優れた技術者が、韓国のサムスン電子やLG電子などに数多く流出したことは事実だが、それでもソニー社内には優秀な技術者が数多く残っている。こうした人材のアイデアを素早く商品化につなぐことが経営陣に求められる。

 平井一夫社長には、盛田昭夫氏や井深大氏が実践していたように、技術開発の現場をぶらりと訪問してほしい。現場と対話を重ねることでソニーらしい商品の芽がどこにあるのか、幹部連中との会議だけでは分からない情報を入手できる。

 経営トップに気をかけてもらえば、現場の士気も高まる。こういった泥臭い仕事ができるかどうかが重要だ。多くの取り巻きに囲まれて、“赤絨毯”の上を歩いて現場を表敬訪問しても価値のある情報は得られない。

 技術力を商品開発に生かすことは大事だが、心配なのはマーケティング・営業力が落ちていること。優れた商品を出しても、世間で話題にならないのは、マーケティング・営業力が低下しているからだ。

 厳しい言い方をすれば、「SONY」のブランドは賞味期限が切れつつある。自分たちが優れていると思う商品であっても、消費者は昔と違ってあまり関心を持ってくれないという現実を直視すべきだ。ソニーはいまだに自社のブランドにあぐらをかいているように見えて仕方がない。

 ソニーの牙城だった欧州市場でもブランド力が徐々に低下している、と感じた出来事がある。今年3月、ソニー時代にお世話になったパリ市内のホームシアター専門店を久しぶりに訪問した時のことだ。以前はソニー製品で埋め尽くされていた店内が、ほとんどサムスン製品に置き換わっていた。過去のリストラで、欧州のマーケティング・営業担当者の多くが、サムスンなどの競合に流出したと聞いたことがあるが、実際にそうなのだろう。こうした人材を生かして、地道に広告宣伝や営業活動を強化してきたことが、サムスンの強さにつながっているわけだ。

 ソニーは1万人のリストラを実施すると聞く。安易に頭数だけを調整することはないと信じているが、技術者はもちろん、海外市場で奮闘する優秀な現地のマーケティング・営業担当者も大切にしてほしい。グローバル企業というなら、国内従業員の削減も“聖域”扱いしてはならないのではないか。

(複数のソニーOBへの取材を基に構成)

日経ビジネス2012年5月21日号 35ページより

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