再上場を間近に控えた日本航空を巡り、競争の公平性を問う議論が活発化している。論議は2013年の羽田空港発着枠の増加を見据えたつばぜり合いに発展。残りわずかな“プレミアムチケット”を獲得するため、政治まで巻き込んだ争奪戦が続く。

 「迷惑をかけた関係者、お客様、国民の皆様へのお詫びと感謝の気持ちを忘れたことはありません」

 2013年3月期第1四半期決算会見の場で、日本航空(JAL)の稲盛和夫名誉会長と植木義晴社長は、異口同音にこうした言葉を発した。

 経営破綻から2年余り。JALは2012年4~6月期決算で過去最高益を記録した。東京証券取引所への上場申請も終え、9月19日の再上場までいよいよ1カ月を切った。

 だがここにきて、先行きに暗雲が垂れ込めている。再建を巡り、公平性を問う議論が再び活発化しているのだ。

 「公平公正な競争は果たして担保されたのか」。ライバルの全日本空輸(ANA)の伊東信一郎社長は、今年5月、国の過剰支援が競争環境を歪めたという主張を、改めて声高にぶち上げた。

 この指摘に今夏、自由民主党が動いた。8月7日、衆院国土交通委員会の集中審議では、自民党航空問題プロジェクトチームに参加する議員などが立て続けに国や民主党政権へ非難をぶつけた。公的資金がつぎ込まれた中での新規路線の開設やLCC(格安航空会社)への出資、新型機材の購入の是非を問う声や、破綻による巨額の法人税免除を改めるべきだなどという主張が続いた。

 JALは先の決算会見で、これらの指摘に対し、「手元資金が3500億円を下回ったことはなく、企業再生支援機構から借り入れた資金で投資を行ったことはない」「法律にのっとったうえで法人税が免除されたのであって、JALだけが特別措置を受けているわけではない」と弁明している。だが、この説明がかき消されてしまうほど、不平等論の声は高まっている。

 再上場まで1カ月を切った今、なぜ改めて不平等論争が活発化したのか。ANA側には、JAL再建の妥当性を問うと同時に、もう1つの狙いがあるようだ。それが、今夏から検討会議が始まった羽田空港の発着枠配分である。

2010年10月に4本目のD滑走路の供用が始まった羽田空港(写真左)。増加する発着枠を巡り、日本航空と全日本空輸のつばぜり合いが続く(写真左:読売新聞/アフロ、右:ロイター/アフロ)

 羽田空港では2010年10月に4本目となるD滑走路の供用を始め、発着枠が増えた。2010年10月以降は国内線と国際線を段階的に増やしてきた。そして2013年3月末の夏ダイヤからは、国内線がさらに2万回、2013年度末には国際線の昼間時間帯が3万回追加される予定だ。

 国内航空旅客の6割以上が使う羽田は、航空会社にとって貴重なドル箱。枠の配分が増えるほど、競争には優位に働く。そのうえ羽田では、今後2回の増枠以降は当面、発着枠を増やす見通しがない。つまり今回の発着枠配分が、最後の“プレミアムチケット”と言えるわけだ。

 「羽田の発着枠は重要な国の資産。それを感情論で、ANAがかわいそうだからと多めに配分する判断を下すことこそ、公平性に欠ける」。国土交通省航空局の篠原康弘・航空ネットワーク部長は今春、羽田の発着枠配分についてこのように明言している。

 だが、今夏の不公平論の高まりによって風向きは少しずつ変わり始めた。「公的支援によって競争環境が不適切に歪められていないかを確認するため、一定期間、JALの再生状況を監視し、必要に応じて助言をしたい」。先の衆院集中審議では、羽田雄一郎国交相がこう明言した。現在は、航空局内部でも、羽田の発着枠の配分について、地方路線への貢献度を重視する方針へと傾きつつあるという。何らかの理由をつけてANAに多めに配分することで、不平等議論の着地点を探ろうとしているようにも見える。

スカイマークも争奪戦に横槍

 こうした流れに難色を示すのは、当事者であるJALだけではない。

 スカイマークは7月、国交相宛に「日本航空の再上場についての意見書」を提出した。文書ではJALの再上場を歓迎する一方で、ANAによるJALの再上場反対を「単なる企業間競争の中での論理」と切って捨てている。

 かつて、北海道国際航空(エア・ドゥ)やスカイネットアジア航空(ソラシドエア)が経営破綻した際、ANAは「業界の安定のため」と支援を表明した。「ANAが新規航空会社の自由競争を歪めた一方で、今回はJAL再上場に反対することこそ品性に欠ける」というのが、スカイマークの主張だ。

 こうした主張の背景には、やはり羽田の発着枠の配分がある。

 エア・ドゥとソラシドエア、スターフライヤーの3社は、ANAからの出資を受け、コードシェア(共同運航)をしているため、ANAグループとも言える。大手2社以外の航空会社の中で、仮に発着枠が均等配分されれば、実質的にはANAグループが他社よりも多く発着枠を獲得することになる。スカイマークから見れば、もともと不平等な配分なのに、さらにANAへ傾斜配分されることを警戒しているわけだ。

 発着枠の配分については、これまでにも競争入札制を取り入れるべきだという提案がなされてきた。しかし影響力の源泉となる発着枠配分の権利を手放すことに、国交省はこれまで及び腰だった。

 だが今、航空各社の思惑は入り乱れ、国が公平公正な決断を下すことは極めて難しくなっている。であれば、市場の原理原則に委ね、発着枠の配分にオークション制を導入すべきではないか。国内線2万回分の配分は9月中にも決めなくてはならない。残された時間は少ない。

(日野 なおみ)

日経ビジネス2012年8月27日号 10~11ページより目次

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