消費増税は小沢一郎民主党元代表の無罪判決で視界不良に。剣が峰の野田佳彦首相だが、「解散権」を持つ強みは大きい。チキンレースの先に、乾坤一擲の勝負をうかがう。

復権への足がかりを得た小沢一郎氏(下)はどう動くのか(写真:時事通信)

 資金管理団体の土地取引を巡る事件で東京地裁が4月26日、民主党の小沢一郎・元代表に無罪を言い渡した。

 全体としては“グレー”だが、“黒”とまでは言えないという薄氷の判決。小沢氏の説明責任はなお残るものの、党員資格停止処分の解除が早くも俎上に載るなど、復権への動きは急ピッチだ。

 「資格停止を解除したら、次は要職への復帰。それから、野田降ろしだ」。小沢氏に近い議員はこう語る。

 小沢氏が得意な選挙対策ポストなどに就いて影響力を回復。野田佳彦首相が「政治生命を懸ける」とする消費増税関連法案は「国民への裏切りだ」と衆院での採決阻止へグループを挙げて注力する。同法案を継続審議にし、9月の民主党代表選で小沢氏自身か、別の対立候補を擁立し、野田首相を引きずり下ろす――。小沢氏周辺はこんなシナリオを描く。

ヤマ場は6月か

 焦点の消費増税関連法案の国会審議は5月の大型連休明けから始まる。審議の進捗次第だが、最大の難関となる同法案の衆院採決は早ければ6月中にも行われる公算だ。仮に野党の全員が同法案に反対した場合、与党から56人が反対に回れば否決される。

 ある民主党の閣僚は「選挙基盤が弱い小沢グループのほとんどは衆院解散・総選挙を避けたいのが本音。野田首相が解散するのが怖いので、採決時に50人規模の造反が出るのは難しいはず」と見る。それでも確実に成立する見通しが立たない以上、野田首相が期待するのが自民、公明両党との協力だ。

 自民党のある幹部は「民主党がマニフェスト(政権公約)の最低保障年金の撤回などに応じ解散を約束すれば、消費増税関連法案に賛成できる」と話す。小沢グループなど「マニフェスト堅持派」を切れるのか、ボールは野田首相側にあるというわけだ。

 自民などから協力を取りつけるうえでもう1つの大きな壁になっているのが、民主党執行部の消極姿勢だ。

 輿石東幹事長らは、解散環境の整備につながる選挙制度改革の与野党協議の調整に本腰を入れず、野田首相が4月中と望んだ消費増税関連法案の審議入りも先送りした。早期解散の阻止が背景にあるのは周知の事実だ。

 包囲網が狭まる中、野田首相は消費増税関連法案の今国会での成立にこだわる姿勢を崩さない。周辺の複数の議員、政府関係者はその胸の内に関し、こう口を揃える。「野田さんは、郵政解散の再現を念頭に置いている」。

 2005年、小泉純一郎元首相は、最重要課題に掲げた郵政民営化関連法案が衆院で可決後、参院で否決されるや、自民党内の猛反発を振り切り、総選挙に打って出た。「賛成してくれるのか反対するのか、はっきり国民に問いたい」。鬼気迫る小泉氏の会見や「刺客」戦術などが功を奏し、自民党の圧勝を導いたのは記憶に新しい。

 ただ当時、小泉内閣の支持率は40%台を維持していたのに対し、4月下旬の野田内閣のそれは29%に低下(日本経済新聞社調査)。原子力発電所再稼働問題などの火種も抱え、衆参のねじれ状態にあるなど状況は格段に悪い。

 それでも、野田首相は「仮に敗れても、歴史に名が残ればそれでいい」と口にしたことがあるという。ある閣僚は「衆参両院のいずれかで消費増税関連法案が否決されるか、継続審議になれば、野田さんは結果を恐れず、乾坤一擲の勝負に出るだろう」と予想する。

 日本大学の岩井奉信教授は「解散の決定権を持つ以上、野田首相は小沢さんらより優位な立場にある」と語る。持論を曲げ先送りを選ぶのか、伝家の宝刀を抜くのか。チキンレースの勝者はほどなく分かる。

(編集委員 安藤 毅)

日経ビジネス2012年5月7日号 16ページより目次

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