世界に広がる、欧州発のエコカー技術「ダウンサイジング」。三菱重工はこの技術の基幹部品、過給器で世界一を目指す。「ハイブリッド」で世界制覇を目論むトヨタの手ごわい敵となる。

 「うちのターボチャージャー(過給器)が載っていないのは、トヨタとメルセデス・ベンツくらい。2016年に世界シェア3割で首位に立つ」

 三菱重工業の前川篤・相模原製作所長は、並々ならぬ決意を示す。

 ターボチャージャーは、自動車エンジンの熱効率を高め、その性能を最大化する「過給器」の代表的な製品。エンジンから出る排ガスを使ってタービンを回し、これに直結したコンプレッサーで新たな空気をエンジンに送る。過給器でより多くの空気をエンジンに供給することで、エンジン出力を高める。

 三菱重工は、高温下でタービンを高速回転させるこの技術を、飛行機や発電設備など重電分野で培ってきた。このため、自動車メーカーといえども開発は容易でない。三菱重工とIHI、米国のハネウエルとボルグワーナーの4社が世界市場をほぼ独占している。

 かつて、ホンダの「ターボエンジン」がF1レースを席巻したように、ターボチャージャーはガソリンがぶ飲みのスポーツカー向けとの印象が強かったが、ここ数年で大きく変わった。

 独フォルクスワーゲンなど欧州自動車メーカーが、過給器を使えばエンジン排気量を小さくしつつ、出力を維持できることに着目。「ダウンサイジング」と呼び、低燃費エコカー技術の本命と位置づけたのだ。ターボチャージャーの主戦場は中小型の量産車に移り、その勢いは世界に広がっている。

小型エンジン向け、4年間で6倍

 今や、トヨタ自動車が世界制覇を目論むHV(ハイブリッド車)は押され気味だ。トヨタが6月にHV技術の供与を決めた独BMWも、三菱重工の得意先。ダウンサイジングかHVか、世界中のメーカーが天秤にかける。

 三菱重工によると、北米でのターボチャージャーの需要は2016年に289万台と今年の3.1倍に膨らむ。このうち4割が排気量1~2リットルの小型エンジン向けで、4年で6倍以上に伸びる。

 ターボチャージャーを含む「汎用機・特車事業本部」の立て直しは、三菱重工の経営課題の1つ。昨年、ようやく部門黒字転換した。この特需を生かせなければ、完全復活は遠のく。現在400万台規模の生産量を1000万台に引き上げ、シェア3割の世界首位を目指すと宣言した。

 その本気度を示すように、世界規模で生産体制の見直しに着手。コア部品は人件費の安いタイで集中生産し、欧州、中国に続き米国でも組み立てを始める。

 一方、中核拠点である相模原製作所には、顧客の自動車メーカーから借りたエンジンにターボチャージャーを取りつけ、最適化するブースがいくつも並ぶ。前川所長は「試作品の製作期間を2週間に縮め、あらゆる排気量と出力のエンジンに迅速に対応できるようにする」と話す。

 そもそも、欧州勢がダウンサイジング技術を採用するのは、HVほど技術力や開発コストが必要ないからだ。むしろ、三菱重工が担うターボチャージャーの性能とエンジンとのすり合わせ技術が、クルマの競争力に直結する。

 エコカーの主導権争いは日本のモノ作りを代表するトヨタと三菱重工が競る構図にもなりそうだ。

(伊藤 正倫)

日経ビジネス2012年9月24日号 16ページより目次

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