EC(電子商取引)からクラウドサービス、タブレット端末に事業を広げ、世界が注目する。顧客至上主義を掲げ、長期的な視野に立って革新的なサービスを生むことに力を注ぐ。日本でも電子書籍端末発売の準備を着々と進める。 (聞き手は 本誌編集長 山川 龍雄)

写真:的野 弘路
ジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)氏
1964年、米ニュー・メキシコ州出身。48歳。86年にプリンストン大学卒。ニューヨーク・ウォールストリートの金融機関に勤務後、90年にヘッジファンドに移籍。インターネットの登場とともにEC(電子商取引)の可能性に気づき、94年にシアトルへと移住。前身となる「Cadabra.com」を開業し、95年7月に現在のアマゾン・ドット・コムを創業した。97年には株式公開を果たす。現在は民間宇宙開発企業を設立し、低価格の宇宙旅行の実現にも力を入れている。

 問 来日は5年ぶりです。その間、EC(電子商取引)だけでなく電子書籍端末「キンドル」やクラウドサービスの拡充など事業は多岐にわたっています。アマゾン・ドット・コムは何を目指しているのでしょう。

 答 「地上で最も顧客中心の会社」が私たちのビジョンです。そして、望んでいるのは、全く異なる業界からもアマゾンが手本にされるようになること。「あのような卓越した顧客経験を我々の産業でも実現したい」と言われるようになりたいですね。

 そのために我々は「品揃え」「利便性」「低価格」という3つの要素を大事にしています。この3つは密接に結びついているものです。

 まずは、品揃えから始まります。顧客が求める品物がなければ、価格がどれほど安くても、どれほど速く届けられても意味がありません。

 しかし、品揃えが充実していても、届けるのが非常に遅かったり、価格が安くなければ顧客にとって意味がありません。この3つの要素をすべて改善していくために、エネルギーとリソースを注ぎ込んでいます。

 問 アマゾンの顧客中心主義の徹底は広く知られています。しかし、ほかの企業の経営者もまたその言葉をよく口にします。

 答 そうですね。我々と彼らが何が違うかをきちんと説明しておいた方がいいかもしれませんね。

 顧客中心だと言い張る会社の行動を見てください。実際に何を言っているのか、何をしているのかを見れば、決して顧客中心でないことが分かるでしょう。メディアに対して最大の競合他社の名前を挙げる。これは競争相手中心であることの明らかな兆候です。もちろん、私はこれを間違いだと言っているわけではない。会社によってはそれでもいいのです。

 「close following(すぐ後ろからついていく)」という戦略があります。競合の一挙一動をじっと見つめ、何かした時にはうまくいくかどうか様子をうかがう。うまくいけば、迅速に真似をする。この戦略はある意味、難しい。だからこの戦略を取る会社を非難すべきではないとは思います。

 でも同時に、彼らは何も発明していないのです。何も発明していないということは、すなわち先駆者ではないということ。誰かの後ろについていくということは、顧客ではなく競争相手が中心にいるということです。

 アマゾンの顧客中心主義は3つの「ビッグアイデア」に基づいています。1つ目は顧客を出発点にしてそこからさかのぼるというアイデア。2つ目は発明と革新を進め、先駆者になることを目指すというものです。3つ目は長期的な視野に立つこと。

 この3つの組み合わせがあるからこそアマゾンは特別な存在になり得ています。顧客に対するこだわりを持ち、発明し、開拓し、新たなことに挑戦する。そして必ず長期的視野に立つ。このアプローチがアマゾンの優位性を形作っています。

 我々が何か商品やサービスをリリースするにしても、必ず顧客を出発点にしてさかのぼり、準備が整った時点で発売する。会社が本当に辛抱強いかどうかは、行動に表れます。バグが残っているような商品を時期尚早で発売する会社は決して辛抱強くない(笑)。

日経ビジネス2012年4月30日号 108~111ページより目次