ファンケル店頭では今年3月からタブレット端末を使って接客する(写真:大槻 純一)

 「また、同じ質問…」

 実生活で様々なサービスを受けていると、ついこうグチをこぼしたくなることがある。以前、電話や店頭で店員に伝えた内容をもう一度聞かれてしまうからだ。

 こうした利用者の不満をなくそうと総額約50億円をかけて顧客管理システムを刷新した会社がある。化粧品販売のファンケルだ。

 「お客様にはこの製品がお薦めです」

 「以前、ご購入いただいた乳液はいかがでしたか」

 店頭のカウンターで来店客と話す店員の手にはタブレット端末がある。この端末で顧客の生活習慣や肌質などを一度記録すると、ほかの店舗の店員でも通信販売のオペレーターでも同じデータを見られる。また、購入履歴がチャートで示され、そろそろ買い替えが必要な化粧品を表示する。

リピーターの減少を食い止める

 さらに、店頭で顧客の肌質をカメラで判定すると、自動的にお薦めの製品が分かる。つまり、初めて接客したお客でも、以前に来店したか、もしくはカタログ通販やインターネットで購入していれば、すぐに製品の話に入ることができるのだ。

 無添加をセールスポイントとして通販と直営店で化粧品を販売してきた同社には、約240万人の会員がいる。累積の購入明細データは2億7000件に達する。しかし、以前はカタログ通販と直営店、インターネットの販売データはばらばらに管理されていた。さらに、顧客から聞いたカウンセリング情報は直営店ごとに紙のファイルで管理するにとどまっていた。

 2011年5月から開始したシステム改編で、まず顧客管理情報を一元化した。これにより、誰が何をいつ買ったのかが、販売経路にかかわらず分かるようになった。次に手がけたのが、タブレットによる接客と、カウンセリング情報のデータ化だ。

製品の購入履歴(画面上)やお薦め製品(画面下)を表示できる

 2012年3月から全国177の直営店にタブレットを導入。同社は化粧品ブランドの刷新も同時に進めており、新たな製品知識が販売員には求められている。タブレットによる製品の選定でその負担を軽減する効果も出ている。

 カウンセリングの内容も、店頭とコールセンター、インターネットでかなりの部分を統一した。電話で一度答えた内容は、店頭で改めて聞かれることはなくなった。

 顧客への郵送作業もシステム改編で短縮した。同社ではリピートの多い約100万人の顧客向けに、適切な情報誌とカタログを組み合わせて送る。どの顧客に送るか、どのカタログを入れればいいか。例えば乾燥肌を気にしている顧客には、それに適した化粧品のカタログを入れなければいけない。

 以前はこの選別作業に1カ月を費やしていたが、今では1週間で終えられるようになった。

 ファンケルがこうしたデータの活用に踏み切ったのは、リピーターの減少を食い止めるためだ。かつては80%近かったリピート率が今では5割を切っている。それにより収益の減少が続き、2012年3月期は2期連続で減収減益の見通しだ。対策として考えたのは一度獲得した顧客を逃がさないこと。製品の買い替えのタイミングを確実に把握することだ。

 来年の秋に予定している第3弾のシステム改編ではフェイスブックなどSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用するなど、顧客に効果的に情報を送ることを狙う。

 同社営業本部で販売システムを担当する前田弘之氏は「システムの処理速度が飛躍的に上がり、さらに店頭ではタブレットを活用することで、以前にはかなわなかった迅速な接客が可能になった」と話す。

自販機が性別と年齢を分析

JR東日本ウォータービジネスが導入している次世代自動販売機

 東日本旅客鉄道(JR東日本)の各駅で最近目にするようになった次世代自販機。通常の自販機に比べ一回り大きく、前面が47インチのタッチパネル式ディスプレーになっていて、製品がずらりと並んでいる様子や広告が映し出される。存在感もあり、乗降客の注目の的だ。

 駅構内の飲料自動販売機を運営するJR東日本ウォータービジネス(東京都渋谷区)が2010年8月から導入を始め、4月1日時点で336台、今年の夏までに500台まで増やす計画だ。

 この自販機の最大の特徴は前に立つと、その日の天候、時間、その人の性別や年齢によって、商品に「おすすめ」マークを表示することだ。気温の高い平日の朝、男性ビジネスパーソンが立つとアイスコーヒーを、午後に女性が立てば清涼飲料を、お年寄りならサイズの小さなお茶を、という具合だ。

 秘密は自販機上部に埋め込まれた小型センサー。顔と肌質などから性別と年齢を10代単位で判別、利用者を14タイプで見分けているのだ。

 この次世代自販機はJR東日本ウォータービジネスのセンターサーバーにつながっている。ここに蓄積したPOSデータから、属性、天候、時間帯などの売れ筋商品があらかじめ分析される。そのデータを照合して、自販機の画面にお薦め商品を表示する。

 通常の自販機と異なり、商品をデジタル表示するので、必ずしも自販機のライン通りに商品を表示させなくてもいい。実際にはミネラルウオーターの列が3つしかなくても、夏の暑い午後などには商品を目立たせるため、棚に5本並べて表示することもできる。一方、売り切れた商品は表示しない。

 もっとも、現時点で販売促進に活用しているPOSデータは、JR東日本のSuicaのポイントクラブ会員が、Suicaで商品を購入した時のものだ。

 4500台あるSuica対応機のうち次世代販売機はまだ少ない。また、小型カメラの属性判定は70%程度と精度が不十分。ポイントクラブ会員のカード情報を活用した方が、現時点では、詳細な顧客分析ができるという判断である。

 同社の笹川俊成・営業本部長は「ICカード決済とネットワーク技術の進歩で自販機からも詳細な販売データが入手できるようになった」と話す。

購入データを分析して続々と新製品が生まれている

 このPOSデータは新製品開発にも活用が始まった。今年3月6日に発売したミネラルウオーター「フロムアクア」の新製品は「落ちないキャップ」が特徴。キャップとボトルがプラスチックのバンドでつながっていて、落ちない仕組みだ。年間2億件に上る販売データを分析して「ミネラルウオーターは通勤通学前、最寄りの駅で買う」ことが分かった。つまり、移動中に持ち歩いて飲む人が多い。そこで持ち歩きに便利な機能を追加したわけだ。

 「午後は女性に『おやつ飲料』が売れる」こともデータから分かった。女性を対象に今年4月、「愛媛便り夏みかんゼリー」をえひめ飲料(松山市)と一緒に開発。5月には「大人にも炭酸飲料が売れている」とのデータ分析結果から、甘さを抑えた上品さを特徴として、梨を使った炭酸飲料の「The・おおいた 日田の梨ソーダ」をジェイティ飲料(東京都品川区)と共同開発した。

 笹川氏は「データの裏づけがあるのでメーカーに新製品の提案がしやすくなった」と手応えを語る。

日経ビジネス2012年5月7日号 47~48ページより

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