欧州銀の融資姿勢が再び悪化している公算が大きい。倒産増加につながるとの警告も出ている。上昇するCDSの保証料率が、欧州銀の苦境を物語る。

後藤 文人(ごとう・ふみひと)氏
UBS証券 クレジット調査部長
後藤 文人氏1986年慶応義塾大学経済学部卒、日本興業銀行入行。メリルリンチ日本証券を経て、2005年にUBS証券入社。日本における信用分析の第一人者。

 2012年1~3月の時点で、欧州銀行の貸し出し態度DIは右グラフの通り、緩和に向かっていた。欧州中央銀行(ECB)による2度の長期資金供給オペ(LTRO)を受け、銀行の資金繰りが改善していたためだ。ただ、恐らくこの融資環境の改善は既に終わりを告げているだろう。言うまでもなくギリシャやスペインの危機再燃で、欧州銀の資金調達に影響を来しているためだ。

 格付け会社の米スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)も欧州企業の倒産確率が上昇するとのリポートを公表している。非投資適格(格付けでダブルB以下)企業では足元4.7%の倒産確率が来年3月に6.4%まで上がり、悲観シナリオでは8.2%にも達する。今のところ欧州で企業倒産が大きく増えているわけではないが、それは企業が自衛手段として現金を積み増しているためで、資金の調達力に劣る企業では状況は厳しくなっていく可能性が高い。

 S&Pはギリシャが3割の確率でユーロを離脱すると予想するなど、欧州に対し過度に悲観的なようにも見える。しかし欧州の信用不安がスペインをのみ込み、イタリアへの波及が懸念される状況にあっては、欧州銀が貸し出しを絞りつつあるのは想像に難くない。

欧州銀、CDSも悪化

 市場も状況の変化を素直に織り込んでいる。各行の信用リスクを反映するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場での欧州銀の保証料率を見ると、昨年末から低下していたのが春先からは上昇に転じている。当然と言えば当然だが、イタリア最大手のウニクレディト、スペイン最大手のサンタンデールの上昇が目立っている。

 もっとも、現在の保証料率の水準はリーマンショックの直後よりは低い。年末にかけての市場予想も著しい悪化は見込んでいない。加えて、欧州金融機関の中核とも言えるいくつかの銀行は総じて資本が厚く、欧州周辺国への貸し出しも限定的だ。ただ、これは欧州主要行が危機に陥る可能性が相対的に低いことを示唆しているにすぎない。信用リスクの悪化が限られているといって、貸し出しに前向きだと考えるのは早計だろう。

 LTROは第3弾も取り沙汰されているほか、ほかの資金供給手段の実施や利下げも視野に入っている。ただ、仮に実行に移されても実体経済への効果は一時的にとどまるだろう。例えばスペインの最大の債権国はドイツで、ドイツの信用力が毀損する可能性は残る。政府の信用悪化は金融機関に及び、事業会社も影響を受ける。こうした信用の「負の連鎖」が意識される限りは、貸し出しをテコにした経済成長は見込みにくくなってしまう。

 現時点での見込みは奇抜なものではない。イタリアやスペインの政府は市場の信用を取り戻す必要があり、そのために財政支出は抑え気味にせざるを得ない。この間、経済の回復は非常に緩やかにとどまる公算が大きい。金融緩和は実施されるだろうが、実体経済を下支えする力は限られる。市場が一時的に楽観的になることはあっても、ショックに対する脆弱性を抱えていることは無視できない。

(構成:張 勇祥)

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日経ビジネス2012年7月2日号 24ページより目次

この記事はシリーズ「時事深層(2012年7月2日号)」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。