女性が働き続けやすい環境や制度が整い、結婚・出産を経ても働く女性が増えている。しかし一方で、大企業を中心に、活躍できない女性の増加に頭を悩ませる企業も出てきた。ケア偏重型の女性活用の姿勢を改め、フェアに働ける職場作りを進める必要がある。

(イラスト:おおさわ ゆう)

 大手メーカーで働く中村由美さん(仮名・30代前半)は最近、「くすぶり感」をぬぐえずにいる。

 2人の子供の育児を一手に担う、ワーキングマザー。入社当初は仕事に燃えていたが、ほどなく1人目の子供を妊娠・出産。その頃から会社の態度が変わった。花形の営業職から総務に異動となり、与えられる仕事はやりがいを感じられないものばかりだ。

 もっと精力的に働きたいと思う一方、時間短縮勤務をせざるを得ないため、同僚への後ろめたさも感じている。通常より労働時間が短いことを理由に、会社から高い評価も得られない。「住宅ローンも抱えているので、今さら仕事を辞めるわけにもいかない。結局、このまま仕事を続けるしかないのかなと思う」。先の見えない状況だ。

 1986年の男女雇用機会均等法施行から25年以上が経過した。企業はこぞってワークライフバランス推進を掲げ、女性が働きやすい環境作りに邁進してきた。時短勤務や在宅勤務制度などを導入し、女性の「ケア」を推し進めてきた。

 しかし今、企業は迷いの渦中にある。ワークライフバランスを整えることが、「仕事はそこそこで、家庭生活を充実させる」ことを肯定するかのようなメッセージにすり替わってしまった。企業側も「仕事で何を成し遂げたいのか」と、出産後の女性に問いかけることはほとんどない。成果を期待されない中、周囲からは「貢献度が低い」と捉えられる。結果、一部の女性たちの中には諦め感と同時に、とりあえず会社に残って収入を得ればいいといった「ぶら下がり意識」が芽生えている。

 もちろん、女性にも様々なタイプがいる。東京都産業労働局の調査では、管理職を目指す意欲のある女性は12.2%いる(上図参照)。だが、同様の調査で最も割合が高かったのは、「管理職にはなりたくないが、自己成長は感じていたい」女性たちだ。彼女たちの意欲を高め、会社に貢献し続けてもらうことが、喫緊の課題になっている。

 女性の管理職登用も思うように進んでいない。次世代を担う女性たちは、頭数は揃っていても、会社の中でキャリアを積み、権限や責任を持って仕事をしてもいいと考える人は少数だ。

 女性が働きやすい環境を整える「ケア」に力を入れる一方、男性と同様に女性も意欲的に働き成果を出すという「フェア」の姿勢が欠けている。それが現在の「女性活用」の現実だ。歪んだ女性活用のあり方が沈滞した女性社員を生み、その存在は大企業を中心に、新たな経営課題と化している。

 「女性の働きやすさを売りにしているだけの企業は早晩、ケアにかかるコストをどう回収するかに頭を悩ませることになるだろう。そして、ケアしてきた女性たちの活躍が見込めないと思えた瞬間、企業はコスト削減へと動く」。リクルートワークス研究所の石原直子・主任研究員はこう危機感をあらわにする。

出所:東京都産業労働局「企業における男女雇用管理とポジティブアクションに関する調査」


時短勤務でも成果を求めよ

 女性活用が行き詰まりを見せる背景には、企業やマネジメント側の問題と本人の問題の2つが隠されている。

 企業側の最大の問題は、ケアの「はき違い」にある。「子供を産んだ女性に『もっと仕事をしてほしい』と伝えることが、あたかもワーキングマザーに圧力をかけているかのように捉えられる。しかし、男女の別にかかわらず、プレッシャーの下でこそ能力は磨かれる。何をしたいのか、どう働いてほしいのか。面と向かって話をしないことが最大の問題だ」(石原主任研究員)。

 社員に産休や育休、時短といった制度を利用する権利があると同時に、会社には女性に仕事上の成果を求める権利がある。そして、育児と仕事を両立する女性に成果を求めるには、働き方や評価方法も見直す必要がある。

 今回、働く女性たちに取材を試みる中でよく聞かれたのが「長時間労働が常態化している限り、男性と同じように評価されるのは難しい」との声だ。時間的な制約がある中で働く女性にも高い生産性を求めるには、個々の社員のミッションを明確にし、目標に対する出来高で評価する環境が不可欠だ。

 評価の根拠となる職務内容を明確にすることが、フェアな働き方や評価のベースとなる。その際、ジェネラリストからスペシャリスト育成へと視点を置き換える必要も出てくるだろう。

 求められる資質が明確になれば、限られた時間の中でも効率的に職務能力を高めることができる。もちろん、将来的には専門性を軸に、仕事の幅や職務の範囲を広げることも可能だ。

 実際、女性社員の出産を機に社員の強みを見極め、職務のあり方を見直したことが業績にプラスに働いた企業は存在する。例えば、大阪市にある特殊鋼販売の天彦産業。英語が堪能な女性社員の育休復帰を機に、海外向けの女性ウェブ販売チーム「天彦ウェブセールス(TWS)」を結成したところ、およそ2年で海外売上高が倍増している。

 女性社員が育児休業から復帰する約1カ月前に、樋口友夫社長自ら彼女に対し、得意の語学力を生かして海外向けにウェブ販促する新規事業を提案。2008年、その女性を軸にTWSを結成した。ホームページを刷新し、海外向けサイトで案内を出したところ、1年で中国やインド、東南アジアなど世界各国から1500件の問い合わせを受け、販売ルートの新規開拓に成功。2010年度の海外の売上高比率はTWS結成当初の15%程度から30%に伸びた。

 とはいえ、営業経験のない女性社員にウェブ販売は難しい。そこで支えとなったのが営業担当の男性社員たちだ。商取引上のルールや特殊鋼の知識など、周囲の社員が惜しみなくスキルを伝達し協力し合った結果、海外売上高の向上につながった。

 2010年には人事制度も抜本的に見直した。個人の仕事を成果で評価する透明性の高い人事制度を導入し、フェアな職場環境作りに力を注いだ。こうした取り組みが実を結び、以前は20人程度だった女性の新卒応募者が、今や2000人を超える人気となっている。

女性の自発性を育むコカ・コーラ

 働く女性の側が、仕事に対する考え方や心構えを変える必要もある。

 冒頭のイラストで見た「そこそこ型」の女性が大半を占める中、重要なのは育児との両立期間に将来を見据えつつ、モチベーションを保てるか否かだ。ここでくすぶると、ミドル期やシニア期に活躍できる人材は育たない。

 とはいえ、ライフイベントを迎えてから意識改革に取り組んだのでは遅い。現状の女性活躍推進制度の多くは、ライフイベント期に入った女性たち向けに用意されたものだが、「その前段階で、将来に向けたキャリアプランを見極めつつ、能力開発と生産性向上ができているかが重要」と、女性活用やダイバーシティー(多様性)関連に詳しいライフ・ポートフォリオの前原はづき代表は指摘する。

 具体的には、20代のうちに仕事や私生活で実現したいことを書き出し、人生の年表を意識する機会を設ける。そうすることで、「子育てを終えても働き続けるには、今のうちにスキルを高めておかなくては」といった健全な焦りが芽生えるという。

 「女性社員が活性化しない根本には、働き続けることへの内発的な動機づけができなくなっていることがある」(前原代表)。会社が仕事や役割を一方的に与えるのではなく、女性が自発的に仕事に取り組み、自らの成長と企業貢献の必要性を認識することが、女性の活躍を進めるうえで欠かせない。

 会社に頼らず自分たちに何ができるのかを考え、個人の成長を通じて企業の業績を上げる。その点で、日本コカ・コーラが2012年5月末にキックオフした新たなプログラム「women’s linc(リンク)」は学ぶべきところが多い。

女性の自発性とリーダーシップを育む、日本コカ・コーラの新たな取り組み「women’s linc」

 コカ・コーラでは「全社員が働きやすく、能力を最大限に発揮できる職場作り」に世界規模で取り組んでいる。既に時短制度はもちろん、キャリアプランニングや、海外に社員を派遣し経験を積むグローバルなプログラムなど、ケアとフェアの両面から様々な取り組みを行ってきた。

 そんな中、今最も期待されているのがリンクだ。女性を中心に能力を開発する世界規模のプログラムで、東アジア地域では日本が初の導入となる。自由参加のプログラムにもかかわらず、キックオフ当日までに全女性社員の3分の1に当たる60人ほどが登録した。もちろん、男性も参加できる。

 「日本人女性の潜在能力は高い。だからこそ、自分も人に影響を与えながら組織を統率できると、女性自身が感じられることが重要」と、日本コカ・コーラで人事を担当するリディア・ドーマン副社長は指摘する。

 とはいえ、能力はあるが、自分に自信が持てないという女性は多い。そこで、リンクではメンバーが助け合いながら、働きやすい職場を作るために何ができるのかを考え、プログラムを発案し、自ら率いていく。リンクの経験を通じて、自発性と同時にビジネスに役立つリーダーシップを身につけることが最終的なゴールだ。

 リンクの活動で印象的なのは、経営側が女性社員に「あなたたちの成長の積み重ねが会社の業績につながる」ことを明確に伝えている点だ。「消費の手綱を握るのは女性。彼女たちの活躍は業績に直結する。だからこそ、女性の採用や育成に注力する必要性は高い」(ドーマン副社長)。

 フェアに働いてこそ女性活用。その点をうまく伝えつつ、女性たちの自信とやる気を高めることに力を注ぐ。結果、日本コカ・コーラでは2011年末段階で女性管理職比率が22%と高く、第一線で活躍する女性の姿が目立つ。

 今後、日本の職場も雇用形態や国籍が異なる社員同士が肩を並べる環境に近づくだろう。女性というだけでうまく戦力化できないようでは、グローバル競争下で成功を勝ち取る企業になるには程遠い。歪んだ女性活用の姿勢を改め、真に活躍できる女性を増やすことができるか。それが日本企業の将来につながっている。

男女問わず広がる「諦め感」
吉田 実 シェイク社長 に聞く
吉田 実(よしだ・みのる)氏
住友商事を経て、2003年に企業の人材育成を手がけるシェイクに入社。2009年から現職。著書に『「新・ぶら下がり社員」症候群』がある。(写真:古立 康三)

 男女問わず、企業にぶら下がる社員が増えている。特に問題なのは、30代の「新・ぶら下がり社員」の増加だ。表面的には真面目で、言われた仕事は一応こなすが成長意欲に乏しい社員を指す。言われたことにはそつなく反応するが自己主張はせず、自ら何かを決めることもない。

 ぶら下がり社員の存在は、いつの時代も問題視されてきた。だが、経済が右肩上がりに成長を続けていた頃は、上からの指示通り動くだけでも昇給し、一定のポストも用意された。今はむしろ、給料は下がる傾向にある。グローバル化が進み仕事も高度化する中で、働く個人の価値を発揮することが求められている。30代が置かれている社会環境は、過去とは大きく異なっている。

 なぜ、組織にぶら下がってしまうのか。原因は「こうしたい」との思いが失われていることにある。企業研修をしていると、感情を失っている社員が多くて驚かされる。9割方の人が、組織という強力なシステムに「使われて」いるとの意識で日々を過ごしている。会社では感情や思いを表出してはいけないと思っている若手社員が、非常に多い。

 組織の中で不公平感を覚え、不満が募っているケースもよく見られる。「あの人が昇進・昇格できたのは上司に好かれているから」「あの人は時短制度を利用できて、ずるい」。そんな思いが頭を巡り、仕事に情熱を傾けることができない。「頑張っても、どうせ自分は評価されない」と諦め、ぶら下がりたい気持ちに拍車がかかることもある。結果、企業と個人、双方にとって望ましくない状況に陥る。

 男女問わず、昇進・昇格に魅力を感じない人が増えているのも問題だ。頑張れば部長になれると言っても響かない。そんな彼らには、リーダーになることそのものを目的化するのではなく、個々人の特性を生かして、周囲にいい影響を与えることで自分も満足感を得られるといった環境作りが重要だ。それが生き生きと働くことにつながり、結果的にリーダーシップが育っていく。役職は1つの結果であり、固執しすぎない方がいい。

 結局、ぶら下がり社員の打開策は、本人のやる気を引き出すことに尽きる。与えられたことをしてくれればいいとの姿勢では、可能性は引き出せない。ぶら下がり社員を変えられるのは上司や同僚など周囲の存在であり、コミュニケーションだ。可能性を信じて、諦めない。それが大事だ。

 20代から志を磨くよう促すことも重要だ。40代で初めてリーダーシップを意識させても、志を見いだすのは難しい。20代で与えられた仕事をただこなしていると、30代以降、価値を発揮すべき時に意識の切り替えができなくなる。

 ぶら下がり社員が増えれば、企業は変革が難しくなる。変革できない企業は生き残れない。10年後、20年後に同じ仕事があるとは限らない。個人においても、働き口を失うことになりかねないとの緊張感も必要だろう。 (談)

(瀬戸 久美子)
日経ビジネス2012年6月18日号 156~159ページより目次