猛烈な円高と世界不況にもかかわらず、10%を超える利益率を叩き出す。社内のやり取りでカネが動くため、無駄な仕事がそぎ落とされ、勝手に効率化が進む。世界シェアトップの製品を支える、前代未聞の実証実験の内側に潜入する。

ディスコで行われている社内オークション。入札価格を見ながら仕事を落札していく(写真2点:村田 和聡)

 半導体ウエハーを切断するダイシングソーや半導体ウエハーを磨くグラインダーなど、半導体関連の精密加工装置でトップシェアを誇るディスコ。同社は製品の競争力を磨く一方、独自の内部管理制度「WILL会計」で組織の効率化を追求している。社員一人ひとりの収支を可視化し、部門間の喜怒哀楽を管理会計に反映させる取り組みだ。

 「放っておくと経営はどんどん複雑になる」と関家一馬社長が語るように、規模の拡大とともに意思決定やベクトルの共有にかかる時間は増えていく。だが、環境変化が激しいこの時代、内部管理にかまけていては時代の変化を乗り切れない。ならば、従業員の行動変化を促す仕組みを埋め込めばいい。ディスコがユニークな仕組みを次々と取り入れる背景にはこうした考えがある。

 国内生産100%で円高の打撃は大きいが、2012年3月期決算で10%を超える売上高営業利益率を実現した。ともすれば複雑化しがちな経営の簡素化を目論む。独自に進化させたディスコ流「アメーバ経営」を武器に、企業経営の新地平を切り開く実証実験――。その驚愕の世界を覗いてみよう。


 5月28日午前10時――。ディスコのアプリケーション事業部では風変わりな会議が開かれていた。

 「それじゃ、次の案件にいきますね。これ、やりたい人いませんか」

 司会役のリーダーが指さしたカードには、顧客名や期日、金額、作業の内容などが書かれている。

 「何で40万円なの?150万円ぐらいでないと無理ですよ」

 「時間があまりありませんね...」

 壁の張り紙の前に集まったメンバーは思い思いにつぶやいている。すると、ある女性社員が手を挙げた。

 「誰もいないならやりますよ」

 ほかの社員から手は挙がらない。

 「じゃ、よろしくね」

 リーダーは壁のカードに女性の名前を書き込むと、次のカードに移った。壁のカードは16枚。10分ほどですべての担当者が決まっていった。

 この光景は、毎朝のようにアプリ事業部で開かれている「競り」の一場面。ディスコは1月、オークションで自分の仕事を獲得する仕組みに変えた。

 アプリ事業部の場合は「テストカット」という業務を競りの対象にしている。無料の試し切りのことで、ディスコ製品の導入によってどんな成果が出るか、どう動かせばいいか、事前に確認できるというサービスだ。テストカットは顧客の最先端技術に関わるものが多いだけに、顧客の極秘情報に触れることができる。それがディスコの競争力を磨き上げる。

 オークション方式のため、発注価格や納期、カットの難易度などによって、手を挙げる人が出ないケースも少なくない。難しい案件なのに発注価格が低ければ、誰もが避ける。すると、顧客に迷惑をかけられない営業担当者は、発注価格を引き上げざるを得ない。

 システム部門や製造部門、間接部門などもお互いの仕事をオークションにかけるため、社内ではこの手の駆け引きがあちこちで起きている。

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