「全く新しいコンピューターの仲間を提供する」

 今年6月、新製品の自社製タブレット「Surface」の発表会で、米マイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOはこう宣言した。急成長するタブレット市場に、自ら乗り込む意思を全世界に表明するためだ。

 OS(基本ソフト)の「Windows」でパソコン市場に圧倒的な影響力を持つマイクロソフト。同社はこれまで、ゲーム機やパソコン周辺機器のマウス、キーボードなどを除き、ハードを手がけることはなかった。Surfaceの投入は、ハードの製造をメーカーに任せ、OSで稼ぐビジネスモデルに特化してきたマイクロソフトの方針が一大転換することを意味する。

 同社はSurfaceについて、発表会で言及した情報以外は一切明らかにしていない。しかし、日本マイクロソフトのある関係者は、「10月からは月産100万台体制で大々的に生産を開始するだろう」と話す。

「Surface」の発表会は、演出までアップルのiPadを意識したものだった(写真:AP/アフロ)

出遅れからの挽回なるか

 さらに、10月26日に発売を開始する新OSの「Windows 8」は、パソコンに搭載する米インテル製のCPU(中央演算処理装置)だけでなく、タブレットで主流のアームと呼ぶ形式のCPUでも動かせるようになる。「使い慣れたパソコンから持ち運びやすいタブレットまですべてに合うのはWindows 8」(マイクロソフト)と訴え、タブレット市場に切り込む。

 マイクロソフトを突き動かすのは危機感だ。2012年4~6月期に180億ドル(約1兆4000億円)を売り上げた同社の強さの源泉は、パソコンのOSをほぼ独占していることにある。ただ同四半期には5億ドル近い最終損失を計上し、勢いに陰りが見える。

 マイクロソフトのOSが搭載されないタブレットが広がれば、同社は収益機会を失うことになる。先行して需要が拡大したスマホでは、マイクロソフトはアップルのiPhoneや、グーグルのOS「Android」を搭載した勢力の後塵を拝した。タブレットで連敗するわけにはいかない。

 マイクロソフトとほぼ時を同じくして、そのグーグルもタブレットに本格参戦した。同社も今年6月のソフト開発者向けイベントで、台湾の華碩電脳(アスース)と共同開発した7インチサイズのタブレットNexus 7を発表。7月に市場へ投入した。

 4月の2012年1~3月期決算発表の電話会議で、グーグルのラリー・ペイジCEOは、「低価格のタブレットは重要な市場であり、(我々は)明確に狙いを定めている」と予告していた。この言葉通り、Nexus 7は199ドル(約1万5000円)からという価格の安さを武器に、市場に殴り込みをかけた。

 以前から同社のAndroidを搭載したタブレットは存在したが、OS別の出荷台数で世界一になったスマホに比べると、アップルに押され存在感が薄い。グーグルもマイクロソフトと同じく、ハード製造はメーカーに任せる戦略を取ってきたが、タブレットでは自社開発製品で局面の打開を図る。

 マイクロソフトとグーグルの2社がハードウエアメーカーとの摩擦覚悟でタブレットの開発に関わるのは、市場での出遅れを挽回したいという焦りの表れにほかならない。

 アップルがiPadを発売した2010年の時点では、タブレットがどこまで普及するかは未知数だった。タッチパネルを備え、使い方の似ているiPhoneは成功していたが、他のメーカーが販売する既存のタブレットは、鳴かず飛ばずの状況だったからだ。

 ところが、iPadは出荷台数を伸ばし続け、2012年4~6月期は実に1700万台を売り上げた。まさに「ポストパソコン革命を牽引する」(アップルのティム・クックCEO)勢いだ。

 さらに2011年、ハードに関しては素人だったはずのアマゾンのKindle Fireがヒットを飛ばした。タブレットは、デジタル機器の中で最速のペースで成長する有望分野に生まれ変わった。

異なる各社の狙い

 株式市場の評価もはっきりしている。iPadが登場した2010年以降のアップルとアマゾン、グーグル、マイクロソフトの株価の推移を見ると、差は歴然としている。

 タブレットで先行するアップルとアマゾンの株価は史上最高値圏にあるが、グーグルとマイクロソフトは伸び悩んだままだ。強力なタブレット製品を持つか否かが、企業の将来性に対する市場の評価を決めかねない。

 ただ、4社の自社製品が出揃ったとはいえ、タブレット市場での各社の狙いは異なる。既に述べたように、マイクロソフトの目的は、パソコン市場と同じように、自社OSの影響力をタブレット市場でも発揮することだ。

 一方、アップルはタブレットを1台でも多く売ることで、収益の拡大を図る。いわば、典型的なメーカーの立場と言える。

 アップルの四半期売上高は、iPad発売直前の2010年1~3月期は135億ドル(約1兆円)だったが、2012年4~6月期には350億ドル(約2兆7000億円)まで拡大している。スマホやパソコンも好調だが、iPadの貢献は極めて大きい。

 アマゾンはハードとしてのタブレット販売にあまり関心はない。パソコンからモバイル機器にインターネット利用の中心が移りつつある中で、世界最大のEC(電子商取引)事業者として、通販で売る商品への入り口を増やすことが狙いだ。

 同社のタブレットは、電子書籍専用端末の延長線上にある。ショッピングや動画鑑賞に適した端末を考えるうちに、タブレットにたどり着いたと考えることができる。

 「我々は皆さんが端末を“買う”時にお金を稼ぎたいのではない。皆さんが端末を“使う”時にお金を稼ぎたいのだ」。9月6日の記者会見で、ベゾスCEOは何度もこう繰り返した。

 インターネットの「入り口」に照準を定めるという点では、グーグルもアマゾンと共通する。ただグーグルは、アマゾンのように自らコンテンツを販売するだけではない。

 同社の収益源は検索連動型広告だ。1人でも多くの利用者に繰り返し、ネット検索などグーグルのサービスを使ってもらうのが目的である。無料で提供されることも多い同社のネットサービスの利用者が増えれば、これに応じて同社の売り上げは伸びていく。

米国の家電量販店では、子供がタブレットの前からは離れようとしない

 足元の業績や株価以外にも、4社が気にしているだろうことがある。

 米国の量販店では、子供が楽しそうにタブレットを動かしている風景をよく目にする。キーボード操作が不要で、手に持ちやすいタブレットは子供にとって格好のおもちゃだ。

 今はそれほど大きな問題ではないかもしれないが、あと10年もたてばタブレットに慣れ親しんできた子供が大人になる。タブレットで早いうちに影響力を高めておくことは、市場の未来を買うことにつながる。

日経ビジネス2012年9月24日号 30~31ページより

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