ルネサスエレクトロニクスの経営再建策が揺れている。日立製作所、NECなど大株主は資金支援に否定的だ。資金調達ができなければ、人員削減などの合理化もできない。

 「工場売却など、憶測による質問はノーコメント」。ルネサスエレクトロニクスの岩元伸一・執行役員は、こう繰り返した。5月28日、台湾の半導体受託製造大手、台湾積体電路製造(TSMC)とマイコンの共同開発・生産委託についての記者会見。詰めかけた報道陣の関心は、TSMCへの工場売却観測などルネサスの再建策に集中していた。

マイコン事業で台湾TSMCとの提携を発表したルネサスエレクトロニクスの岩元伸一・執行役員(右)(写真:山本 琢磨)

 1万人を超える規模の人員削減、工場売却など製造拠点の集約、そしてリストラ費用を賄うための1000億円規模の増資。ルネサスは認めてはいないが、これが経営再建策の骨子とされる。しかし、実現への道のりは険しい。

 ルネサスは日立製作所と三菱電機のシステムLSI(大規模集積回路)事業を統合したルネサステクノロジと、NECエレクトロニクスが2010年4月に統合して誕生した。マイコンと呼ばれる半導体分野でシェアは約3割と世界トップ。特に自動車制御用のマイコンは4割のシェアを持つ。電子化が進む自動車にマイコンは欠かせず、昨年の東日本大震災でルネサスの工場が被災した折には、国内の自動車メーカーは生産停止や減産に追い込まれた。

 しかし、高いシェアの割に収益力が低い。2010年4月の発足から2年間、四半期単位で見ても最終損益が黒字になったことはない。原因は重い固定費だ。3社の寄り合い所帯のため製造拠点が分散し、昨年末時点でグループの従業員数は約4万4000人に上る。会社更生法の適用を申請した半導体大手、エルピーダメモリと比較すると、売り上げ規模は2倍なのに、従業員数は7倍以上になる。

 顧客の要望に合わせて設計するシステムLSIは、汎用品のメモリーと比べて開発に人手が必要。それを勘案しても、売上高に占める販売管理費の比率が38%というコスト構造は重すぎる。大規模な人員削減などで高コスト体質から脱却しないと、黒字定着は難しい。

 合理化には資金が必要だが、手元資金は減少を続ける。格付けが低く、起債は「厳しい」(小倉和明・取締役執行役員常務)。銀行から借りれば済むが、赤字が続く状況では、中期的な経営再建策の提示を迫られる場合が多い。

日立、NECは資金支援に否定的

 1000億円規模とされる増資は、合理化に伴う財務への負担を考えれば避けられない道。母体である大株主3社に要請が行くのは自然な流れだろう。ただ、3社の足並みはバラバラだ。

 「要請が来たら検討し、3社で連携して何らかの対応は図っていきたい」。5月21日、三菱電機の山西健一郎社長は、経営戦略説明会の席上でルネサスに言及した。前向きな姿勢とも取れるが、日立とNECのスタンスは異なる。

 半導体や薄型テレビなど、日立は価格変動の激しい事業を縮小することで業績を回復させた。ルネサスへの出資は半導体事業に再び投資することに等しく「株式市場に説明できない。追加出資などとんでもない」(日立関係者)。

 NECは2012年3月期に1102億円の赤字となり、1万人規模の人員削減に取り組んでいる。ある幹部は「独立した会社として経営するという前提で経営統合を決めた。これ以上の資金支援はしない」と言い切る。

 ルネサスにとって構造改革は避けられないが、肝心の資金を手当てできない。進むことも引くこともできず、このままでは遠からず、身動きが取れなくなってしまう。

 エルピーダは電撃的に会社更生法の申請を決めた。しかし、ルネサスは自動車業界への影響が大きすぎるため、「時間をかけて再建策をまとめることになりそうだ」(いちよしアセットマネジメントの秋野充成・執行役員)。株主3社に頼るか、それとも新たな支援の枠組みを見つけるのか。再建の行方は、まだ見えない。

(阿部 貴浩、白石 武志)

日経ビジネス2012年6月4日号 13ページより目次

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