最近、医療分野を巡る企業の攻防が目を引きます。内視鏡に強みを持つオリンパスの株取得を巡って、ソニーやテルモなど多数の企業が名乗りを上げているのは典型でしょう。各社の中期経営計画には、成長の伸び代として医薬や医療機器分野に期待する記載が目立ちます。新規事業として定款に加えるところもあります。高齢化の進展を受け、この分野に期待を寄せる心情は分かります。しかし、新規参入組がこぞって成長の果実を得られるほどバラ色と言えるでしょうか。

 医薬ほど内側と外側にいる人の間で、将来の見方に温度差がある業界も珍しいと思います。そもそも1990年代以降、製薬業界では画期的な新薬はほとんど生まれていません。薬の審査が厳格化したこと、コレステロールや高血圧など原因が分かりやすい病気の薬が開発し尽くされたことが背景にあります。そこに価格が安い後発医薬品の普及が押し寄せている。他業界の人には隣の芝生は青く見えるのかもしれませんが、実際には、収益確保に汲々としているのが現実なのです。

 儲かると分かれば、同じような商品をぶつけ合い、過当競争で体力をすり減らしてきたのが日本企業の常。それが今度は、医療分野で起きようとしている気がしてなりません。ガンやアルツハイマーなど発症のメカニズムが明確でない病気から希少疾病まで、新薬を待つ患者は世界中にいます。皆が同じ分野を目指していては技術革新は進みません。人の命を預かるこの分野には、「儲け」を超えた行動指針が求められます。特集で「クスリの未来」について考えました。

(山川 龍雄)

日経ビジネス2012年9月3日号 1ページより目次

この記事はシリーズ「編集長の視点」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。