高精細液晶パネルは米アップルのiPad向けなどに需要が拡大する(写真:AP/アフロ)

 今年3月に米アップルが発売した新iPadに液晶パネルを納入した韓国サムスン電子。ある同社幹部は、「初期ロットには何とか食い込めたが、次からはシャープが脅威になる」と話す。

 シャープは4月、酸化物半導体IGZOを使う新型液晶パネルの量産を始めた。2015年に現在の3倍の2億台弱に増えるとされる高精細パネルの需要をIGZOで奪いにかかる。まずはタブレット型端末用に出荷を始めたが、その先にはノートパソコンや業務用モニターなどへの応用が視野に入る。「IGZOがあれば、米アップルのテレビだろうが米ヒューレット・パッカード(HP)のパソコンだろうが受注できる。鴻海(ホンハイ)精密工業もIGZOを狙っているのは間違いない」(シャープ関係者)。

 期待される売り上げは最大数千億円。バークレイズ・キャピタル証券の藤森裕司アナリストは、「収益の柱になる可能性は十分にある」と指摘する。

 IGZOなどの高精細技術には、韓国勢も巨費を投じて開発に取り組む。シャープの優位がどの程度、続くかは不透明だ。しかし、同社の米田裕ディスプレイデバイス第二事業部長は「中身は言えないが、その先を行く技術は準備してある」と自信を示す。

 先端技術を社内に囲い込み、最新鋭設備で液晶テレビを一貫生産する従来のシャープの勝ちパターンはもはや通用しない。度重なる誤算の末、生き残りのためとはいえ、4000億円強を投じた堺工場の持ち分の半分を破格の660億円でホンハイに譲渡することの重みは、シャープ自身が一番よく知っている。

 連結売上高の2割を稼ぐ液晶テレビは、2013年3月期も前期比14%減収の見通し。奥田隆司社長は「(テレビは)もはや商品特性よりも生産規模が優劣を決めている」と、事実上見切りをつける。その一方で、前期に422億円の営業赤字を計上した液晶パネル事業には、あくまで賭ける。

 消費者をひきつける画期的商品の“用途開発”は海外メーカーに任せ、技術力をテコにあえて「下請け」の道を究めることで、シャープが再び世界に攻め込むチャンスが生まれる。

 部品メーカーへの転身には時間がかかる。急場をしのぐ収益源も必要だ。前期に売上高2923億円、営業利益294億円と全社の稼ぎ頭になった健康・環境機器(白物家電)がこの役割を担う。

 「当社のエアコンなら、気流がこんなに改善します」。シャープがアジア各地で開く家電の展示会。日本から出向いた社員が、現地販売員に製品の特徴を教え込む。空気清浄技術「プラズマクラスター」の効果をアジアの富裕層に伝えるため、現地の研究機関から“お墨付き”となる認証も取得した。

 同社は、白物家電の海外売上高を数年内に現在の1.5倍の1500億円超まで引き上げる。海外売上比率は50%まで高める計画だ。

 巨大な生産能力を持つホンハイとの水平分業は、これまで社内にしまい込んできた技術の種を世界市場で花開かせる好機でもある。テレビの呪縛から自らを解き放った先にしか、再生への道は存在しない。

日経ビジネス2012年5月21日号 36~37ページより

この記事はシリーズ「特集 さよならテレビ」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。