りそなホールディングスを実質国有化から再建に導いた細谷英二会長。旧国鉄民営化の経験も生かし、銀行の官僚主義文化を変革した。経営危機に苦しむ会社を蘇らせるには何が必要か。その秘訣を聞く。

(写真:丸毛 透)
細谷 英二(ほそや・えいじ)氏
1945年熊本県生まれ。68年東京大学法学部卒、旧日本国有鉄道入社。87年の国鉄分割・民営化作業に関わった後、東日本旅客鉄道に入り、2000年副社長。2003年からりそなホールディングス会長に転じ、10年目に。

 りそなホールディングスは2003年、合計3兆円超の公的資金注入を受けて実質国有化された。慢性的な赤字経営で経営破綻の瀬戸際まで追い込まれ、日本の金融システムに重大な影響を及ぼしかねなかった組織の改革を託されたのが細谷英二氏。旧日本国有鉄道(国鉄)の分割・民営化の手腕を買われて鉄道経営から転身すると、最初の100日で過去に抱えていたウミを一気に出した。

 2004年度から8期連続の黒字経営に導き、公的資金返済も残り約8700億円とメドをつけた。旧国鉄、銀行という日本の代表的な規制産業を立て直した経験から、企業再生の極意を語る。

 旧国鉄、りそなで働いてきましたが、鉄道と銀行に共通していたのは官僚的な組織文化です。経営は本来、ピーター・ドラッカー氏が言うように顧客創造ができないと衰退します。顧客がいないと成り立たないはずですが、規制産業である鉄道や銀行は、どうしても永田町や霞が関を意識した経営になる。お客様は二の次になってしまいがちでした。旧国鉄は政官の圧力を受け、運賃値上げを断行するなどで顧客離れが深刻化しました。1987年に民営化しましたが、成功した要因はカネ、ヒト、モノの流れを変えた点です。過去の過剰債務を国鉄清算事業団に一部移し、民営分割した旅客6社などがサービス改善や技術開発の意識をそれぞれ高め始めました。

 いわゆる「官から民」への成功モデルになり、若い女性に定着していた国鉄の「暗い、汚い、臭い」のイメージもトイレクリーンアップ作戦で払拭したものです。バブル経済の勢いにも乗り、民営化で顧客数は2割増えました。近年の企業再生の多くは過去の「負の遺産」を整理することで始まります。

 そんな旧国鉄の分割・民営化*1に携わり、東日本旅客鉄道の副社長をしていた2003年5月、私はある電話を受けました。経済同友会の大先輩、牛尾治朗・元代表幹事が「食事を一緒にしたい」と言うのです。翌日、ホテルに約束時間の10分ほど前に着くと、牛尾さんがもっと早く待っていた(笑)。

 少々嫌な気がしましたが、予感は的中しました。「今問題になっているりそなへの公的資金注入*2が失敗すると金融システムが崩壊しかねない。銀行界にしがらみのないおまえに経営を引き受けてもらえないか」と切り出されました。悩み抜いた末に会長就任を決めましたが、最初は本社所在地が大阪であることさえも知りませんでした。

飛躍に向かう源泉とは

 ここで私から最初の問題です。上のモニターを見てください。2003年6月に1兆9600億円の公的資金注入を受けたりそなは当初、飛べない小さなアヒルのような組織でした。それが普通の鳥になり、今はワシのように高く舞い上がろうとする途上にあります。

 未来志向の先見的な企業を目指す「ビジョナリーカンパニー」の観点に立てば、ホップ、ステップ、ジャンプの最終局面に入りつつあると言えるかもしれません。では、飛躍に向かう源泉となった経営判断は何でしょうか。それを棒グラフが示しています。

 答えは、2003年時点に3.2兆円と経営を根っこから蝕んでいた不良債権を一気に削減したことです。

 2003年6月の会長就任前、金融界の知人に相談すると「りそなは経営内容がとても不透明だ」との声を多く聞きました。私が就任する前の10年間では、何と合計2兆5000億円の赤字です。年平均2500億円の赤字構造はあり得ません。経営が悪くなった要因を直視し、除去する必要がありました。

ガースナーの言葉

 社員には「最初の100日間でバランスシートの改革を実行する」と宣言し、再生の基本方針として「厳格に」「嘘をつかない」「先送りしない」という方針を掲げました。当時お会いした米有力経営者のルイス・ガースナー氏の言葉も励みになりましたね。ビスケット会社のRJRナビスコからIBMに転身して再建したことで知られます。「危機は良き友、時間はライバル」との助言を受け、私は最初の100日が組織の1000日後を決めるとの思いを強めました。

 そこで、新しい監査法人を入れて、企業の収益性から資産価値を算出するディスカウント・キャッシュフロー法(DCF)*3に基づき、まずは不良債権を洗い出しました。すると、作業が進むほど金額が膨らみ、それに見合う引当金が必要だとの認識に至りました。

 融資残高に占める不良債権の比率*4は、11%超の危機的な水準でした。以前の経営陣が誰も認知していない数字で、いかに規制産業の中でリスクコントロールが遅れていたかを実感しました。りそなは都市銀行の下位行同士、旧あさひ銀行と旧大和銀行が合併した背景があり、資本調達力が弱かった。メガバンクは不良債権を自力で処理する力がありましたが、りそなは公的資金に頼るしか道がなかったわけです。

 当時の竹中平蔵・金融担当大臣とも水面下で対話しました。竹中氏は日本経済の活性化には金融界の不良債権がネックになっているとの問題意識を強く持っていました。ですが、私が就任後初の2003年9月期中間決算を前に「不良債権処理で1兆6000億円くらいの赤字が出るかもしれない」と見通しを述べると、竹中氏も「そんなに悪い状況ですか…」と驚いていました。

 銀行はバブル時代に横並びで野放しの融資を実行し、その後の体力不足から不良債権処理を先送りしていた。その頃は日本経済の「失われた10年」の象徴的な産業と揶揄された頃です。

 私は何としてもバランスシート改革を断行すると竹中氏とも相談した結果、1兆9600億円の公的資金の注入を受けた約100日後、2003年9月中間期決算で1兆7700億円の過去最大の赤字を計上しました。完全なトップダウンで改革を進めたのです。

 こうした荒治療が功を奏し、不良債権比率は11%から2003年度末に6%台とほぼ半分になりました。

 その過程では様々な反発も予想され、身辺警備をするケースもありました。国内景気が緩やかな回復基調に入ると、収益力も少しずつ高まりました。2004年度以降はリーマンショックや欧州危機の荒波もありましたが、現在まで最終黒字を毎年維持できる体質になりました。

 黒字基調の定着に打った手はほかにもあります。1つが銀行の弱点だった企業との持ち合い株式*5の見直しです。当時1兆3000億円強の株式があり、最初は半減しようとの指示を出しました。

 ところが若い部長から「これは銀行の構造的欠陥であり、取引先の株価が下がれば銀行の経営も悪化します」との声を聞き、2004年度末に当初の3分の1の水準まで絞り込みました。就任時に50社あった関連会社*6も次々に整理を進めました。そうした赤字の要因を見直す一環として高コストの経費構造も改めました。例えばOBの年金は13%カットしています。

「普通の会社になろう」

営業店の専用端末を駆使して投信信託や保険販売を進める(写真:丸毛 透)

 私は就任当初から「銀行は特別な産業ではない。普通の会社になろう」と呼びかけ、「サービス業としての自覚を持とう」と強調しました。公的資金は国民から頂いているため、日本の皆様すべてが株主と考えて経営を実践しようと常に考えています。最初の100日で「りそなは変わった」と評価されないと、銀行の傷ついたブランドが永遠に回復しない恐れがありました。

 そこで「負の遺産」を徹底して整理したのです。りそなは今どんな会社に立ち直ったのでしょうか。

 資産規模は40兆円を超えました。約1300万人の顧客を持ち、個人向け商品販売残高*7は足元で4兆円台です。メガバンク3行に続き、日本の銀行界で4位の金融グループ*8に当たります。こうした結果、ROA(総資産利益率)は2003年度末のマイナス4%台から2011年度末に0.6%まで改善しました。

 旧国鉄やりそな再生の過程で言えることは、この種の規制産業も隠し事をせず、経営透明度を高めないと国民の信頼を得られません。電力、ガス、インフラ産業を含めた規制業種は許認可により、ビジネスモデルや収益が左右される面がありますが、まずは顧客の信用なしに持続的発展はあり得ない。

 典型例は電力産業です。これまでが恵まれすぎ、それぞれの地域で城を守ろうとしてきました。でも、やっていることは顧客の共感を全く得られず、経営の「見える化」を常に図ることが大事になるでしょう。

 原子力発電所の事故が起きた東京電力の問題を見ると、現場と本社の問題意識にズレがあり、経営方針を共有化できないまま時間だけが過ぎてしまった気がします。やはり世の中の期待に応えるという座標軸を見失うと、経営はおかしくなります。

 しかし東電再生*9で難しいのは政府の原子力行政や中長期のエネルギー政策が決まっていないため、廃炉費用、賠償といった企業として責任を持つ土俵が固まっていないことです。この中で事業再建を実行するのは非常に難しいテーマになると思います。

 一方で今秋に株式を再上場する日本航空(JAL)の再生は、旧国鉄の改革と似ていますね。JALは企業再生支援機構が自立の枠組みを設け、銀行の債務免除も取りつけた。旧国鉄が清算事業団に過去の過剰負債、資産、人員をきちんと切り分けたように、JALは稲盛和夫さんら新経営陣の下で、生き残りに向けた営業方針や撤退する分野もきちんと線引きしたわけです。従って早期再建が可能になりました。

 いずれにしても、りそな再生に関しては今までの黒字化で一定の評価を得られました。最初は公的資金完済も夢のまた夢でしたが、最近は道筋が見え始めています。次に中長期的に経営を良くする課題は、企業風土の改革です。次回のテーマにします。

(構成:馬場 燃)

*1
深刻な経営難に陥っていた国鉄を旅客6社と貨物1社に分割し、1987年に株式会社として民営化したこと。政府が80年代に進めた規制緩和の柱の1つ。国鉄は民営化の際に約37兆円の累積債務を抱えていたため、政府特殊法人の国鉄清算事業団が3分の2相当を「旧国鉄債務」として引き継ぎ、土地と旅客鉄道株式の売却収入で借金を減らす役割を任された。清算事業団は民営化後に採用されなかった旧国鉄職員の再雇用も進めた。該当本文に戻る
*2
多額の不良債権処理などに伴って、経営が悪化した銀行を支援するため、国が税金を使って銀行の資本を増強する仕組み。一般的に銀行が発行する優先株を国(預金保険機構)が引き受ける形で、公的資金を供給する。政府は不良債権問題が顕在化した1998年から2003年までの間に、10兆円を超える公的資金を投入している。銀行は互いに資金を貸し借りしており、仮に1行でも経営破綻が起きると、他行にも連鎖的に悪影響が及ぶ恐れが当時懸念された。該当本文に戻る
*3
政府は日本経済の大きな重しになっていた不良債権処理を進める目的で、2002年後半に「金融再生プログラム」を作成した。その柱の1つになった欧米流の厳格な資産査定手法に当たり、多くの金融機関が引当金を積み増すことになった。該当本文に戻る
*4
この比率は金融機関の健全性を示す指標の1つとされる。銀行が企業などに融資した後、その取引先の倒産や経営危機によって、約束通りに返済されなくなったお金が不良債権に当たる。金融機関は融資先について、その経営が健全な順に、正常先、要注意先、破綻懸念先、実質破綻先、破綻先に分けている。融資先の区分が悪化して正常先が減れば、不良債権比率の上昇を招いてしまう恐れがある。金融機関はこの区分ごとに一定の貸倒引当金を積み立てている。該当本文に戻る
*5
買収防止や事業提携などを目的に長期間持ち合う株式。銀行は有力取引先の株式を保有する事例が多く、2002年時点で企業との持ち合い株式は20兆円を超えた。これが響き、メガバンク3行はリーマンショック時に大きな赤字を計上した。該当本文に戻る
*6
りそなの場合、過剰な貸し付けを実施したノンバンクや関連証券会社、リース会社の整理・再編を進めた。合併した旧あさひ銀行と旧大和銀行の間には重複した会社や赤字の組織が多かったため、見直しによって現在8社に減らした。該当本文に戻る
*7
営業店舗などで個人に売り込んだ投資信託、保険、公共債、外貨預金の合計。りそなは事務効率化を進めて対面販売を強化しており、投信や保険などは足元増加基調で推移している。投資商品販売残高の規模は個人預金の1割超。該当本文に戻る
*8
資産規模はメガバンクの約3割だが、有力地方銀行の3倍に上る。メガと地銀の中間に位置する銀行に当たり、その特性を強みに中小企業や個人向け融資など、他行との差別化を目指している。銀行と信託機能を併せ持つのも特徴。該当本文に戻る
*9
2011年の東日本大震災によって、東電は福島第1原子力発電所の事故を起こした。膨大な賠償に向け、政府の原子力損害賠償支援機構から公的資金注入を受け、国の管理下で再建を図ろうとしているが、課題はなお山積している。該当本文に戻る
日経ビジネス2012年9月3日号 56~59ページより目次