規則正しい生活や素食が健康の基本だとすれば、長らくホテル業界にいた私は、健康とはほど遠い生活を送ってきました。勤務は不規則ですし、豪華な会食も多い。お酒も胃カメラ検査の前日以外は364日飲みます(笑)。その分、不摂生をしているという自覚がありますから、運動をするように心がけています。

 米国にいた頃、日本の健康体操「真向法」の冊子を読む機会がありました。そこに「体の柔軟性は心の柔軟性を作る」といったことが書かれていて興味を持ち、冊子を参考に始めてみました。

 例えば、両脚を左右に開いて、腰を立てて座った姿勢から、背筋を伸ばしたまま息を吐きながら、上体を倒していく運動があります。最初は体が硬くて、脚を開くのも前屈するのも大変でしたが、続けているうちに難なく開脚できるようになり、上体はお腹や胸がぴたりと床に着くまで倒せるようになりました。体が柔らかくなると、気持ちにゆとりが生まれるのか、考え方も柔軟になっていった気がします。

 この体操を始めてから20年以上経つでしょうか。数えで60歳になる現在も、体の柔軟性を維持しています。疲れたり飲み過ぎたりした時には、前屈にいつもより時間がかかるので、体調のバロメーターにもなっています。

「鈍」の感性を持つ

 週に何度かジョギングもしています。携帯音楽プレーヤーにジョギング用の曲をいくつか用意してあって、その日の調子によって選び、聴きながら走ります。曲のリズムに自分の体や心を合わせていくと、心身をいい状態に持っていきやすくなるのです。自分の中にリズム感を持つことは、仕事をするうえでも役立つように思いますね。

 私は自分を助けてくれる「運」、根気強く物事を進めていく「根」、そして、何事にも動じない「鈍」を大切に考えています。時に鋭敏な感性は必要ですが、物事をあるがままに受け入れる感性も必要だと思うのです。これも米国にいた頃に感じたことです。

 日本とは環境も人間関係もまるで異なる米国では、思いがけない様々なアクシデントが起こりました。そうした中では、何が起きてもうろたえない、ゆったりとしたペースを自分の中に作ることが大切だと思えました。

 私の場合は、こうした心の柔軟性やリズム、鈍の感性といった精神的なことの方が、健康に与える影響が大きいような気がします。ですが、目まぐるしく変化する現代社会では、自分自身の心を見つめる時間が持ちづらくなっています。そんな時にふと立ち止まり、100年先を見据えた生き方を考える時間を持とうと、3年前から長野県の善光寺などで「寺子屋百年塾」を始めました。この活動から学ぶことは多く、今の私の活力にもなっています。百年塾は、今後もライフワークとして続けていきたいと思っています。

高野 登(たかの・のぼる)氏
高野 登(たかの・のぼる)氏1953年長野県生まれ。74年に渡米し、米国有数のホテル勤務などを経て、90年ザ・リッツ・カールトン・サンフランシスコの開業に携わる。94年同日本支社長に就任。2009年9月退社。2010年から現職。

 

(談話まとめ:田村 知子=フリーランスエディター)
日経ビジネス2012年9月24日号 58ページより目次