JALは「嫌いな航空会社」で中位に
注:スコアは、利用したエアラインについて、「好き」「嫌い」と回答した人の割合

 経営破綻からわずか2年で不死鳥のように蘇った日本航空(JAL)。この姿を利用客側から見ると、現場の奮闘とはまた違った現実が見えてくる。

 「エグゼクティブが選ぶベストエアライン」の調査では、「満足度」とともに、「好きな航空会社・嫌いな航空会社」についても聞いた。満足度と違って、好き嫌いには感情が入る。嫌われている要素を知り、改善して「好き」へと転じることができれば、より強い固定ファンを作ることができる。

 「好きなエアライン」では、JALは全日本空輸(ANA)の2位を下回るものの、4位につけた。だが「嫌いなエアライン」を見ると、ANAが34社中29位と下位なのに対して、JALは14位。日系航空会社の中では、先日、機内サービスの方針を記した「サービスコンセプト」で物議を醸した13位のスカイマークに次ぐ順位となった。

 自由回答では、上場廃止で被害を受けた個人株主の怨嗟の声が多く上がる。「株式廃止で大損させられたのに、最近は過去最高の利益が出たとうたっている」(59歳、会長・社長)、「倒産したくせに再上場するところ。株を返せ!」(41歳、部次長)。

 再建の中で進めた機材や路線の縮小にも不満の声が集まる。「倒産後、ローカル路線からの撤退で不便さが目立つ」(65歳、取締役・執行役員)、「国内線の飛行機が小さくなり疲れる」(55歳、部長)。

社員が手を振り、ボストン線の初就航を見送った(写真:山本 琢磨)

 業績は最高益に達しても、経営破綻による乗客の「JAL離れ」は免れない。部門別採算などを柱とする経営改革と別に、JALは今、顧客を取り戻そうと躍起になっている。その舞台の1つが新規路線の成田~ボストン線である。

 「ボストン線は、再生の象徴」。4月22日、成田国際空港で最新鋭機ボーイング787を見送ったJALの植木義晴社長は、力強く宣言した。

 これまで直行便がなかったボストンに、最新の飛行機で新たに路線を設ける。まさにJAL復活を印象づけるにはうってつけというわけだ。

 「搭乗率は90%台。ほぼ満席状態が続く」とJALは、好発進を強調する。

「安売り体質」は変わったのか

旅行会社に届いた優待航空券の案内

 だが、周辺を取材すると別の姿が見えてくる。

 「エグゼクティブクラス往復 8万9000円、エコノミークラス往復 3万7000円」

 ボストン線初就航の2カ月前、大手旅行会社の北米路線担当者の手元に1枚の紙が届いた。表題は「日本航空 ボストン線特別優待航空券のご案内」。

 航空会社は、例えば東日本大震災の後など航空需要が大幅に落ち込んだ時や新規路線の開設時に、旅行会社に対して関係者限定の優待航空券を案内する。だからボストン線の案内も、決して珍しいものではない。

 旅行会社の担当者は、運賃の部分で目が留まった。JALが扱う正規割引運賃と比べると、ビジネスクラスでは5~10倍の開きがある。「久しぶりに、こんな安い優待を見た」。

 ライバルのANAは、JALが法人顧客向けに卸す運賃に不満をこぼす。「競合する路線の多くがうちよりも安い」。ANAの担当者が出した資料では、2社が競合する成田~フランクフルト線のJALビジネスクラスの卸値は、ANAより最大2割も安かった。

 これまで見てきた通り、現在のJALは部門別採算制を経営の軸に据えている。路線統括本部の米澤章・国際路線事業本部長は「1路線、1便ごとに収支を見て、機動的に供給を調整している」と話す。破綻してからは、ボーイング747-400のような大型機は処分した。「今は破綻前のように、空席を埋めるために無理な安売りに走る必要はない」と中堅幹部は話す。

 前述のような“隠れた安売り”が一部であったとしても、「利益は上がっているので問題はない」というわけだ。

 だが、JALと競合する中堅航空会社首脳は憮然としている。「あれだけステークホルダー(利害関係者)に迷惑をかけて、JALは復活した。だったらせめて、新生JALでは新しい需要を創るような戦略を取るべきでしょう。なのに、相変わらずの『どぶ板営業』。これじゃあ、前のJALに戻っただけ」。

円高も、税の免除も「自助努力等」

注:ASK=有効座席キロ(「座席数×運航距離」から算出される航空会社の生産量)。▲はマイナス

 ライバルや関係者が首をかしげるのは、強気の顧客獲得策の背景に、経営破綻による財務状況の好転や負担の軽減があるからだ。

 「ユニットコスト低減の大半は支援効果以外(自助努力等)によるものです」。「再生への取り組みの状況」と書かれた8枚綴りの資料の4ページ目には、この文言が記されている。この資料はJALが再建状況を関係各所へ説明する時に、持参しているものだ。

 ユニットコストとは、1座席を1km運ぶのにかかる費用のこと。これが低いほどコスト競争力は増す。LCC(格安航空会社)の代表格とも言えるエアアジアの場合、このユニットコストはわずか3円台だ。

 JALのユニットコストは破綻前の2008年度は13.8円だったが、2011年度には11.5円まで下がっている。減少した2.3円分のうち、0.6円分をJALでは「支援効果」としている。法的整理の過程で機材の資産価値を簿価から時価に算定し直したため、減価償却費が大幅に下がったことなどによる。

 JALの説明では残る1.7円分が「自助努力等」となるが、ここに疑問が残る。

 まず燃油費。内訳を見ると、燃油市況の高騰でコストは0.5円分上昇したものの、円高効果がマイナス0.8円分発生している。また、マイナス0.1円分の航空機燃料税減免は、2011年度に国が3年間の時限措置として課税額を減免したものだ。通常、これらは自助努力とは言わない。

 燃油費については、燃費効率の悪い古い機材を売却し、路線を縮小することで燃油の消費量が減った効果もあった。これがマイナス0.5円分。グループ全体で約1万6000人に及んだ人員削減で、人件費でもマイナス0.4円分の効果が出た。これらには法的整理になったから実現できた部分も多く、すべてを自助努力とするのは無理がある。

 JALのV字回復の影に現場社員たちの意識改革と努力があったことは間違いない。ただ、「自助努力等」にあるユニットコスト1.7円分のうち、7割強は本当の意味での自助努力とは異なる。

 営業最高益の2012年3月期の業績も、倒産効果によって利益が底上げされている。資産価値を時価で算定し直したことで、ユニットコストでも触れた減価償却費が低減されたほか、巨額の繰越欠損金が生じるため最大で9年間の法人税支払いを免除される。金融機関の債権放棄によって借入金の利払い負担も減った。

 こうして叩き出した営業利益2049億円の実績を引っ提げ、JALは再上場へ踏み出す。6月20日には東京証券取引所に正式に上場申請をした。審査が順調に進めば、9月半ばにも再上場する。

 このJALの姿勢から伝わってくるのは、何としても早期に復活を遂げたいという意志だ。もちろん早期再生は喜ばしいことである。ただ、それは地力が伴っていればという条件がつく。

 「あまりにも早すぎる再建ではないか」。長年、航空行政の矛盾を指摘してきたの峰崎直樹・内閣官房参与はJALの早期復活に疑問を呈する。なぜ再上場を急ぐのか。その背景にはJALに携わる人たちそれぞれの思惑がありそうだ。

 「政府、(企業再生支援)機構とは3年という約束でしたので、来年(2013年)の2~3月頃には、辞めさせてもらいたい」。JALの経営を立て直した稲盛和夫名誉会長は、5月の決算会見の場でこう話している。もともと、前原誠司・政調会長(当時は国土交通相)に請われ、「国のため」と引き受けた会長職だけに、再生を見届けたうえで退く決意は固まっているだろう。

 また、現在JAL株式の96.5%を保有する機構にとって、早期のイグジットは使命と言える。JALのプロパー幹部たちにとっても、いち早く独り立ちしたいところだろう。さらに、現経営陣は一部の株式を所有している。

 だが、こうしたJAL関係者の思惑とは裏腹に、周囲の目は冷ややかだ。

 JALは昨年末から、再上場後の安定株主作りを模索していた。その候補企業をまとめた「厳秘 候補先リスト」という文書には、様々な企業名がJALとの関係を併記する形で並ぶ。

2013年には経営から退くと話す稲盛和夫名誉会長。「稲盛後」の企業統治力が問われる(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

融資ならいいが、出資はダメ

 「カンタス航空」「京セラ」「オリエンタルランド」「東日本旅客鉄道」「イオン」「KDDI」「三菱商事」...。

 これらは最優先を示す「Tier-1」。航空アライアンスの同胞企業や業務提携先、稲盛名誉会長の創業企業など、JALと関係の深い53社が並ぶ。

 さらに優先順位2番目を意味する「Tier-2」には27社。稲盛名誉会長が経営者と親交のある「SBIホールディングス」「ソフトバンク」、機内販売で取引のある「資生堂」などが入る。JALとの関係はさほど深くはない。JALは、こうした企業も候補としていた。

 ただ、戦況は芳しくないようだ。これらの候補先の中にはJALの旧株主だった企業も多い。株式が紙くずになった記憶は生々しく残る。「今のJALなら、金融機関として融資するのは問題ない。ただし出資はしない」。あるメガバンクの幹部は断言する。

 「次のステージに向けた成長戦略が見えてこない」とこの幹部は言う。JALが出した今期の営業利益見通しは、昨年度から500億円減益する。中期経営計画の2013年度の営業利益も、昨年度の実績からは650億円落ちる。

 燃油・為替の前提条件を厳しく見積もり、自然災害などによる減収リスクも織り込むためだ。「数字だけ見ると減益だが、何も起こらなければ、毎年400億円以上が利益に加わる」(中堅幹部)。ただ、震災や火山の噴火、リーマンショックなどここ最近は毎年のように航空需要を直撃するイベントが起きていることも事実だ。

注:グラフ内の2012年度は5月に発表したJALの来期見通し、2013年度は中期経営計画にある目標数値

 JALはこれまで、国や機構の庇護の下で再建を進めてきた。だが再び上場すれば、改めてマーケットの厳しい視線にさらされることになる。

 更生法の適用申請から、わずか2年余りでの最高益達成と再上場申請という「復活の伝説」に酔いしれるJAL。だが、再生はこれで終わりではない。本当の再生とは、再上場し、稲盛氏というカリスマ経営者がいなくなった後も、持続的に利益を出せる体質を作り上げることだろう。

 破綻前には不要論まで叫ばれた。だが政府は、国益や国民の利便性を鑑みてJALを残すことを決めた。一度も、その翼を止めることなく。

 だが満足度ランキングを見ると、JALは海外勢の後塵を拝している。日本の航空会社であるにもかかわらず、だ。何のために生かされたのか。再上場を目前に控えた今、その意味を改めて深く問い直すべきだろう。

日経ビジネス2012年7月2日号 36~39ページより

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