バナナ運搬船やマグロ漁船、漁港に隣接した冷蔵倉庫設備などで高い競争力を誇る。鶏もも肉の脱骨ロボットではシェア100%の無競争状態を実現した。独自のガス圧縮技術は世界各地の海上油田で花開き、スケートリンクや超電導などの領域でも存在感を発揮している。

 その会社の名は前川製作所。冷凍・冷蔵のトップ企業である。

 産業用が中心のため、一般的な知名度は低いが、独創的な製品を数多く抱えている。鶏もも肉の脱骨ロボット「トリダス」、ノンフロンの高効率冷凍機「NewTon3000」、空気冷媒の冷凍機「PascalAir」――。すべて前川製作所が生み落としたものだ。

 直近の売上高は1000億円と金融危機前の水準には届いていない。租税回避地に持ち株会社を置くオーナー企業であり、利益水準も不透明。何より、論理よりも感覚を重視する経営は欧米流の経営手法に慣れた者には奇異に映る。それでも、論理を超えた強さはモノ作り復権に示唆を与える。

 世界一製品を生み出す前川製作所、その驚愕の経営を覗く。

(篠原 匡)
写真:村田 和聡

CONTENTS

下町の哲学者はモノ作りの本質を問う

世界一を生む秘訣
“遠回り”こそ我が力

棲み分けの現実
客と悩み、客と作る

独法から一社化へ
革新は“遊び”が生む

日経ビジネス2012年7月2日号 66~67ページより目次