野田佳彦首相と谷垣禎一・自民党総裁(左)の合意が称賛されたが…(写真:共同通信)

 米ハーバード大学のアルベルト・アレシナ教授の財政再建に関する研究結果は、今では広く知られている。経済協力開発機構(OECD)加盟20カ国の1960~94年のデータを用いて、財政再建策の成功例と失敗例を分析したものだ。

 それによると、財政再建策の成功例では、歳入の増加よりも歳出削減が積極的な役割を果たしたことが明らかになっている。歳出削減に不熱心なまま増税するケースはことごとく失敗しているという。

 翻って、日本の消費税増税はどのような状況で行われてきたのか。消費税が導入されたのは89年。翌90年度に日本の税収は60.1兆円でピークを迎える。一方、この年度の一般会計歳出総額は3年前の87年度より11.6兆円も増加した。地方交付税などの大盤振る舞いが行われ、その後増税が実施された。

 97年には、消費税率が3%から5%に引き上げられた。この年度の税収はバブル崩壊後のピークの53.9兆円を記録する。この金額はいまだに更新されておらず、増税してもデフレが続けば税収は減少することが表れている。そして、この時は消費税導入時とは逆に、増税後に歳出拡大が行われた。増税から3年間で、一般会計歳出は公共事業などを中心に10.8兆円拡大した。

歳出削減なくして財政再建なし

 「歳出削減なくして財政再建なし」がアレシナ教授の教訓であるのに、日本は過去の消費増税に際し「大盤振る舞い→増税」と「増税→大盤振る舞い」をそれぞれ行っていたことになる。しかも歳出拡大は、ともに10兆円規模だ。これで財政再建が進むはずはない

 今回成立した消費増税の場合はどうなのか。2007年頃まで82兆~84兆円の水準で抑えられていた一般会計歳出額は、リーマンショック後の景気対策とその後の政権交代のどさくさで、一気に95兆円レベルに拡大した。

 加えて、消費増税が成立するやただちに、今年度補正予算編成の構想が浮上している。未着工だった整備新幹線も増税に合わせるかのように実現に向けて動き出し、「国土強靭化」名目の大規模な歳出拡大策が論じられている。

 つまり今回は消費税導入時の「大盤振る舞い→増税」のパターンと税率引き上げ時の「増税→大盤振る舞い」の両方を行おうとしているのだ。

 こんな無理な増税の背後で、「決められない政治」という言葉が使われた。決められない状況の中で、民主、自民、公明3党が増税で合意したのだからこれをぜひ実現させるべし、というのがメディアや経済界の大方の意見だった。

 しかし、なぜ決められない政治が続くのかと言えば、衆議院の解散・総選挙を先送りしてきたからにほかならない。ギリシャもまた物事を決められない政治情勢だったが、2度の選挙を行い事態の打開を図った。日本もそうするのが民主主義の本来の道だ。解散権を持ちながらそれを先延ばししている野田佳彦総理にこそ、本来の責任があるのではないか。

 結局のところ、与党内の意見が割れ、衆参がねじれ状態にあるような状況のまま無理に何かを決めようとすれば、安易に決められることしか決まらないのだ。社会保障改革や経済活性化ではなく、まず増税が決まったのは、既得権益に切り込むことなく国民一般に負担させることが容易な手段だからだ。

 決められない政治が批判される中で無理な3党談合をし、結果的に日本は「決められない政治」から「誤ったことを決める政治」に変化したと言える。手順を誤った増税は、必ず歳出拡大を助長するだろう。政策は常に王道を歩まねば、後で必ずボロが出る。

竹中 平蔵(たけなか・へいぞう)氏
竹中 平蔵(たけなか・へいぞう)氏 1973年日本開発銀行入行。慶応義塾大学教授を経て、経済財政・金融担当相などを歴任。2006年から現職。2009年パソナグループ会長に就任。


(写真:都築 雅人)

日経ビジネス2012年9月3日号 130ページより目次