2000年初めに苦境に陥ったデンマークの玩具メーカー、レゴグループ。36歳で2004年に就任した新CEOが、徹底調査の末、男子向け商品に特化し見事に復活した。そして今、悲願だった市場の残り50%を占める女子を対象にした新たな挑戦が始まった。

 プラスチック製の「レゴブロック」で有名なデンマークの玩具メーカー、レゴグループ。直営店や百貨店のレゴ売り場を歩くと、2つのことに気づく。1つは「レゴはどこにでもあるが、万人向けではない」ことだ。

「女の子向けはありません」

 警察ヘリコプターやロケット、電車といった昔からの商品もあるが、「エイリアンコンクエスト(宇宙人による侵略)」や「ニンジャゴー」といった新シリーズも多い。「スターウォーズ」シリーズの前では商品の多さに混乱した親が、「どれを買えばいいの」と携帯電話で尋ねている。売り場に少し長くいると、種類の豊富さだけでなく、足りない物があることに気づく。

 「レゴは『女の子向けはありません』とでも表示すべきだ」。こう話すのは、「プリンセス期」と呼ばれる3~4歳の少女向け玩具市場について詳しいペギー・オレンスティーン氏だ。

 確かにレゴは、2000年代初めの拡大路線で失敗して以降、男子向け商品に集中してきた。この戦略は当たった。同社は非上場会社だが、同社の発表によると、2010年12月期の売上高は、2006年12月期からほぼ倍増し、160億1400万デンマーククローネ(約2226億円)を記録。米国での売上高は2010年12月期に初めて10億ドル(約783億円)を突破した。2011年も業績は好調だった。

 そのレゴが今、「戦略転換を図っている」と米BMOキャピタルマーケッツの玩具業界アナリスト、ゲリック・ジョンソン氏は言う。「レゴは男子向け玩具で最もホットな企業だが、玩具業界一ホットな会社になるかもしれない」。

 学齢期の少年には、女の子のプリンセス期に似た「レゴ期」がある。女の子がティアラやピンクのリボンを使って遊ぶのとは違い、男の子にとってのレゴ遊びは、空間認識や数学的な力、手先の器用さを伸ばす。好きな物を自由に作って何時間でも一人遊びに没頭できる。そのため、レゴが男の子向け商品ばかり出しているせいで、娘がこうした機会を逃していると不満に感じている女の子の親は少なくない。

ついに女の子向け商品を投入

女の子向けに発売したレゴ「フレンズ」シリーズのキャラクターの1人

 レゴは、過去に女の子向け商品の開発で5回も失敗している。遊び方の性差を誤解して失敗したり、利益こそ出しても主力商品にまでは育てられなかった。

 だが、4年間に及ぶ徹底的な調査や研究、デザインの試行錯誤を繰り返し、ついに突破口を見つけたようだ。

 英国で昨年12月、米国では今年1月に、5歳以上の女の子を対象にした新シリーズ、レゴ「フレンズ」を発売した。同シリーズの商品数は23種類にも上り、4000万ドル(約31億3500万円)の宣伝費を投じる力の入れようだ。

 「この10年で最も重要な戦略的新商品だ。世界の子供の残り50%も何とか当社の顧客にしたい」と、同社のCEO(最高経営責任者)ヨアン・ヴィー・クヌッドストープ氏は語る。

1958年から不変の中核技術

 レゴは、デンマークのビルンという小さな町で誕生した。ビルンの中心には、レゴの創業者オーレ・キアク・クリスチャンセン氏の家が今も博物館として保存されている。「アイデアハウス」と呼ばれるこの家は同社の創業理念を象徴しており、創業当初の1930年代に販売された木製ヨーヨーやアヒルなどが展示されている。

 同社は、創業者クリスチャンセン氏の「子供には最高のものを」というモットーを堅持しており、今もライバルより高価なプラスチックを使っている。

 カナダの競合メガブロックスの価格はレゴより約6割安い。米調査会社レピュテーション・インスティテュートによる2010年の評判番付では、レゴは欧州で1位、米国とカナダで2位、世界で5位と評価は高い。

 最近のテレビゲーム「レゴ・スターウォーズ」やロボット「マインドストーム」、iPhoneアプリ「レゴフォト」*1などでも成功を収めている。

*1= 写真をレゴブロック風の画像に変えるアプリ

 だが、レゴの中核技術は1958年から変わらない。「スタッド・アンド・チューブ」と呼ばれるブロック上部の突起部分と裏側の筒の構造を今も維持。これにより、ブロック同士が簡単にくっつき、外すことができる。レゴの強みは「精密さ」にあり、製造時の許容誤差は髪の太さの10分の1だ。ブロック同士の「結合力」を高める方法は米コカ・コーラの製法同様、今も極秘だ。

 創業者の息子ゴッドフレッド氏が63年に発表した「レゴに欠かせない10の特徴」に、「女の子にも、男の子にも」というのがある。幼児向けの大きめのブロック「デュプロ」シリーズでは、男女が同じように遊べるが、3~4歳以上を対象にしたレゴブロックは小さく複雑になり、一気に「男の子向け」となってしまう。

 フレンズシリーズを開発するに当たり、クヌッドストープ氏は、ブランドを復活させるべく2005~06年に行ったのと同様の大規模調査を実施した。

 社内のプロダクトデザイナーと販売ストラテジストを社外コンサルタントのチームに加え、ドイツと韓国、英国、米国に派遣。数カ月にわたり女の子の追跡調査とその家族へのインタビューを重ねた。調査結果は社内に議論を巻き起こした。レゴの代表的な商品「ミニフィギュア」が、「あろうことか、女の子は大嫌いなことが判明したんだ」と商品及び市場担当副社長のマッズ・ニッパー氏は明かす。

 プラスチック製のミニフィギュアは、前後に足が動き、黄色い円柱状の頭に顔がプリントされた4cmの角ばった人形で、同社にとってはスタッドのついたブロックに次ぐ神聖な商品だ。女の子をレゴに引きつけるにはこのミニフィギュアを何とかすべきだった。

女の子向け「フレンズ」シリーズを「この10年で最も重要な戦略的商品」と位置づけるクヌッドストープCEO(写真:Chris Floyd for Bloomberg Businessweek)

36歳の新米CEOが見事に再建

 愛すべきミニフィギュアをどう変えるか――。これは、4代目社長のクヌッドストープ氏の判断に任された。36歳の若さで、創業家出身でない初のCEOとなった同氏は、熱意に溢れ、デンマーク人というより米国人役員のようだ。

 「4歳から10歳まで息子と娘が2人ずついるので自宅でも研究できた。みなブロック遊びが好きだが、確かに遊び方は様々だ」と語る彼は、「普段の何気ない観察」も重ねながら、フレンズシリーズに熱心に取り組んできた。

 彼は、経済学と経営学の修士号と経済学の博士号を持ち、コンサルティング会社マッキンゼーを経て、2004年に窮地に陥っていたレゴの経営を引き受けた。レゴは当時、1日に100万ドル(約7800万円)近く失っており、CEO就任後1カ月の間に、「『倒産しないでください』と訴える手紙が消費者から何百通も届いた」という。

 会社を軌道に戻すため、まずテーマパーク「レゴランド」を売却。新商品を考える際にデザイナーが利用できるパーツの種類を1万2900個から7000個に減らした。新パーツを1個作るたびに高価な金型が必要になり、世界中のサプライチェーンにも変更が発生するからだ。デザイナーには既存パーツを使い創造性を発揮せよと指示した。

間違っていた現代っ子のイメージ

女の子向け商品は失敗の歴史だった
過去5回にわたる失敗

 クヌッドストープ氏はCEO就任直後の2年間について、「正直、どんな戦略を取るべきか分からなかった」と告白する。だからこそ同氏は、レゴ好きな子供の生活や遊び方を知るために、各国にチームを派遣し、様々な家庭を調査させたのだった。これが同社にとって重要な意味を持つことになった。

 2005~06年の調査で同社は、幾つかの文化的違いを見落としていたことに気づく。「学びにつながる創造的な遊び」という考え方は創業時からのレゴの信条だ。創業者クリスチャンセン氏は、動物型玩具で遊ぶと脳が発達するとして、世界恐慌に直面しても玩具メーカーを創業する決意を変えなかった。だが、日本では学びと遊びは明確に区別されていることが分かった。

 米国の男の子は調査対象グループの中で最も自由が少なかった。英独の男の子の方が、監視されずに外でより自由に遊んでおり、自室の壁を自由に飾ることができた。9~12歳の米国の男子にとって、レゴで遊ぶ時間は1人になれるめったにないチャンスだった。この人類学的調査は数カ月続き、同社が道を誤る原因となった間違った前提を数多く覆した。

 同社シニアディレクターのセーレン・ホルム氏はこう語る。「ある11歳のドイツ人の男の子に『一番お気に入りの持ち物は何か』と尋ねると、彼は自分の靴を指さした。理由を聞くと、靴のすり減ったサイドと底を見せてくれた。仲間の間では、靴がどれくらいすり減っているかでスケートボードのあるスタイルをどれほどマスターしたか、どんな技ができるようになったかまで分かるというんだ」。

 スケートボードの技の習得には何時間もかかる。この話によって、現代っ子は遊びで辛い挑戦を続ける集中力に欠ける、という前提が否定された。レゴでは当時、スイッチさえ入れればすぐ起動するテレビゲームに対抗すべく、組み立てセットの難易度を下げていた。その方が速く完成できて、満足感を速く得られると考えていた。

2007年に女の子の調査に着手

 ドイツのスケボー少年が、テレビゲームから誤った教訓を導き出していたことを教えてくれた。子供にとって重要なのは、即時性ではなく、得点やランクづけの仕方、遊びのレベルや熟練度をアピールする場だ。その結果、人気シリーズ「レゴシティ」に警察署や消防車を復活させればよいことが判明した。調査チームははしご車や白バイ警官のデザインやパッケージ、販売方法をどうすればよいかを指示した。

 調査から多くを学んだ同社は2007年、女の子の調査に着手した。その結果、驚いたことに女の子にとってレゴは「美しさ」の点で問題を抱えていた。

 「確かに女の子の場合、『美しさ』は玩具に欠かせない条件だった」と市場調査マネジャーのハンネ・グロス氏は言う。遊び方から見ると、男の子にとっての「熟練」と同様、極めて重要なニーズだった。ただ、すべてが適切な位置にあるという快適な秩序や、色が親しみやすいかなど、「全部が調和しているかどうか」という細かさが求められていることに気づいたという。

 調査からは、女の子がごっこ遊びも好きだが、組み立ても好きなことが分かった。ただ、遊び方は男の子とは違う。男の子は「直線的」で、時間を忘れてパッケージに載っている完成品をどんどん作り上げる。だが女の子は「途中で止まって」話を作ったり、ブロックを作り替えたりする。そこでフレンズシリーズには、完成させなくても遊べるパーツを加え、パステル調の空色やラベンダー色などの新色も加えた。

 人形も重要な要素だった。今年29体が発売されるが、すべて従来のミニフィギュアより5mm大きく曲線的だ。主要キャラクターは5人。それぞれに名前とプロフィルが設定されている。舞台は「ハートレイクシティ」という町で、美容院や動物病院、カフェなどがある。シニア・クリエーティブ・ディレクターのナンナ・ウルリッヒ・グドゥム氏は「多くの国で受け入れられる商品を作るため、開発チームのメンバーは9カ国から集められた」と話す。

 男の子は第三者の視点に立ってミニフィギュアで遊ぶが、女の子は人形に自己投影する。つまり、人形はもう1人の自分になる。デザインディレクターのロザリオ・コスタ氏は、「女の子には、自分を重ね合わせられる自分に似た人形が必要だった」と説明する。

世界の女の子にアピールするために、多国籍チームが編成された(写真:Chris Floyd for Bloomberg Businessweek)

それでも難しいレゴの女の子問題

 フレンズの開発チームは、自分たちの仕事が矛盾を内包していることを自覚している。つまり、女の子の典型的な遊び方の固定観念を壊せば、その瞬間にまた別の典型的女の子の遊び方にはまるリスクがあるということだ。

 米ロザリンド・フランクリン医科学大学の神経科学者で、子供の性差に関する著書も持つリーズ・エリオット氏は、「テレビの玩具の宣伝は、対象を明確に示すので子供もそのメッセージを受け止める。でもレゴの場合、そもそも男の子の玩具だと決めつける理由は何もないはずだ」と指摘する。

 そうかもしれない。だがクヌッドストープ氏は、それでもレゴが女の子を引きつけるのは難しい課題だと認めている。先日「ファースト・レゴ・リーグ」*2のロボット競技を参観し、優秀な成績を収めた女の子の母親と話をした同氏はこう言う。

*2=レゴグループが後援する、子供たちに科学への関心を持たせるためのプログラム

 「その母親は、娘がレゴは男の子のものだから自分を『レゴキッズ』と言いたがらないと言っていた。女の子向けの商売の方が大きくなるとは思っていないが、女の子向けレゴを望む子には、当社として何か提供したい」

 米国でフレンズシリーズを販売する小売り大手、ターゲットのステファニー・ルーシー副社長は、同社の店舗ではフレンズシリーズを従来のレゴ商品とは別の女の子向け商品の棚に並べる計画だという。女の子の目に留まりさえすれば、「大ヒットになるはず」と同氏は見ている。

 成人男性のレゴファンもフレンズシリーズの売れ行きに影響を与えそうだ。レゴブロック同人誌の編集者ジョー・メノ氏も「もちろんフレンズシリーズを買う」と言う。だが、「買うのは新色パーツを手に入れたいからさ。その1色は、作りたいと思っていたカモノハシペリー*3にぴったりの色だからね」とメノ氏。女の子のフィギュアには「見向きもしないだろう」と予言する。全く男の子ときたら困ったものだ。

*3=ディズニーチャンネルのアニメ、「フィニアスとファーブ」に登場するキャラクター
Brad Wieners(Bloomberg BusinessWeek,
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日経ビジネス2012年2月27日号 64~67ページより目次