単価下落の激しいLED電球は消耗戦になりつつあり、先行きは明るくない。生き残りをかけ、LED照明メーカーは新市場に打って出る。店頭・オフィスの蛍光灯の代替、高付加価値化、グローバル展開に舞台は移る。

ゼビオは蛍光灯をアイリスオーヤマ製の直管型LEDランプに交換(左)。すかいらーくは店舗の厨房にある蛍光灯をLED化(右)

 「(イオンの)1回目のコンペで勝利し、日本市場攻略に必要なノウハウを得ることができた。残念ながら2回目の入札では受注できなかったが、次の機会を狙いたい」。フィリップス日本法人の岸和紀ライティング事業部長はこう意気込む。

 イオンが傘下のスーパー約1200店舗の照明すべてをLEDに交換すると発表したのは昨年11月。このうち店舗の天井に設置してある蛍光灯をLED化する大型商談を最初にまとめたのが、照明世界最大手であるオランダのフィリップスだった。

 多くの店舗・オフィスで導入されているおなじみの蛍光灯と同じ形のLED照明は、真っすぐな管であることから「直管型LEDランプ」と呼ばれる。直管型LEDランプには、新築物件への導入や、既存の蛍光灯からの置き換え需要などが期待でき、LED電球の次の主戦場になると見られている。だからこそ、フィリップスがイオンの案件を獲得したことの衝撃は大きかった。

 実際にはイオンは第1次展開となる約30店舗にフィリップスの直管型LEDを導入しただけで、2回目以降の商談では、東芝ライテックやアイリスオーヤマなどに直管型LEDの交換を発注した。結果的に1社独占とはならなかったが、実績のなかったフィリップス製品が最初に選ばれたのは確かだ。日本勢にとって、国内照明市場で世界の強豪と戦わなければならなくなった事実は重い。

 現在、店舗やオフィス、工場を中心に、蛍光灯は国内に約3億本あるとされる。年内には、このうち約2000万本が直管型LEDに置き換わると見られるが、まだ伸びしろは大きい。2015年の市場規模は電球タイプの2.5倍に拡大するとの予測もある。

 ただ直管型LED市場でも競争は既に激化し始めている。フィリップスに加え、ロームやアイリスオーヤマ、大塚商会などの新興勢力も力を注ぐ。

 最近ではロームが直管型LEDの大型受注を獲得したことが話題になった。同社は6月から、すかいらーくが運営する「ガスト」「バーミヤン」など全2450店舗の厨房などに、約6万本の直管型LEDを納入しているところだ。

 アイリスオーヤマは、ゼビオのスポーツ用品店「スーパースポーツゼビオ」の約30店舗の蛍光灯を置き換えるなど、昨年1年間で、直管型LEDを軸にした法人向け事業を一気に立ち上げた。2011年12月期に100億円だったLED照明事業の売上高を、2012年12月期は350億円に増やす計画だ。

「営業要員を増やし、直管型LEDランプの導入件数を急増させる」とアイリスオーヤマの大山健太郎社長(写真:村上 昭浩)

 「当社の直管型LEDを店舗に導入すれば約3年で投資回収できる。この提案が多くの顧客に評価され、直管型LEDの導入本数の実績は、当社がトップだ」。アイリスオーヤマの大山健太郎社長はこう自信を見せる。

 大塚商会も「直管型LEDの需要は2倍ペースで伸びている。好調だ」と大塚裕司社長は言う。業務用途が期待できる直管型LEDを、同社は複合機やオフィス用品で取引のある顧客に売り込んでいく。

口金の規格を巡って火花

 もちろんパナソニックや東芝ライテックといった国内大手も、直管型LED市場で、手をこまぬいてはいない。大手が武器にするのは、LEDランプをはめ込む口金部分の形状だ。

 パナソニックと東芝ライテック、NECライティングは、日本電球工業会が定めた直管型LEDランプの技術規格「JEL」に適合したL字型の口金を採用する製品だけを開発・販売する。JELタイプは、従来の蛍光灯の口金規格「G13」と形が異なるため、既存の蛍光灯器具には取りつけることができない構造になっている。

 「口金の形状が同じだからと、既存の蛍光灯器具にG13タイプの直管型LEDを取りつけると、発煙・発火やランプ交換時の感電などの事故が起きる危険性がある。照明器具の交換が前提となるので、導入コストはかさむものの、間違いなく安全に使えるのはJELだ」。パナソニックや東芝ライテックはこう口を揃え、安全性の高さを前面に打ち出す。

 ただ国内大手がJELに注力するのは、独自規格に顧客を囲い込み、世界最大手のフィリップスや新興勢力が販売するG13の普及を食い止めるため、という見方もある。

 一方、フィリップスやアイリスオーヤマ、ローム、大塚商会、エレコムは、「天井に設置済みの蛍光灯器具を有効活用することで、導入コストを抑制できる」との点を訴え、G13を売り込む。安全性については、「G13タイプの直管型LEDの単体販売はしていない。顧客先の照明設備を検証したうえで、必要な工事を実施しており、特にトラブルは起きていない」(エレコム)という。他の4社も同じスタンスだ。

 JELとG13のどちらが勝つかはまだ決着がついていない。新築物件ではJELの採用が進むものの、既存の蛍光灯をLED化する案件では、G13の要望が多いようだ。すかいらーくが選んだのもローム製のG13。「既存の蛍光灯設備を生かして工事費を抑制できる点を評価し、G13を選んだ」(同社)。

 両タイプの製品を販売しているアイリスオーヤマも、主力はG13だ。「既築物件では、導入コストが安いG13の引き合いがほとんど。日本固有のJELは“ガラパゴス”な口金になる可能性がある」と大山社長は指摘する。

「明るさ感」の提案力を高める

 ただ直管型LEDの市場も、いずれはLED電球のように頭打ちになる可能性が高い。先を読んだ東芝ライテックは、高付加価値化に活路を求める。

 佐藤光治常務は「LED化でランプ交換などのメンテナンス事業は確実に縮小する。これを補うには、価格の高い付加価値商品を拡販するしかない」と危機感をあらわにする。

 これまで同社の照明事業では、照明器具の販売と交換用ランプの販売の売上高比率が7対3。長寿命が売り物のLEDは、3割のビジネスを大幅に減少させる。

 消えていくランプ交換の需要を補塡するため東芝ライテックは、従来は1万円程度が相場だった一般住宅などの天井に取りつけるシーリングライトを、LED化と同時に付加価値を高めて5万円以上で売り込もうと目論む。その1つが、LEDシーリングライト「E-CORE(イー・コア)」のマルチカラーモデルだ。

 従来の照明では不可能だった「調光・調色」機能を備えた照明器具で、昨年10月に発売した。リモコン操作1つで、食事や就寝、ホームシアターの視聴など生活シーンに最適な明かりをともす機能を備える。約5万円という高価格にもかかわらず、「当初想定していたより、売れ行きは好調だ」と佐藤常務は打ち明ける。

 付加価値で単価を高めるだけでない。「照らす光から、満たす光へ」とのコンセプトに基づき、店舗・オフィスや住宅に対するソリューション(課題解決)の提案力を強化し、複数の照明器具のセット販売にも注力する。複数器具からなる照明のシステムとして顧客に納入できれば、定期保守などサポートビジネスの獲得にも結びつく。

 同社は、提案力強化に向けた“ツール”を既に用意した。従来、人間が感覚的に判断していた「空間の明るさ感」を定量的に示す独自の指標「Weluna(ウェルナ)」を考案。省エネと快適さを両立した照明のあり方を、顧客に見える化して提示し、照明のシステム販売につなげる。パナソニックも同様に、独自の明るさ感指標「Feu(フー)」を持つ。これに基づき、約300人の提案部隊が照明システムのコンサルティングサービスを展開中だ。

グローバル化に初挑戦

 そのパナソニックはLED化を機に、照明事業の成長戦略としてグローバル化に重点を置く。国内では海外勢や新興勢力の台頭によるシェア争いが激化し、長寿命というLED照明の特性からランプ交換の需要も見込めないことが、海外進出の背中を押した。

 「LED化は、内需依存型の照明事業をグローバル化する絶好の機会。市場開拓に挑戦する」。パナソニックの松蔭邦彰エコソリューションズ社副社長はこう強調する。2016年3月期には照明事業の売上高を現在の約3000億円から4000億円に増やし、半分の2000億円をLED照明で稼ぐ。LED照明の海外売上高比率は2割を目指す。

 だが、海外進出は容易でない。フィリップスは既に世界60の国・地域で照明事業を展開し、同事業の売上高は8000億円。ドイツのオスラムは約5000億円だ。パナソニックの照明事業は売上高では海外大手に大きく水をあけられている。海外には有力な地場の照明器具メーカーも多い。

 厳しい現状を踏まえ、パナソニックは地域特性に合わせて戦略をきめ細かく変える。地場メーカーが市場を押さえている米国では、照明器具を輸出する真っ向勝負は避ける。有力な地場メーカーに、放熱部材や電源などを売り込み、デバイス事業で稼ぐ考えだ。

 LED照明器具のニーズが高まる中国では、照明専門店が集まる「灯飾城」と呼ばれる大型店舗などに出店攻勢をかけ、照明器具の販売力を高める。中国でパナソニック製の照明器具を取り扱う販売店を2016年3月末までに、現在の2倍の5000店舗に増やす。

パナソニックはデザイン性を重視した「クリア型LED電球」を欧州市場に投入

 地域特性に合わせた商品開発も急ぐ。その1つが、透明な電球カバーの「クリア型LED電球」。クリア型白熱電球の置き換えを狙った商品で、今年7月に欧州市場で発売した。

 「欧州では、きらめく明かりが好まれ、ホテルなど多くの施設でクリア型電球が使われている。クリア型電球とほぼ同じデザインと光を再現した世界初の商品投入を皮切りに、欧州事業を伸ばす」と松蔭副社長は意気込む。

 単価下落によるコモディティー化の加速、デジタル家電化による参入障壁の低下など、LED照明の事業環境は日本勢の敗色濃厚な薄型テレビの世界と似る。LED化で製品寿命が一気に伸びれば、ランプ交換や買い替えといった安定的需要も見込めなくなる。

 節電をうたって安易に売り上げを伸ばそうとしたツケは大きいと言うべきか。官製の省エネブームだけで生き残れるほど市場は甘くない。

 省エネという大義名分の名の下で、前倒しでLED照明の導入を進めた国策は、耐久性の高い商材の普及を過度に早め、結果として業界を振り回しただけ、と捉えることもできるだろう。

 それでも、メーカーは世界と伍していかなければ先がない。柔らかな白熱灯の明かりで包まれた安穏とした市場はLED化によって消え去った。薄型テレビの轍を踏みたくなければ、考え得るすべての手を打ってフィリップスやオスラムの鼻を明かすしかない。

日経ビジネス2012年8月27日号 48~51ページより

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