軟調に推移してきた銅の国際価格に、底入れ機運が出てきた。中国の在庫調整が一服し、需給バランスは改善している。最大の需要家・中国の金融緩和が市況好転のカギになる。

西村 光彦
ゴールドマン・サックス証券 投資調査部アナリスト
西村 光彦2009年INSEAD卒業後、ゴールドマン・サックス証券入社。日本株では商社、非鉄金属セクター、韓国株では造船、資源全般を担当。

 「Dr.Copper」と言われる銅の価格は、世界の景気動向を反映しやすく、世界中の機関投資家やエコノミストらが注目する景気の先行指標だ。世界景気と同様に、近年の銅市場においては中国の存在感が増している。現在の世界の銅消費の4割を一国で占めており、中国の需給と国際価格の連関性も高まっている。

 足元の銅の値動きは低調に推移している。上グラフは、国際指標であるロンドン金属取引所(LME)の銅価格の推移に加え、中国・上海の先物取引所(上海期貨交易所)における税金の影響を控除した銅価格からLME価格を引いた差額だ。

 この価格差がマイナス値にある場合、LMEが中国価格より高く取引され、中国から中国外の市場へ割安な銅が流出しやすくなり、国際価格を押し下げる要因となる。足元の価格差はLME価格がやや割高ではあるが、徐々に価格差は縮小してきており、中国発の国際市況悪化は落ち着きつつある。

在庫調整は一服

 これを裏づけるもう1つのデータが中国の銅在庫の量だ。下グラフの通り、今年春は中国が異常なまでの在庫積み増しを図ったが、それ以降は在庫調整を進めた。これが市場の撹乱要因になったと言える。しかし、この在庫調整が足元で一段落したため、価格も下げ止まった。短期筋の資金も引き揚げており、足元の国際価格の水準は、現実の需給バランスを反映している。

 足元の国際価格は1トン当たり7500ドル前後の水準にあるが、当社では、3カ月後に同8000ドル、半年後は9000ドルと予想している。まだ在庫水準は高いとはいえ、中国で発電設備や送電線向けなどで消費量が増える中では、今後市況の回復が見込める。

 今後の価格上昇のトリガーは、各国の金融緩和策の出方にある。中国をはじめ、欧州連合(EU)や米国はいずれも金融緩和の必要性を認めるも、穀物価格高騰や原油値上がりを背景に、インフレを懸念して踏み込めていない。インフレ批判を避けるために、「誰がババを引くか」という様子見の状況だ。

 日本企業への影響を考えると、極端な銅価格の下落がなければ、総合商社を中心に現在の価格水準は収益の底支え要因となる。三菱商事や住友商事、丸紅は好況時には利益全体の1割ほどを銅事業が占める。また、各社の保有する銅権益は軒並みコストが低く、現在の価格水準で十分な成長投資資金を確保できる。むしろ今後の市況回復で収益改善が期待できるだろう。

 三菱商事と三井物産も関係した、チリの銅鉱山権益を巡る資源メジャーとチリ銅公社の係争がこのほどようやく和解に至った。この件が暗示するように、銅の需要拡大への期待は大きく、市況の行く末を世界が見守っている。

(構成:北爪 匡)

日経ビジネス2012年9月3日号 22ページより目次

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