい。10年先を見据えた現在の長期ビジョンも、作ってからたった2年で環境が激変しました。作った時にはシェールガスなんて出ていなかった。それだけ変化が激しいのです。ただ、どんな事態になっても、人さえ鍛えておけば、対応できます。だからこそ人材育成にかける思いは強い。

 ただし、かつては国内を起点にした仲介業務が主でしたが、今の当社のビジネスはプロジェクトや企業に投資して、その事業の付加価値を高めていくことに移っています。当然、人材育成の方法も変わります。

 問 業績も好調で、商社の就職人気はすこぶる高い。今は優秀な人材を採用しやすいのでは。

 答 あとは採用する側がしっかりと見ることですね。今の学生さんは受け答えがうまい。でも、見た目で判断すると、間違う時がある。朴訥で人づき合いの経験が乏しいなんてことは会社に入ればどうにでもなります。だから面接官を誰にするかが重要です。欲しい人材は感度の高い人です。常に現場に行って気づきがあり、何かを得てくる人。現場で見つけた点と点を線や面にできる人材が欲しいし、育てていく必要がある。だから、入社した後も、徹底的に現場に連れて行きます。やはり基本はOJT(職場内訓練)。上司が背中を見せるしかない。

 もちろん、これだけ事業がグローバル化した以上、グローバル人材を育てる必要があります。異質な人同士が集まり、理解し合いながら、グローバルの舞台で競争し、勝ち残っていく。

 その一環として、ハーバード・ビジネス・スクールと提携しました。毎年、次世代を担うグローバルリーダーを輩出しようと。今年は日本の本社から16人、海外拠点が採用した現地スタッフから10人、取引先も含めた関係会社から8人を選びました。彼らが一堂に会して切磋琢磨する。

 従業員に海外経験を積ませ、海外で通用する人材を育てることは戦前の旧・三井物産の創業者、益田孝の時代から続いている文化なのです。

 問 冒頭のお話もそうですが、現在は業績の面からも、余裕が生まれて創業の原点を振り返りやすくなっているのでしょうか。

危機が会社の機軸を作った

 答 余裕が出てきたからではなく、いろいろな危機を乗り越えてきたからでしょう。国後島のディーゼル発電所不正入札事件やディーゼル車の排ガス浄化装置のデータ捏造問題などいくつかのコンプライアンス(法令順守)問題を経験したことで、会社としての危機感が植えつけられました。

 会長の槍田(松瑩氏)が言う通り、潰れても仕方のない会社というところまで追い込まれ、その反省から立ち直ってきました。良い仕事をしてお客さんやパートナーから喜ばれ、評価され、我々自身も納得する。そういう1つの基軸ができました。世界を豊かにし、日本が元気になるようにすれば、事業ポートフォリオを含め、おのずと会社の形はできてくると思います。

傍白
 「世界を豊かにし、日本を明るくする」。これが飯島さんが掲げる会社のスローガンだと受け止めました。商社のトップとして、海外展開の話が中心になると想像していましたが、むしろ国内の新産業創出にも意識を向けているところが印象的でした。今から10年前、国後島の不正入札事件を受けて社長を引き継ぐことになった槍田松瑩会長が「我々は売り上げや利益といった数字ばかりに目を奪われ、倫理観を失っていた。これからは金儲けよりも尊敬される会社を目指す」と言ったのを思い出します。あれから10年、他産業の地盤沈下もあって、商社は再び日本経済のリード役に浮上しました。これからは「世界を豊かにし、日本を明るくする」金儲けに期待します。
日経ビジネス2012年10月1日号 120~123ページより目次