ネット帽のような特製の「ヘジャブ」で出場したシャハルハニ選手(右)(写真:ロイター/アフロ)

 8月にロンドンを訪れ、オリンピックを観戦した。日本人選手の活躍のほかに、もう1つ心を揺さぶられたシーンがある。

 柔道女子78kg超級。サウジアラビアから初の女子五輪代表となったウォジダン・シャハルハニ選手だ。1回戦で敗れはしたが、会場からは温かい拍手が起こった。16歳の少女が刻んだ一歩は、イスラム圏のみならず、多くの女性に勇気を与えたと思う。

 ロンドン五輪はすべての競技で男女の参加が可能になった記念すべき大会となった。スポーツ界では男女の機会均等が実現されたが、翻って日本の男女の雇用機会はどうだろうか。

 日本の男女雇用機会均等法が施行されて26年が経つ。労働者の総数に占める女性の割合は42%と、過去最高になったが、女性の賃金は男性の約7割。従業員100人以上の会社で女性の課長職はわずか7.2%にとどまっている。

 内閣府の男女共同参画局は2003年に、「2020年までに指導的地位に女性が30%を占める」という目標を掲げている。昨年末の閣議決定では女性の活躍促進が重点施策に盛り込まれ、今年6月にはこれを踏まえた「働くなでしこ大作戦」が発表された。

 この中で私が評価したいのは、女性の活躍促進の「見える化」だ。女性活躍に関する指標について、有価証券報告書やIR(投資家向け広報)資料で記載を検討するなど、情報開示の促進が期待されている。私が社外役員を務める3社の株主総会でも、女性幹部の登用についての質問が必ずあり、株主からの関心が高いことを物語っていた。

「時間単位有休」が大人気に

 昨年、テルモで行われた女性フォーラムに講師として参加した。すると当の女性社員から、「なぜ、今さら女性なんですか」「たとえ昇進しても、管理職比率を上げるためと思われたくない」という意見が上がり、驚かされた。ただ議論を重ねるうちに、「働きやすい環境づくり」という視点に立ち返り、女性たちから様々な建設的な意見が出た。結果として有意義な会になったのを覚えている。

 さらに驚かされたのが、フォーラム後わずか半年の今春から、テルモで新たな人事施策が6つも打ち出されたことだ。在宅勤務やキャリアリターン制度のほか、興味深いのは「時間単位有休」だ。これは半休よりも短い、1時間単位で有休を使える制度。女性社員から「子供の予防接種なら2時間程度で済むので、とても使いやすくなった」と喜ぶ声が多く聞かれた。この制度は男性にも「歯医者に通える」など好評で、女性に優しい職場は男性にとっても良い環境になる好例だろう。

 日産自動車の場合は、女性の管理職登用を管理者の人事評価に導入した。すると男性上司の間で、「優秀な女性の人材を我が部署に」と取り合いになっているという。テルモと日産に共通するのは、いずれも大規模な制度改革でもないし、大幅なコスト増になるものでもないという点だ。

 1996年のアトランタ五輪では、女性選手の比率は34%。それがわずか16年で44.4%と、10ポイント以上も伸張した。スポーツで実現できている機会均等が、実社会で実現されないとしたら、それは「必ずやり抜く」という意識の問題にほかならない。

 レスリング、サッカー、卓球、バレーボール…。結果は男性を凌駕し、我々日本人の心を熱くした多くが女性というのはご承知の通りだ。スポーツのみならず、職場でも女性が生き生きと活躍できるよう、まずは「見える化」から始めてみてはいかがだろうか。

松永 真理(まつなが・まり)氏
松永 真理(まつなが・まり)氏明治大学文学部仏文科卒業後、リクルート入社。「就職ジャーナル」編集長などを歴任後、NTTドコモ入社。iモードの企画開発に携わる。2002年から現職。


日経ビジネス2012年9月24日号 128ページより目次