人生で最も長く時間を費やすもの、それは全体の3分の1を占める「睡眠」だ。日々の快適な眠りは、私生活や仕事の充実、また健康維持に欠くことができない。睡眠の状態を測定し、データ化する技術の活用事例が増え始めている。

睡眠モニターの仕組み
睡眠モニターはセンサーが感知した情報を分析して呼吸、脈拍、体動などのデータを計測する。それを基に睡眠状態の変化を把握し、睡眠の質の改善や機器の制御に活用する。器具などを体に取りつける必要がなく、睡眠の妨げにならないのも利点だ

 毎日の睡眠は心身の疲労回復に欠かせない。最適な睡眠時間には個人差があるが、一般には6~8時間とされる。

 ただ、しっかり寝たはずなのに昼間どうにも眠気が取れない、といった経験はないだろうか。睡眠時間は確保できていても、浅い眠りが続いていると疲れが取り切れないこともある。睡眠は「量」以上に「質」が大切だ。

 日々の睡眠の状況を体重計や体温計のように測定しデータ化できれば、眠りの質の改善に役立つ。そこで注目されるのが「睡眠モニター」の技術だ。睡眠中に計測した生体データを基に、眠りの深さや状態を把握する。

 タニタはマット状の睡眠モニター、「スリープスキャン」を発売している。ベッドマットや布団の下に敷いて使用する。計測する生体データは睡眠中の呼吸と脈拍、体動だ。マットはチューブを何本もくっつけた構造になっており、チューブ内は水で満たされている。この水が、睡眠中の呼吸や脈拍によるかすかな振動や体動を捉え、圧力センサーに伝える仕組みだ。

 センサーには呼吸と脈拍、体動の情報が合わさって伝わってくる。その情報を信号処置回路で分解し、呼吸と脈拍、体動の3つのデータを取り出す。データはSDカードに記録し、パソコン用の専用ソフトを使って解析する。

 睡眠状態は一般に、レム睡眠とノンレム睡眠に分けられる。レム睡眠とは、体は休んでいるが脳は活動している状態。ノンレム睡眠は脳も休んでいる状態だ。ノンレム睡眠はさらに、眠りの深さにより何段階かに分かれている。

 眠りに入るとまずノンレム睡眠が現れ、その後1~2時間でレム睡眠に移る。以降はノンレム睡眠とレム睡眠が交互に現れ、レム睡眠は約90分おきに10~20分続く。1晩の睡眠では、このサイクルを4~5回繰り返すのが普通だ。夢を見るのは脳が活動しているレム睡眠時が多い。

 スリープスキャンのソフトは、計測した呼吸と脈拍、体動のデータを基に、睡眠中にどのような眠りの状態をたどったかを分析する。例えば体動が少なく、呼吸と脈拍が安定しているなら眠りは深いと判断される。

 睡眠状態は時系列にグラフ化され、ノンレム睡眠の長さや深さ、途中の覚醒の回数などが一目で分かる。さらに、睡眠の質の目安となる「睡眠点数」も算出される。寝つくまでの時間や深い睡眠の長さ、途中の覚醒や体動の回数、床に就いていた時間の中で実際に眠っていた時間の割合(睡眠効率)といった要素を総合的に判定し、点数を出す。

 睡眠点数が高いほど快眠度は高い。ただし平熱が人により異なるように、平常時の睡眠点数にも個人差がある。タニタの開発部の佐々木敏昭氏は、「日々の点数の変化を見ながら、いつもより眠れているかどうかの指標にするという使い方が好ましい」と言う。

 例えば、普段は70点前後なのに30点が出たなら、何か点数を下げる要因があるはず。そこでグラフを確認し、夜中に何度も覚醒していると分かれば、室温に気を使うとか寝酒を控えるといった対策も打てる。睡眠の質を手軽に把握する、言わば「睡眠計」のような使い方ができるのだ。

眠りやすい室温に調整

ダイキン工業の「ソイネ」の仕組み
ダイキン工業の「ソイネ」は睡眠中の体温変化と睡眠状態に合わせ、快適に眠れるようエアコンの温度設定を自動調整するリモコン。睡眠の質を5段階で判定する機能も持つ

 睡眠モニターの技術を応用し、眠りのリズムに合わせてエアコンの温度設定を最適に自動調整する仕組みを開発したのがダイキン工業だ。

 昨年発売した「ソイネ」は、同社製のエアコンに対応するリモコン。付属する中空のチューブをベッドマットや布団の下に這わせ、チューブ内の空気の圧力変化を基に睡眠中の呼吸や心拍(脈拍)、体動を計測する。

 眠りに入ると、人の体温は徐々に低下(最大で2度程度)し、目覚める少し前から上昇していくことが分かっている。そこでソイネは、眠りの状態を計測しながら、入眠すると室温を適度に下げるようエアコンに指示を出す。そして、事前にセットした起床時間の1時間ほど前から室温を上げ始める。体温の自然な変化を手助けするように室温を調整し、快適さを高めるのだ。

 さらにソイネは、この温度調整をベースにして、睡眠の途中にも室温を細かくコントロールする。

 レム睡眠とノンレム睡眠では、体温調節機能の働き方が異なることが知られている。ノンレム睡眠時には体温調節機能が効いているが、レム睡眠時にはこの機能が働きにくくなるのだ。寝汗をかくのはノンレム睡眠時が多い。

 睡眠中、ノンレム睡眠からレム睡眠に移ると、ソイネは室温を一時的に上げるようエアコンに指示を出す。体温調節機能が効きにくい中で、必要以上に体温が下がらないようにするためだ。10~20分が経過し、レム睡眠を終えてノンレム睡眠に移ると、設定温度はまた適度に下げられる。

 開発を手がけたダイキン工業の樋江井武彦氏は、「眠りのリズムに合わせて室温を調整すると、一定温度の場合と比べてノンレム睡眠の深い眠りとレム睡眠が2割程度増え、途中の覚醒回数が減るという研究結果が出ている」と説明する。最近では、夏場の熱帯夜の増加などでエアコンを稼働させたまま寝る人が増えている。より快適な睡眠環境を作り出すためにも、睡眠モニターの技術は有用だ。

高齢者などの「見守り」にも

 介護分野での用途開発を目指す動きもある。モニター技術を活用して、介護が必要な高齢者などの睡眠状態を見守り、介護する人(介護者)の負担を軽減しようという使い方だ。

 米国ベンチャー企業のバムラボ(カリフォルニア州)が開発した睡眠モニターは、シングルベッドサイズのセンサーマットをベッドマットや布団の下に敷いて使う。センサーがマット内の空気圧の変化を基に呼吸や脈拍、体動、ベッドの出入りの情報を採取する。

米バムラボの睡眠モニター
米バムラボは、寝ている人の状態を別の人がリアルタイムに確認できるシステムを開発。介護の「見守り」用途での応用が考えられている。サーバーへの送信は無線に対応

 データはインターネットを通じて専用サーバーに送信され、介護者はパソコンやモバイル端末からサーバーにアクセスして、被介護者の睡眠状態を随時確認できる仕組みだ。

 日本では現在、バムラボの総代理店であるヘルスケアーテック(東京都府中市)が、グループ介護施設で実証実験を行っている。

 例えば、普段は睡眠中の脈拍が1分間に60回の人が40回に低下すれば、何か体に異常が起きている可能性が高いと判断して駆けつけられる。認知症の高齢者が夜中にベッドから出たことを確認し、しばらく戻ってこなければ徘徊に注意して対応することも可能だ。ベッドの出入りに合わせて、介護者にアラームで知らせる機能もある。

 何人もの高齢者を同時に見る必要がある介護施設では、定期的な見回りや生体データの確認などが必要になるが、そうした介護者の仕事の負担を軽減できる。また、夜中にしっかり眠れていない人がいれば、翌日の介護の仕方を工夫することもでき、介護内容の改善にもつながりそうだ。

 「睡眠状態をリアルタイムに把握できるのがこのシステムの最大の利点。今後、実証実験を通じて現場での有効な使い方や市場性を見極め、事業化を検討したい」とヘルスケアーテックの渡辺健一社長は言う。

 人生の時間の3分の1を占める睡眠。そのモニター技術の活用範囲は、まだまだ広がりそうだ。生活環境の改善や医療分野、仕事の効率化などへの応用も今後期待される。

(小谷 真幸)

日経ビジネス2012年1月16日号 74~76ページより目次