ジャーナリスト4氏に、トヨタをはじめ“ビッグ6”の「商品力」を評価してもらった。高評価だったのはフォルクスワーゲン。開発の効率化とブランド戦略の巧みさが光る。日系では僅差ながらトヨタの評価が高い。HVの技術、品揃えが高評価につながった。

評価してもらったジャーナリスト4氏
田中 誠司氏 田中 誠司氏
「カーグラフィック」編集長
創刊50周年を迎えた老舗自動車雑誌の若き編集長
山口 京一氏 山口 京一氏
「オートモーティブエンジニアリング」アジア担当エディター
日本カー・オブ・ザ・イヤーの評議員も務める
イアン・アドコック氏 イアン・アドコック氏
モータージャーナリスト
「Autocar」などの自動車専門誌の編集者を経て、1980年からフリーに。英国在住
鶴原 吉郎氏 鶴原 吉郎氏
「日経オートモーティブテクノロジー」編集長
日経BP社に入社して30年近く、自動車業界を長く取材

 自動車メーカーの実力を測るうえで「商品力」は重要な要素だ。だが、営業利益率などから測れる「収益性」などとは異なり、定量的な尺度がないため、数値化しにくいのが難点である。

 そこで今回、日欧を代表する自動車ジャーナリストたちに独自の視点で商品力を評価してもらい、各社の実力をあぶり出してみた。

 話を伺ったのは「カーグラフィック」編集長の田中誠司氏、「オートモーティブエンジニアリング」アジア担当エディターの山口京一氏、英国在住のイアン・アドコック氏、「日経オートモーティブテクノロジー」編集長の鶴原吉郎氏の4氏だ。燃費、運動性能、使い勝手・装備、スタイリング、コストパフォーマンスなどを考慮し、10点満点で採点してもらった。

 4氏がともに高い評価を与えたのが独フォルクスワーゲンだった。指摘として共通するのが、性能と価格のバランスの良さだ。車台をはじめとする部品の共有化を進めた結果、「車種ごとの乗り心地が似通ってきている」とアドコック氏は分析するが、デザインや内装によって違いを打ち出すことに成功している。

 「アウディ」など高級ブランドでも共通プラットホームを採用することで開発コストを抑制。中国で高いシェアを獲得していることも、収益性の高さを表すものとして評価につながった。

 韓国の現代自動車は山口氏が高い評価を与えたが、全般としては日系3社よりやや低い評価にとどまった。ただ、4氏の評価を単純合計した得点では1~2ポイントの差でしかない。「アウディの伝説的デザイナー、ペーター・シュライヤー氏を引き抜いたことが大きい。彼は経営陣と近いポジションにあり、デザインに強い決定権を持っている」(田中氏)との声があった。

 2011年の販売台数で世界一となった米ゼネラル・モーターズ(GM)の評価は、やや辛口だった。2009年の破綻を受けて「古い生産設備を切り捨て、経営体質もスリムになった」(山口氏)との評価はある。一方、北米ではトラック、中国ではミニバンが主力となっている商品構成上、今回の主な採点対象となっている乗用車においては他のメーカーに一歩譲るというのが、ジャーナリストの総意のようだ。

 トヨタ自動車、ホンダについては「デザインが保守的」といった見方が多かった。トヨタは「生活の道具としてのクルマという点では、他のメーカーを頭1つリード」(鶴原氏)との評価はあったが、新技術の導入には慎重との印象があるようだ。HV(ハイブリッド車)の技術では他社を圧倒するが、ディーゼル車が主体の欧州市場の攻略には直接つながらないとの見方もあった。

 ホンダも「普遍性が高く、無難なクルマが多い印象」(山口氏)といった指摘が多かった。識者やユーザーが期待する「先進的、冒険的」なイメージと、実用性を重視する実際のクルマ作りとの方向性の違いが目立ち始めている。

 日産の評価はわずかにホンダを上回った。デザインで先進性を取り戻し、かつ乗り心地やエンジン性能でも「トヨタ、ホンダに肩を並べる水準」(鶴原氏)。EV(電気自動車)「リーフ」やスポーツカー「GT-R」の存在も、企業イメージの向上につながっている。

フォルクスワーゲンが高評価
モータージャーナリストによるクロスレビュー

トヨタ自動車


田中氏【8点】何といってもHV(ハイブリッド車)。近年、日本メーカーを持った数少ない事例だろう。デザインが酷評されることがあるが、「アクア」は低価格なうえに、街中でも存在感があり、期待できる。
山口氏【7点】ハイブリッド技術に注力し、「プリウス」ブランドを作り上げたが、他の技術への目配りが遅れた印象があった。「レクサス」の一部車種で、世界初となる8速ATを採用しているなど技術的な挑戦も見られるようになってきた。
アドコック氏【5点】技術的に優れたクルマを作るが、刺激が足りない。スポーツカー「86」を投入し、先進的なイメージに転換しようと挑戦。「プリウス」もブランドの宣伝に一役買うが、欧州では「HVはエコカーの本命にあらず」との見方も。
鶴原氏【6点】耐久性、信頼性は依然、世界最高水準。「生活の道具」としては一歩リードする。ただ、デザインはやや保守的。ハイブリッド技術と、レーダーを応用した衝突回避などの電子技術を除くと、新技術の導入にも慎重な印象。

ホンダ


田中氏【7点】HVでは、「インサイト」は純粋に燃費だけだと「プリウス」と同水準かもしれないが、加速性能は劣る。かつてスポーツ性の高さが魅力だったが、今は軽とミニバンのメーカーという印象も。「ホンダらしさ」を取り戻せるか。
山口氏【7点】「フィット」など使い勝手が総合的に高いクルマ作りは評価できる。ただし、普遍性が高く、無難なクルマが多い印象。方向性が不明確で、今の時代における「ホンダらしい」クルマ作りに期待したい。
アドコック氏【5点】欧州では技術的にトヨタを凌駕していると思われている。ただ、デザインはトヨタ同様に保守的だ。そのため欧州での販売は、ドイツを中心に苦戦。英国でも購入者の高齢化が進み、若者からの支持を失いつつある。
鶴原氏【6点】先進的・冒険的なイメージが強いが、最近は革新的な商品の提案が減っている。技術開発においても「他社に先駆けて実用化」という例は少なくなっている。商品の細部にはエンジニアのこだわりが見受けられる。

日産自動車


田中氏【7点】SUV(多目的スポーツ車)「ジューク」など日本の大手メーカーでは一歩突き抜けたデザインの車種を出すようになり、海外でも評価されている。今後はEV(電気自動車)でどこまで特徴を出せるかに注目したい。
山口氏【7点】EVの「リーフ」やスポーツカーの「GT-R」など先進的なクルマを技術者に作らせる、懐の深さがある。強みである無段変速機(CVT)を欧州で普及させるのは難しいだろうが、米国を開拓できるかが焦点になる。
アドコック氏【5点】日系の大手3社の中では欧州で最も注目される。「ジューク」など冒険的なスタイリングの車種を投入し、販売が好調だ。英国ロンドンにデザインスタジオを構え、退屈なスタイリングから脱し始めている。
鶴原氏【6.5点】日産の商品はゴーン改革以来、デザインが飛躍的に向上し、今や日本車のトップ水準になっている。総合的な商品力は、デザインの魅力や、現地化ニーズへの対応という面で、トヨタ、ホンダを若干リードする。

フォルクスワーゲン


田中氏【9点】同社のTSIエンジンの燃費はHVと同等に評価する。欧州では小型車もアウトバーンを高速走行するため、運動性能は総じて優秀。ボディーやサスペンション、シートなどをしっかりと作る傾向があり、割安感は少ない。
山口氏【9点】小型車「ゴルフ」は評価が高い。欧州に加え、中国でも最大シェアであるのが強み。小型車「up!」で素材進化を捉え、廃れていたエンジンのタイミングベルトを復活するなど、技術トレンドを先取りする力を見せつける。
アドコック氏【8点】欧州では高い存在感。品質に定評があり、現在そのピーク。モジュール化で車種ごとの乗り心地は似通っているが、デザインや装備で差異化に成功。デザインは退屈で保守的だが、消費者に受け入れられ、販売好調。
鶴原氏【7点】特に「ポロ」「ゴルフ」という代表車種の品質、性能と価格のバランスで世界のメーカーがベンチマークとするほど優れている。高級車分野の「アウディ」も強い。新たなプラットホーム戦略が注目される。

ゼネラル・モーターズ


田中氏【6点】GMだけでなく、米国車は全体的に燃費や運動性能を日欧ほど重視しておらず、マイナス材料となる。デザインもやや物足りない。ただ、ドル安の追い風もあり、コストパフォーマンスは相対的に良くなっている。
山口氏【7点】基礎研究を含めた技術的蓄積について評価が高く、技術者も豊富。経営再建の過程で古い生産設備などを切り捨て、スリム体質に。3年前からクルマの進化が著しい。ただし、EV「ボルト」の売れ行きには失望。
アドコック氏【5点】欧州では労働者階級のブランドと位置づけられ、プレステージは低い。フォードと比べても苦戦。ただ来年、小型車「アダム」の発売などで反撃。アダムはBMW「ミニ」などの対抗車とする。新イメージを広められるか。
鶴原氏【5点】日欧のメーカーと、商品ラインアップが異なりすぎており、同列での比較は難しい。北米ではトラックが主力、中国では非常に低価格のミニバンが主力で、実際に日本車と競合する場面は少なくなっているのでは。

現代自動車


田中氏【6点】アウディから著名デザイナーを招聘し、デザイン力の向上に直結した。「ソナタ」は値段の割に高級感がある。ただ、まだ過渡期で、すべての車種が洗練されてはいない。総合評価では、まだ日本勢に一日の長。
山口氏【8点】開発期間が短くスピード感がある。デザイナーの力を生かしたクルマ作りができている。製鉄会社買収で高品質な鋼材を安定調達できるようになったのが生きている。部品メーカーも着実に育て、地力をつけつつある。
アドコック氏【5点】従来、品質やデザインが劣っていたが、短期間でドイツ車や日本車と同等と見なされるまでに改善した。欧州人の趣向を分かっており、コストパフォーマンスも高い。ホンダ、ルノー、プジョー、GMなどには脅威。
鶴原氏【5点】この3~4年で、外観デザインは飛躍的に向上した。内装の質感も良くなっている。外観だけを見れば日本車より魅力的な車種も出てきた。ただ、走行性能、乗り心地、燃費などではまだ日本車に一歩及ばない。
日経ビジネス2012年6月4日号 42~43ページより

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