長引く不況、縮む市場、想定を超えた円高。無数の試練が日本企業を揺さぶる。加えて株式市場の圧力。目先の利益確保を優先する企業が後を絶たない。もちろん利益なくして企業の存続はない。だが、極端な利益優先の先に未来はあるだろうか。かつて「売上高至上主義」は日本企業の強さの源泉だった。売り上げ増とは消費者の支持の表れであり、新たな雇用を生み出す原動力。見渡せば、世界経済は新興国市場を中心に、成長機会に満ちている。日本全体に漂う利益偏重、小さくまとまるムードを変える時が来た。今あえて言おう、利益よりも売り上げと。

 「足元の業績は厳しい」。リコーで総合経営企画室長を務める山下良則・常務執行役員が唇を噛む。

 グローバル企業の優等生が苦しんでいる。過去には10年連続で増収増益を達成し、その堅実な世界展開は日本企業のお手本とされてきたリコー。2008年3月期には、売上高2兆2199億円、営業利益1815億円の過去最高益を記録した。

 ところが、状況は一変する。2008年9月、リーマンショックを端に発した世界経済危機が勃発。世界は一気に景気後退局面に突入し、以来、リコーは苦境から抜け出せずにいる。業績は2008年3月期をピークに2011年3月期まで減収減益が続く。

 同社は今、構造改革の一環で全世界の従業員11万人のうち1万人の人員整理を進めている。人件費を含むコスト削減を急ぎ、経営立て直しに全力を注いでいる。

 ただし、その狙いは目先の利益確保だけではない。

成長なくして利益なし

 2014年3月期の売上高2兆4000億円のうち、新規事業の売上高で2000億円以上──。この目標を達成するため、人員削減と並行して、1万5000人の要員を新規・成長分野にシフト。複合機依存から脱却し、新規事業の売り上げ増を狙う。

 業績が低迷していようとも、設備投資は現在の水準を維持。今後3年間で2000億円を投じる。研究開発費も、売上高比率5~6%を堅持し、新規事業や新興国向けの製品開発を急ぐ。2011年10月には、HOYAのデジタルカメラ部門を買収した。かつての勢いを取り戻すには、まず売り上げを拡大し、利益を最大化させるしかない。

 「当社の基本戦略には『成長』という言葉が『体質改善』の先に来る。成長を最優先に考えているからにほかならない」。山下常務はこう説明する。

CONTENTS

データが示す事実
売り上げが利益を作る

実態と乖離する市場評価

トップラインはこう伸ばす
成長のアクセル踏め

利益偏重経営、4つのウソ

独自調査結果
あなたの会社は売り上げ重視?

日経ビジネス2012年1月23日号 26~27ページより目次