この9月半ば、ヤマハ発動機は新製品を投入した。商品名は「レイ(Ray)」。インド市場向けに開発した125ccのスクーターで、販売価格は4万5000ルピー(約6万7500円)前後。従来の主力商品は7万ルピー(約10万5000円)以上のスポーツ型の高級車なので、より低価格帯のゾーンを狙うことになる。

 この新商品の販売を伸ばせるかどうかが、ヤマ発のインド事業、さらにはグローバル戦略の将来をも占う。

 レイは狙う顧客層を絞り込んでいる。若い女性だ。紫をシンボルカラーに設定し、デザインも女性を意識したものにした。イメージキャラクターにインドの有名女優を起用した。既に数社がスクーターを投入し販売台数を伸ばしている。だが、女性向けを前面に打ち出したのはヤマ発が初めてだ。

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新興市場で主導権を握る

 2011年のインド市場全体の2輪車販売台数は1300万台。既に中国に次ぐ世界2位の規模となっているが、街中で見る2輪車の数はそれほど多くない。道路を埋め尽くさんばかりに2輪車が走っている東南アジアの光景とは対照的だ。2011年の2輪車の普及率は20人に1台。東南アジアの4~7人に1台と比べてまだまだ拡大の余地がある。

 女性に限れば普及率はさらに低く、80人に1台程度。民族衣装のサリーを身にまとう女性が多いインドでは、2輪車はこれまで女性にとって遠い存在だった。

 ヤマ発は、この未開拓市場にあえて賭ける。女子学生や若い働く女性が、通学や通勤の足としてスクーターを使い始めると読んでいるからだ。背景として、女性の社会進出がある。サリーを脱ぎジーンズを履きこなし、欧米と同じような服装や生活を好む女性が増えている。

 女性向けを突破口にして、「高級車」ではないゾーンで販売台数を稼ぐ。ヤマ発は、この戦略でインド市場を一点突破し、中長期的な成長につなげようと目論む。

 インディア・ヤマハ・モーターの鈴木啓之社長は「インドは、規模と価格競争力のある強力な地場メーカーと戦わなくてはならない厳しい市場。東南アジア市場とは異なる。東南アジア市場は日系メーカーがシェアを押さえており、同じ性能のバイクがインドの1.5倍の価格で売れる」と話す。

 そのインドでヤマ発は、2016年までにシェア10%、スクーターでは15%のシェア獲得を目標に掲げる。低価格のスクーターは競争の激化も予想されるが、これから成長する市場であるだけに主導権を握ることが可能だ。現在の主力商品のような比較的高価なモデルは1台当たりの利益率は高くても、全体の生産規模が不足し、生産コストを下げることが難しい。

インドを輸出拠点に

 数を増やすことで生産コストを引き下げ、利益の出る体質にする。そのために生産体制も抜本的に見直す。

 ヤマ発は今年5月、インド南部のタミルナドゥ州のチェンナイに新工場を建設すると決定した。2014年から稼働させる予定だ。スクーターの需要が大きい南部に生産拠点を持つことで、物流コストを抑える狙いがある。さらに、主要な部品メーカーが入居する「ベンダーパーク」を工場の隣接地に用意する。部品の輸送コストを引き下げるとともに、生産の効率化や在庫の最適化を図る。

 ヤマ発はこうした準備を整えたうえで、インドの生産拠点をほかのアジアや南米市場に向けた輸出拠点へと育てる。需要拡大を見込み、北部のウッタルプラデーシュ州にある現在の工場の能力拡張も進め、インド国内の生産能力を年間60万台から280万台(このうちチェンナイは180万台)にまで引き上げる。第2の生産拠点にチェンナイを選定したのは港湾に近いから。輸送コストを削減できるため、部品の輸入や完成品の輸出に有利だ。

 巨大なインド市場でスケールメリットを出し、それを活用して低コスト生産を実現。ほかの新興国市場への輸出拠点として機能させる。こうした長期的な視野に基づいた戦略を採用する企業が今後も増えるだろう。

日経ビジネス2012年9月17日号 44~45ページより

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