鉱工業生産指数の低下が鮮明になっている。内需が息切れする中、中国など外需も失速した。日本の景気後退リスクは急速に高まっている。

矢嶋 康次
ニッセイ基礎研究所 経済調査部門 チーフエコノミスト
矢嶋 康次 1992年東京工業大学卒、日本生命保険入社。95年ニッセイ基礎研究所で日本経済・金融など担当。2012年から現職。

 世界経済の混乱が日本に大きな影響を及ぼしている。7月の鉱工業生産指数は前月比で1.2%低下した。8~9月の予測指数で引き延ばすと、7~9月期は3%程度の低下になりそうだ。経済産業省は生産の基調判断を「横ばい傾向」で据え置いたが、既に下降局面に入った可能性は否定できない。

 日本経済を取り巻く環境は厳しい。製造業の頼みの綱である外需は減少傾向にある。最大の貿易相手である中国向け輸出額を見ると、昨年10月から大半の月が前年同月を下回った。欧州の景気後退で中国から欧州への輸出が減り、経済成長が鈍化しているためだ。

 内需も期待できない。震災復興の予算措置は今年7~9月をピークに減少していく。エコカー補助金が終了し、内需を支えている新車市場も縮小する。ここに政治の混迷が追い打ちをかける。赤字国債発行法案が廃案になり、政府は5兆円の予算執行の抑制を決めた。地方交付税の支払いが遅れることで、地方経済の悪化は避けられない。

 米国は量的緩和第3弾(QE3)に踏み切った。ドル安傾向が長期化し、円高是正も期待できないだろう。外需が減り、内需が息切れし、円高も続く。鉱工業生産指数の悪化は、厳しい経済の実態を反映している。

消費増税に再び異論も

 東日本大震災で落ち込んだものの、現在の日本経済は2009年3月を谷とした拡張期にある。しかし、景気後退期に入るリスクは高まっている。いったん景気後退期に入れば1年以上続く。2014年4月に予定されている消費増税の是非について、再び異論が出てくるだろう。危機的な水準にある日本の財政再建が、遠のく可能性がある。

 状況を打開するカギは中国経済の回復だ。中国政府は総額1兆元(約12兆円)の公共投資をする方針だ。指導部が入れ替わる共産党大会が近づき、景気刺激策が不可欠と判断したようだ。日本と違い、中国は政策を確実に実行する。早ければ来年春頃には中国の経済成長率は上向くだろう。

 日本は、こうした需要を取り込む施策が不可欠なのに、尖閣諸島の領有権を巡り日中関係は最悪の状態だ。経済制裁があれば対中輸出が一段と落ち込みかねない。このままでは決められない政治と出口の見えない経済に見切りをつけ、企業が日本から脱出していくだろう。景気後退リスクが高まっている現実を念頭に置いた外交と、経済政策が求められている。

(構成:阿部 貴浩)

日経ビジネス2012年9月24日号 24ページより目次

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