アップル、アマゾン、グーグル、マイクロソフトの4強によるタブレット市場での激戦が本格化するのは10月だ。この月には、マイクロソフトのSurfaceが市場に登場し、アップルが画面サイズ7インチで低価格の「iPad mini」を発売すると噂される。

 いずれもITやネットの世界では巨人と呼ぶべき大手企業だが、すべての企業が勝者になれるわけではない。数年で勝敗は明らかになる。

製品には各社各様の強み

 製品面で勝負の行方を占うのは難しい。タブレット市場の重要性を理解した各製品には、それぞれ強みがある。

 アップルのiPadは、人間の五感に訴える機能を進化させてきた。「Retina(網膜)ディスプレー」と名づけた高精細画面に加え、9月から「Siri」という音声認識機能を使えるようにしている。

 ただここにきて、アマゾンのKindle Fireなど低価格タブレットが台頭している。現在、注目の的はアップルが10月にも発表すると見られる新製品だ。真偽は不明だが、既に欧米の有力メディアが同製品について報じている。アップルが7インチの低価格タブレットを発売すれば、市場シェアを拡大する可能性は十分にある。

 一方、アマゾンのKindle Fire HDはコンテンツを快適に閲覧できる環境にこだわる。動画などを閲覧するようになると、データを安定して高速にダウンロードできるかどうかがカギになる。

 Kindle Fire HDは2つの無線LAN(構内情報通信網)のアンテナを内蔵し、最新の無線通信高速化技術で大量のデータを素早く受け取れるようにした。さらに従来は7インチだけだった画面のサイズに、8.9インチ版を追加。より豊かな映像体験を可能にしている。

 グーグルが打ち出すのは端末価格の安さ。Nexus 7の開発に当たりアスースとの交渉窓口になったというグーグルのディレクター、ジョン・ラーゲリン氏は米国本社で本誌の取材を受け、「今、タブレットで強く求められているのは価格面でのイノベーション。低価格化の手本となるようなリーディングデバイスを作ったつもりだ」と話す。

 最新版のAndroidを次々に提供できるのもグーグルの強みだ。当初はiPadに比べて画面の動きが鈍いと言われていたAndroidだが、「プロジェクトバター」と呼ぶ取り組みで、「溶けたバターのような滑らかさ」(ラーゲリン氏)を実現したという。

 マイクロソフトのSurfaceで象徴的なのは、同時に発売する専用カバーだ。磁石でタブレット本体につけるカバーの片面がごく薄いキーボードになっており、パソコンに準じた操作性が実現できる。

 パソコンとの互換性の高さはマイクロソフト製品ならでは。同社はアーム版とインテル版のCPUを搭載する2種類のSurfaceを用意する。

ハードかコンテンツか

 一方、各社のビジネスモデルから、市場の行方をある程度占うことは可能だ。

 アップルとアマゾンは、ハードからソフト、コンテンツ販売ストアまで、自前主義を貫く点で共通する。ただしアップルがハード販売の付加価値としてコンテンツを位置づける面が強いのに対して、アマゾンにとっての主役はあくまでもコンテンツだ。

 スマホ市場では、iPhoneの出荷台数はAndroid勢に抜かれた。タブレットにおいても今後、アップルが現在のような圧倒的シェアを占め続けるとは考えにくい。同社にとって、十分な利益を上げ続けることが課題だ。

 4社のハードにはそれぞれに独自の魅力がある。性能や使い勝手で差異化できなければ、価格差がモノをいう。この場合、端末の販売収入に多くを求めないアマゾンが有利になる。同社は現在も、原価割れの価格でタブレットを販売していると言われる。

 米国の大手出版関係者は、「コンテンツ販売が増えてくれば、いずれ端末を無料配布することも考えられる。そうなれば他社は厳しい」と指摘する。

 ただアマゾンの業績は6四半期連続で減益。2012年4~6月期の最終利益はわずか700万ドル(約5億4000万円)にとどまる。端末の赤字をどこまで許容できるか、不透明な部分が残る。

 自社製品を出したとはいえ、マイクロソフトとグーグルは自前主義を貫くつもりはない。Windows 8やAndroidを搭載したタブレットの数が増えることで、マイクロソフトならソフト製品、グーグルならネットサービスの利用が拡大すればいいからだ。

 両社にとっては、パートナーであるハードメーカーがOSを搭載したハードを作ってくれた方が、大量の製品を短期間に市場に供給できる。マイクロソフトとグーグルの課題は、一般のメーカーが競争力のあるタブレットを作り続けられるかどうかになる。

 アマゾンの攻勢で、市場では低価格化の動きが加速。相当数のタブレットを生産し、調達力があるメーカーでなければ、市場で生き残るのは難しい。

 この点で注目されるのが、Surfaceの販売価格がいくらになるか。高ければ売れ行きは鈍るだろうし、安ければWindows 8搭載タブレットを販売するメーカーのビジネスに悪影響を与える。

 スマホなら、端末価格が下がっても、通信会社と合意して、通信料からコストを回収できた。無線LANで使用することの多いタブレットでこの方法は使いづらい。

小型化しスマホとの融合も

デルは画面を回転させてタブレットになるパソコンを考案(左)、富士通は画面を取り外すタイプを開発した(右)。サムスンはタブレットとスマホが融合した戦略製品を市場に投入済み(下)

 価格競争から逃れるカギはコンテンツ。その端末でしか使えないコンテンツがあれば、多少の価格差に目をつぶっても消費者は製品を選ぶ。

 アップルの強さの裏には、携帯音楽プレーヤーのiPodから約10年にわたって積み重ねてきた「iTunes Store」の存在がある。音楽の品揃えは圧倒的で、動画、海外では電子雑誌などを購入することができる。アプリのストアで利用できる専用ソフトの数でも他社を圧する。

 このことは他社も気づいている。アップルに対抗してグーグルはGoole Playを用意。アマゾンも独自のストアを開設している。この分野ではマイクロソフトが出遅れた。

 第三者が提供するコンテンツやサービスといかに連携していくかも重要だ。典型がSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)。米フェイスブックや、米ツイッターなどが、最適化したアプリを提供するかどうかで、タブレットの魅力は変わる。利用が増える動画の閲覧サービスの使いやすさもポイントになる。

 もう1つ、影響を与えそうなのが、スマホやパソコンとの融合だ。

 9.7インチのiPadに続いたヒットは画面サイズが7インチのKindle Fireだった。グーグルのNexus 7も「売れ行きは予想以上だ」(ラーゲリン氏)という。持ち運びやすさを考えると小型化は1つのトレンドと言える。

 既にサムスンのGALAXY NoteIIのように、スマホとタブレットが融合した商品が登場している。スマホとの融合が進めば、現在以上にアップルとグーグルの存在感が増す。

 IFAで目立ったのは、取り外したり回転させたりするとタブレットになるノートパソコンだった。ノートパソコンとの融合が進めば、マイクロソフトが競争を進めやすくなる。

 本誌の取材によれば、今年年末までには、アップル以外の3社を含めたすべての企業が国内市場にタブレットを投入する可能性がある。4社の争いは日本企業にも大きな影響を与える。

日経ビジネス2012年9月24日号 32~33ページより

この記事はシリーズ「特集 タブレット覇権」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。