パナソニックが高齢者向け賃貸住宅事業に参入した。国が主導する介護付き住宅の供給拡大を見越した動きだ。「製品+サービス」の発想で、売り上げ倍増を狙う。

 JR学研都市線津田駅から徒歩15分。大阪の丘陵地に広がる住宅街の一角に4月、パナソニックが初めて手がけた高齢者向け賃貸住宅がオープンした。

 施設名は「エイジフリーハウス枚方津田」。3階建ての建物の2~3階部分が総戸数18戸の高齢者向けの賃貸住宅で、1階部分には、周辺に住む高齢者向けに通所や宿泊の介護サービスを提供する居宅介護の拠点を併設した。施設内には介護専門の職員が常駐し、入居者はいつでも入浴介助や健康相談などの有料サービスを受けられる。

 賃貸住宅の居室の面積は約18平方メートルで、トイレ付きシャワー室や車いす対応型の洗面化粧台、照明など備品の多くはパナソニック製。家賃や食費にリネン交換などのサービス費を合わせた月額料金の目安は約17万円と、「有料老人ホームなどに比べると少ない負担で入居できる」(同社)という。

居室の面積は18平方メートルで月額料金の目安は約17万円。備品の多くはパナソニック製だ

 パナソニックは既に同じ大阪府内で2 棟目の建設に着手しているほか、2012年度中に各地で用地確保の交渉を進め、将来的には首都圏と近畿圏にそれぞれ約15棟ずつ、同様の施設を建設する考えだ。

総世帯の4分の1が高齢者に

 主力のエレクトロニクス部門の陰であまり目立たないが、パナソニックは電動ベッドや車いすなど介護用品の製造・販売を手がけ、グループ会社を通じて訪問介護や介護用品のレンタル事業なども展開している。介護事業の従業員数は約2600人。2010年度の売上高は約200億円と、専業大手に肩を並べる規模を持つ。

 そのパナソニックが賃貸住宅まで手がけるのは、高齢者向け住宅市場の成長が見込まれているからだ。国土交通省などの予測によると、2010年に1000万世帯だった高齢者の単身・夫婦世帯数は2020年には1245万世帯に増加する見通し。国内の総世帯の実に4分の1が高齢者だけの世帯になると見込まれている。

 一方、高齢者の総数に対する高齢者向け住宅の比率はわずか0.9%(2005年)。高齢者に適した住宅は圧倒的に不足しており、国はこの比率を2020年までに3~5%に引き上げる戦略を掲げている。

 2011年には高齢者住まい法を改正し、バリアフリー構造や安否確認サービスなど一定の条件を満たせば建設・改修費の補助や税制面での優遇が受けられる「サービス付き高齢者向け住宅制度」を創設した。介護サービス事業者を中心に同制度の利用が拡大し、半年間で総登録戸数は約4万2000戸に達している。

 こうした動きを追い風に、パナソニックが手がける介護施設向けの建設資材などのニーズも高まっている。同社は介護事業全体の売上高を2015年度までに現在の2倍の400億円に引き上げる計画だ。

 パナソニックはグループ内の製品群を家庭やオフィスに一体的に提案する「まるごと戦略」を進めているが、「サービスが加わる例はこれまでなかった」(ヘルスケア社の森田浩一プロジェクトマネージャー)。製品を売り切るだけのビジネスモデルから脱却するという意味でも、高齢者向け住宅事業は試金石となる。

 ただ、パナソニックが賃貸住宅に併設した居宅介護拠点は商圏が限られるため「儲かりにくいビジネス」とも言われる。安定した利益を確保するために、効率化などでイノベーションを起こせるか。新事業への覚悟が問われている。

(白石 武志)

日経ビジネス2012年5月7日号 18ページより目次

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