企業統治の究極的な目標はリーダーの育成である。りそなは「ポスト細谷」の発掘が長年の経営課題とされてきた。次代のりそなを担うのは誰なのか。最後に胸の内をすべて明かす。

(写真:丸毛 透)
細谷 英二(ほそや・えいじ)氏
1945年熊本県生まれ。68年東京大学法学部卒、旧日本国有鉄道入社。87年の国鉄分割・民営化作業に関わった後、東日本旅客鉄道に入り、2000年副社長。2003年からりそなホールディングス会長に転じ、10年目に。

 いよいよ最終回ですね。まずは、りそな再生を引き受けてからの10年を振り返ってみたいと思います。

 リーマンショック*1欧州財政危機*2の荒波にもまれ、経営者としてはマネーが国境を超えて移動していることを改めて実感しました。世界で市場が変動する中、債券や株式の運用にも常に注意を払わないといけません。銀行業は一連の規制強化の流れもあり、とても難しいビジネスになっています。

 それ以前の鉄道経営の場合、ハードのインフラを使い、列車を動かすという意味では、経営者の目線である程度のリスクが把握できたわけです。

 一方で銀行業は、お金を貸す際の与信業務を例に取ると、顧客と我々の間に情報のギャップ*3があります。銀行業は経済が順調に拡大している場合は簡単でしょうが、デフレ下では顧客である企業や個人にどんなリスクが潜んでいるかが見えにくくなりました。

 かつ、市場の変動という悩ましい環境にさらされ、想定外の事態になれば経営成績が大きく悪化するケースもあるわけです。オリックスの宮内義彦会長と雑談した際に、金融業はリスクマネジメントの面で見ると、日本で最も難しい産業の1つではないかとの意見で一致しました。

後継者育成が最重要

(写真:時事通信)

 銀行業のような規制産業の場合、経営戦略の自由度に一定の制限があるため、金融ビジネスで勝ち残るポイントはいかに人材を適切に育成するかが分かれ目になります。いろいろな事業会社のトップとのつき合いで感じるのは、リーダーの器量以上の組織は絶対にできないという事実です。それを踏まえると、経営トップにとって後継者育成は最重要テーマと言えます。

 この後継者育成は企業風土を変える経営戦略作成よりも大事だと考えています。後継者の指名を間違えて衰退した企業もたくさんあるわけで、どう選抜するかが大きな焦点なのです。

 では、ここで質問を出します。

 上のモニターを見てください。私の就任当初の記者会見写真です。それから10年目になりますが、私の後継者に対する正しい考えはどれでしょうか。3の「自分で続ける」ですか。いえ、私は3年後にもう70歳になります。1の「外部から採用」でしょうか。よく聞かれますが、それも違いますよ。正答は、2の「内部から登用」です。

 過去に「ポスト細谷は誰なのか」という質問を数多くのメディアから頂きました。金融市場の中に「細谷退任がりそな最大の経営リスクである」という見方があることも認識しています。そのうえで私の偽りのない胸の内を明かしたいと思います。

 正直に言うと、りそな会長就任後の最初の2~3年は、自分の後継者は社外から起用しないと、この組織が変わらないという危惧の念がありました。再生が軌道に乗り始めた3年目頃でしょうか。実際に私の人脈を通じて人選も密かに試みました。

 何人かは数回会って、いろいろな考え方を聞きました。ただネックになった部分の1つは報酬*4です。こちらは公的資金注入から再建している会社で、高い報酬を出せるわけがありません。

 結局、相手が踏み切れなかったこともあり、外部からの人材登用を諦めたわけです。社外に人を探しても、意中の人はなかなかいないものでした。

 再生が軌道に乗るまでの当初3年は、すさまじい苦労の連続でした。苦しい時が過ぎ、外からトップ含みの人材を持ってきたところで、その時期を知らないだけに後継者にしても社員の気持ちがついていかないとも考えました。公的資金注入後の混乱や厳しい子会社の処理、そうした経験を持たない人がきれいごとのメッセージを出しても社員は耳を傾けないでしょう。

 私と同じような人材を選ぶのは、もともと不可能です。ならば、社員を競い合わせ、リーダーを育てるのがよいと考えました。

 まだ結果が十分に出ているとは言い難いですが、再生が軌道に乗り始めた2006年頃から経営人材の育成に力を入れ始めたのです。1人の経営トップではなく、経営トップのグループにきちんとした人材を選び、チームワークで改革を進める組織作りが狙いでした。

 最初に社外取締役も交え、求める役員像を明確にしました。簡単に言うと、変革志向や勝ちにこだわる姿があり、そのうえで新しいりそなを作る戦略やアイデアに富み、組織を進むべき方向にしっかりと導く人材です。りそなは旧あさひ銀行と旧大和銀行の合併行でもあるので、そのしがらみを残さないことも重要でした。

変革のリーダーを育てる

 機能する組織は「2:6:2」と言われることがよくありますね。いわゆる優秀な社員が2割、普通の社員が6割、そのほか2割でも組織がちゃんと回りますよと。しかし、私は変革のリーダーはそうたくさんいなくても組織が変わると見ています。

 いわゆる優秀な社員の2割の中からさらに2割のリーダーを選び出すのです。

 要は、社員の全体の4%に変革を志向する「鬼」がいれば、組織は絶対に変わると信じています。この4%をどう選んで育てるのがよいかと考え、これまで試行錯誤してきました。育成と選抜のプログラムを組み合わせ、リーダー候補を育て始めたのです。

 4%の「鬼」を育てる過程は5つの流れに大別できます。

 まずは「後継者推薦制度」*5というシステムです。毎年秋に私が全役員を対象に後継者推薦の「提出シート」をメールします。まず自分の役職の後任に当たる人材を2~3人選ばせます。次に5~7年後の中長期的な視点に立ち、その職に就くのがふさわしい人材を同じく2~3人選び出すのです。女性や若手にも注目し、人材をデータベースに残して経営トップ間でリストを共有します。

 2つ目に社内マネジメントスクールに当たる「りそな・エグゼクティブ・コミュニケーション・スクール(RECS)」*6への選抜があります。

 例えば、金曜夕方にスズキの鈴木修会長ら有名な経営者に講演してもらい、翌日の土曜は銀行の経営者にとって必要な銀行財務やリスク管理、IFRS(国際会計基準)などを勉強します。いくつかのグループに分け、多くの課題に対して提言を募り、私もそれぞれの意見に経営者の視点からコメントしています。

 最初は経営層の底上げを図るために全役員を対象にしましたが、2009年以降は役員になる前の部長や支店長クラス20人ほどを指名する形になりました。役員昇格に向け、その能力を見極める仕組みを明確にしたのです。

 実際に役員へ昇格した後も大変です。3つ目は、新任役員勉強会に加え、ほかの企業役員と議論する外部セミナーに数多く参加します。執行役員から次の取締役に昇進する過程では、疑似役員会に出席し、外部の人材コンサル会社の評価も交えて資質を精査するのです。

 取締役に昇格する直前の役員には、こんなプログラムもあります。日産自動車グループも活用していますが、ある会社の社長になった前提で行動する「1日COO(最高執行責任者)」の研修です。

 一例では、社内打ち合わせの最中に突然の不祥事が起こります。すぐに記者会見を開かないといけないが、それにどう対応するのか。朝9時から夕方までの間、何が起こるか分からない状況を経験させて、本人の資質を指摘してもらいます。

 それらを突破すると、4つ目として専務執行役員以上の上級役員に向けた研修プログラムがあり、経営トップとしての能力を繰り返し確認します。最終段階では社外取締役の同席の下、私も相当な時間をかけて対話します。この長いプロセスを経て、ようやく傘下銀行の社長に就く機会を得るのです。

 役員を選ぶ過程を「見える化」し、私も様々な研修に顔を出して肉声でメッセージを発信します。今は次世代のりそなグループを引っ張るリーダーを作り出したいとの思いで、若い人たちにチャンスを与えていろいろな挑戦をしてもらっています。

 企業は持続してこそ、初めて価値があります。経営改革に終わりはなく、経営者にとって絶えざる革新を続けることが使命でしょう。その大前提にリーダー育成があり、客観性が高いプロセスでトップ人材を育て、経営改革を続けなくてはいけません。

2006年から人選を「見える化」
りそな役員選定プロセス

胸中の迷い消える

 私は今春に経営上の代表権*7を返しました。若返りを進める背景には、私の胸中で現在の人材からリーダーを育成することに迷いが消えた点もあります。社外取締役との議論でも、チームとしてのマネジメントでいきましょうという見解は同じです。

 日々の業務の大半は現在の経営陣に任せていますが、今も資本政策や人材育成*8の相談には乗っており、取締役会と株主総会の議長は務めています。もちろん最重要課題は残る公的資金の返済です。残りが8700億円になり、しっかりと業績を上げて、できるだけ早期に完済したいと考えています。

 公的資金を完済した後は、アジアに進出する顧客企業への支援を強化したいですね。りそなは現在、海外拠点網*9がメガバンクに比べ劣っています。若い社員と食事をした際、「アジア全体に通用するような銀行のビジネスモデルを作ろうよ」と話しています。

 どこの国でもリテールバンクは大変重要であり、高い夢を持とうと呼びかけています。ICT(情報通信技術)の機能を活用し、サービスやオペレーションの変革にも力を入れたいです。

 企業の良きブランドは、自分たちの経営の独自性が世の中に評価され、それが社員の自信にもつながって初めて形作られます。江戸時代から「売り手よし、買い手よし、世間によし」との言葉があります。りそなは公的資金注入でブランドが一度傷つきましたが、「世間によし」の評価獲得を目指す経営のステージを迎えたと思います。

 これで私の経営教室は終了です。長い間、おつき合いいただき、誠にありがとうございました。

(構成:馬場 燃)

*1
米証券大手リーマン・ブラザーズが2008年9月に経営破綻。負債総額が60兆円を超える大型倒産になった。リーマンは信用力が低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題を契機とする住宅ローン資産の値下がりで多額の損失を計上した。資本不足に陥り、事業継続が困難になった。この破綻を機に金融市場でお金の流れが滞り、世界中のモノやサービスの動きも止まった。世界に大不況をもたらし、日本でも多くの工場での「派遣切り」などが横行した。該当本文に戻る
*2
ギリシャを発端とする欧州の深刻な財政問題。2009年に発足した政権が経済統計を見直した結果、過去の巨額の財政赤字隠しが発覚した。ギリシャ財政への不信が高まり、2010年4月に格付け会社がギリシャ国債の格付けを大幅に引き下げて問題が深刻になった。ギリシャと同様に財政赤字の大きいアイルランドやポルトガル、スペイン、イタリアの周辺国にも影響が波及。欧州の信用不安が収まらず、共通通貨ユーロの信認が危機に陥っている。該当本文に戻る
*3
銀行と顧客の間に存在する情報の非対称性。銀行は顧客の事業すべてを把握することが難しい。顧客の信用コストについては銀行が見立てた数値によって仮置きするしかないため、融資先の実際の業績次第で経営内容が大きく変わる。該当本文に戻る
*4
公的資金の注入を受け、危機に陥っていたりそなの経営を引き受けた細谷会長の年収は、当初東日本旅客鉄道時代の半分だったと見られている。メガバンクの社長は約1億円の年収も珍しくないため、大手行トップの報酬としては見劣りする。該当本文に戻る
*5
2007年から開始した後継者の育成を目的とした制度。将来役員になれそうな人物を早い段階から発掘することを狙いとする。役員には男女それぞれを推薦するよう求めている。これまでの取り組みで数百人規模をリストに挙げた。該当本文に戻る
*6
りそなが人材育成の最も大きな柱と位置づける制度。2006年から始め、有名な経営者の講演は年に4回開いている。役員手前の社員には財務やシステムなどの各担当役員が必要な知識を伝える勉強会などを開催している。該当本文に戻る
*7
委員会等設置会社のりそなで、細谷氏が就任した際の肩書は、取締役兼代表執行役会長。今年6月に「代表」が外れた。現在は檜垣誠司社長と東和浩副社長が代表権を持っており、集団経営体制を敷いている。該当本文に戻る
*8
細谷会長は社内に加え、経済人の代表の1人として社外の人材育成にも力を入れている。今年2月に発足した「日本アカデメイア」という政官財の交流を促す組織で精力的に働いており、人材レベルの底上げを目指している。該当本文に戻る
*9
りそなの海外駐在員事務所は上海、香港、バンコク、シンガポールの4カ所にあり、顧客である中小企業の現地進出に対してアドバイスしている。インドネシアには「りそなプルダニア銀行」という連結子会社がある。開業から50年を超え、総資産は約700億円に上る。社長らを派遣し、高成長が続くインドネシアで事業を展開する日系企業を支援する。りそなは経営環境が悪化した1990年代後半に海外拠点の多くを廃止。今後のグローバル展開が課題になっている。該当本文に戻る
日経ビジネス2012年9月24日号 86~89ページより目次