ドイツの首都ベルリン。欧州屈指の大都市の西部にある、緑深い駅の階段を上がると、巨大な灰色の建物群が忽然と姿を現す。

 26個のホールで構成し、総展示面積が東京ドーム3個分以上というこの展示会場で8月末、世界最大級の家電見本市「IFA」が開幕した。

 世界各地から集結した約1400社のエレクトロニクス企業が、年末商戦を前に白物からAV(音響・映像)機器まで家電の最新製品を競演する。今年の主役は、間違いなくタブレットだった。

 展示ブースをしばらく歩くだけで、韓国サムスン電子、中国のレノボ・グループ、台湾の宏碁(エイサー)、米デル、中国の無名新興メーカーまでが出展するタブレット、あるいはタブレットを強く意識した製品が目に飛び込む。

 他を圧倒する巨大なブースで出展したのがサムスン。「GALAXY」ブランドで展開するスマートフォン(高機能携帯電話)とタブレットが、同社の展示物の主役だ。

 ここで、多くの人だかりを集めていたのが、IFAに合わせてサムスンが発表した、画面サイズ5.5インチの新製品「GALAXY NoteII」。スマホとタブレットをつなぐ戦略商品だ。

 「我々は(前作の)GALAXY Noteで新しいカテゴリーを創造することに成功した。今後も、独創的な人生を送りたいと願う顧客の思いに応える」

 サムスンのIT(情報技術)&モバイル通信部門トップの申宗均(シン・チョンギュン)氏は、市内中心部のコンサート会場を借り切って大々的に開いた製品発表会でこうぶち上げた。

 パソコン市場で世界シェア首位をうかがうレノボも、多様なラインアップのタブレットをブースに並べた。

 同社は、顧客の好みに合わせ、10・9・7インチと画面サイズの異なる製品を展開。ほかにも、タッチペン機能をつけたハイエンドのタブレット、スクリーンを折りたためばタブレットとして使えるノートパソコンなどの新製品を披露した。

 タブレットはドイツの街中にも自然に溶け込んでいる。家電量販店はフロアの入り口に常設のタブレット売り場を用意する。

 市民からは「米アップルとサムスンの人気が高い。鉄道会社がタブレットを大規模に導入し始めた」という声も聞かれた。

韓国サムスン電子の新製品はIFAで注目を集めた(上)。エイサーなどパソコンメーカーもタブレット強化に動く(下右)。無名の中国メーカーも商機をうかがう(下左)

CEOが情熱を傾けてプレゼン

 IFAの開催から1週間後。市街地に近くセレブ御用達として知られる米国ロサンゼルスのサンタモニカ空港。雲一つない青空が広がった9月6日は、いつもと異なる雰囲気が漂っていた。

 普段は飛行機の格納庫として使われる施設の前には全米から次々とメディアが集結。何台ものテレビ中継用車両が、関心の高さを示す。

 お目当ては、米アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾスCEO(最高経営責任者)が披露するタブレット新製品「Kindle Fire HD」だ。電子書籍端末での実績は言うに及ばず、昨年9月に発表した「Kindle Fire」も四半期に100万台以上を売るヒットとなった。

 「あらゆる価格帯で最高のタブレット端末を作った」

 大舞台に1人で立ち、声高らかに宣言するベゾスCEO。同氏が次々と新製品を披露し、価格を発表するたびに会場には拍手が鳴り響く。

 タブレットに傾ける情熱は、いつもと異なるプレゼンが物語っていた。スクリーンに米グーグルのタブレット「Nexus 7」、アップルの「iPad」を並べた性能比較表を映し出し、あらゆる角度からアマゾンの優位性を強調する。

 「ここまで他社との製品比較を前面に打ち出すアマゾンをこれまで見たことがない」。会場にいた聴衆の1人はこうつぶやいた。

 家電の展示会を席巻し、世界屈指のネット企業のトップが情熱を傾けて新製品を誇示する。これが、世界におけるタブレットの位置づけだ。

 調査会社IDCによれば、2010年に世界で1900万台ほどだったタブレット市場は今年は1億1700万台に、2016年には2億6000万台を超す。アップルがiPadを発表した2010年以降、市場は急成長し、今やスマホやパソコンと並ぶデジタル機器の一角を占める。

 「スマホとパソコンの中間にあるつかみどころのないな商品ではないか」という見方は国内でしか通用しない。タブレットは世界を変え始めている。

日経ビジネス2012年9月24日号 28~29ページより

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