大手調剤薬局の店舗では薬剤師業務の機械化が進む(写真:菅野 勝男)

 「毎日、処方箋を基に決められた通りに薬を詰め合わせるだけ。正直やりがいを感じる場面は少ない」。ある大手チェーンに勤務する若手の薬剤師はそう打ち明ける。

 薬の専門家である薬剤師が本来果たすべき業務は多い。医師から出された処方箋に従って薬を処方したり、一般用医薬品を管理販売したりするのはもちろんのこと、地域住民の健康相談を引き受けることも重要な役割の1つだ。「かつて薬局は地域の健康拠点だった」とエス・アイ・シーの堀美智子取締役は振り返る。だが、今はどうだろうか。調剤薬局の敷居は高く、処方箋がないのに調剤薬局に足を運ぶ人はほとんどいない。

 もちろん、豊富な医薬の知識を持つ薬剤師の存在は重要だ。医療過誤が起こることのないように調剤し、問題があれば医者に連絡する役割を担う。積極的に患者の健康相談に乗る薬剤師も少なくない。

 だが、多くの薬剤師は調剤室にこもり、ひたすら調剤にいそしんでいるのが現状だ。「薬剤師が担うべき業務の間口は広いが、その職能を全うしていない場合が多いのも事実」。日本薬剤師会の生出泉太郎・副会長も問題を認める。

 その原因の一端は、医薬分業で広がった「門前薬局」にある。隣接する病院が出した処方箋を、忠実に処理していれば、薬価差による利益と調剤報酬が手に入る。そのため、「患者ではなく、病院の方ばかりを見て仕事をする調剤薬局や薬剤師が増えてしまった」と多くの業界関係者が指摘する。

 ただ、医薬分業率が60%を超えた今、処方箋通りに袋詰めするだけの薬剤師を見る目は厳しい。「薬剤師の存在意義とは何か。それが、厳しく問われることになる」と中小薬局の経営支援を手がけるネグジット総研の平野克己部長は言う。

 しかも、薬剤師が調剤室にこもっている間に、じわじわとその職域が切り崩されつつある。2009年の改正薬事法で「登録販売者」という資格が新設された結果、薬剤師の資格がなくてもOTC(一般用医薬品)の一部を販売できるようになった。病院でも特定看護師に対して医薬品の処方に関する権限を拡大させようとする議論がくすぶる。さらに、大手薬局チェーンでは調剤業務の自動化が進み、薬剤師の仕事は減りつつある。

 薬剤師を養成する大学の薬学部は、2006年から医者と同じ6年制課程に移行しており、今年から臨床経験の豊富な新卒薬剤師が現場に入り始めた。だが、現状では彼らの経験を生かす場は少ない。「専門性」を発揮する職場をどう作るのか、そこに薬剤師の未来がかかっている。

日経ビジネス2012年9月3日号 29ページより

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