ニコンがインドのデジタルカメラ市場において、一眼レフの販売を急激に伸ばしている。

 この市場の成長は著しい。2009年に3万台だった販売台数は、2011年には17万台に拡大した。ニコンはこの市場で55%と圧倒的なシェアを獲得している。

 数年前まで、インドの一眼レフ市場では顧客の大半が「Town Photographer」と呼ばれるセミプロカメラマンだった。観光地や結婚式の会場で商売をしている。しかし、ここ1~2年の間に、個人ユーザーが増えている。月収3万ルピー(約4万5000円)前後の中間層がその中心だ。

実機を展示する売り方をインドに初めて導入(中央がニコンインディアの高階弘史社長)

セミプロから一般消費者へシフト

 2007年にインドに進出したニコンがこの個人ユーザーを増やすためには、越えなければならない大きな壁があった。市場に流通する並行輸入品の存在である。カメラに課せられる輸入関税を逃れるための、いわゆる「グレーマーケット」の製品が市場にあふれていた。非正規品は、ニコンの知名度を高めることには役立った。特にTown Photographerの間でブランドイメージを確立するのに貢献した。しかし、拡大する中間層のユーザーはニコンの正規品に導かねばならない。

 このためにニコンがまず取り組んだのはサービス体制の強化だった。デリーやムンバイなど主要都市にある5拠点にサービスセンターを設置。経験豊富な日本人エンジニアを常駐させ、ほぼすべての修理や補修をその場で完結できるようにした。また、自社施設と同等の機能を持つ契約サービスセンターを全土の18カ所に設けた。さらに各地のサービスセンターにカメラを送るための集配拠点も50カ所以上に設置した。

ニコンがムンバイに設置した屋外看板

 個人ユーザーの多くは、子供の誕生日など大切な行事のためにカメラを購入する。迅速に修理できるサービス体制があるかどうかは、商品を選別する際の大きなポイントになる。サービスセンターによる迅速対応は、部品在庫と補修技術を持つニコンにしかできない。これが非正規品を扱う業者との差別化につながった。

 ニコンは、こうしてアフターサービスを充実させたうえで、2009年から販売網の拡大に手をつけた。現在、ニコン製品の販売店はインド全土で3000店に上る。拡大に乗り出す前は500店舗しかなかった。販売店の多くは、証明写真の撮影や現像を手がける小さなカメラ店、もしくは、家電販売店である。

 販売網を全土に拡大するため、代理店の体制も改革した。2つの代理店が全国の販売店をカバーする体制を改め、全土で30の代理店と契約を結んだ。州ごとに1~2の代理店が存在する計算になる。

注:グレーマーケットは並行輸入品のこと

 ニコンインディアの高階弘史社長は「インドでは市場が分散している。上位10都市の人口を合計しても総人口の1割にも満たない。今後10年程度は、地方の小規模店舗が主なチャネルであり続けるだろう。それらをきめ細かくカバーできる代理店網が必要だった」と話す。地方都市では、公共交通機関や道路網などの交通インフラが整っていないため、消費者が遠方の大型店に通うことは難しい。ニコンにとって、近所の小さな販売店がおのずと重要になる。

 ニコンが代理店網を拡充した背景には、地元のことは地元に任せなければ、販売店をきめ細かくフォローすることはできない、という考えがあった。言うまでもなく、インド市場は広い。さらに、地域によって言語や商慣習、消費者の購買行動が異なる。例えば、インドにおける最大の商戦は10~11月、「ディワリ」と呼ばれる宗教イベントの前後だ。しかし、南部のケララ州では8~9月の「オーナム」と呼ばれるお祭りがピークとなる。そのほか、税制や祝日などの違いもある。

 販売店の開拓は代理店任せにせず、「ロードマン」と呼ばれる営業担当者が全国各地を自らの足で回った。高階社長も事あるごとに足を運んだ。2008年に赴任して以来、これまでに74都市を訪問した。その大半は、日本では名前も知られていない地方の中小都市である。来年3月までに、販売店を3500店舗にまで増やす計画だ。

 販売店の店頭もテコ入れした。カメラの実機を展示して、画質の良さや操作性を体験してもらえる展示方法に変えたのだ。こうした売り場は、日本では当たり前。しかし、インドではニコンが初めて導入した。

 防犯機能のある展示台を開発して供給することで、販売店に便宜を図った。高階社長は「販売店は最初、お客様に実物のカメラを触らせるのを嫌がったものの、徐々に理解してくれた。今では多くのブランドが同じ方法を採用するまでになった」と話す。

日経ビジネス2012年9月17日号 43~44ページより

この記事はシリーズ「特集 インドで売る」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。