ご用聞きサービス狙う

新サービスを発表するセブンミールの青山誠一社長(左)とセブンイレブンの井阪隆一社長

 宅配物流網を構築しようと動いているのは楽天だけではない。コンビニエンスストア最大手のセブンイレブンも、この分野の改革に着手した。

 同社は5月1日、これまで1000円以上の買い物に対して200円払わなければ応じていなかった子会社セブン・ミールサービス(東京都千代田区)の弁当や総菜の宅配について、500円以上なら無料で配送するサービスを全国展開すると発表した。500円未満の注文でも120円で配送を請け負う。

 セブンミールの弁当宅配はこれまで本部がヤマト運輸に依頼していた。だが今後は店舗の従業員が運ぶ体制に切り替えていく。約1万4000店のセブンイレブン店舗のうち、既に1万店以上がこの新サービスの導入で合意している。店舗のオーナーには宅配1件ごとに奨励金を支払う予定で、関係者によればその額は120円程度という。

 弁当の宅配をヤマト運輸から店舗従業員に切り替える狙いは楽天と似ている。「オーナーをはじめセブンの店舗スタッフが自宅まで届ければ、セブンイレブンに対する客のロイヤルティーは間違いなく上がる」と同社関係者は言う。つまりブランド認知の拡大だ。

 弁当を注文する客と店舗従業員とが懇意になれば水やコメといった店舗に並ぶ商品も一緒に売り込めるようになる。さらに、セブンミールの青山誠一社長は「(ネット通販サイトを運営する)セブンネットショッピングの商品を運んでもらう計画もあり、同社と交渉を始めている」と話す。要するにセブンミールの弁当宅配をテコに、セブンイレブンはかつての「ご用聞き」のようなサービス展開を目指している。

 セブンイレブンが宅配分野に参入する背景には、高齢化の進行がある。行動範囲が比較的狭い高齢世帯を相手に商機をつかむには、自宅まで商品供給できる体制が不可欠だ。

 だが、こうした物流改革を進めようとすればするほど、両社とこれまで宅配市場拡大のうまみを共有してきたヤマト運輸との距離は広がっていくのは避けられない。ヤマト運輸は今回の件について「お答えする立場にはない」とするが、楽天とヤマト運輸が今回、組まなかった理由はいくつか考えられそうだ。

 まず楽天にとっては、同社が楽天マートで求める物流の仕組みと、ヤマト運輸が持つ既存の配送体制とをすり合わせるのは難しいと考えたようだ。一方、ヤマト運輸にとっては、楽天マートの商品に加えて楽天市場や楽天24の商品までを混載して運ぶようになると、同社が受注する配達件数そのものが一時的に減ってしまうというデメリットが発生する。

 間違いなく言えるのは、EC業界とコンビニ業界でそれぞれ国内トップの楽天とセブンイレブンが、宅配の物流網の構築に乗り出し始めた衝撃は大きいということだ。ヤマト運輸にとっては、大口取引先だった両社が「脅威」に変わる可能性もある。

(原 隆、飯山 辰之介)

日経ビジネス2012年6月11日号 10~11ページより目次
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