NTTドコモは「iモード」のコンテンツをスマホに移植する。自らマーケットを開設してコンテンツを集め、課金代行もする。だがこうした移行計画には思わぬ死角が隠れている。

 「NEXT i プロジェクト」。NTTドコモは今年夏以降、従来型の携帯電話向けにサービスをしていた「iモード」を米グーグルの「アンドロイド」OS(基本ソフト)を使ったスマートフォンに移行させるプロジェクトを発足させ、作業を続けてきた。11月18日には、スマートフォン版iモードとも言える「dメニュー」の配布を開始。着うた、ゲーム、絵文字や電子書籍などのコンテンツのほか、ドコモが手がける動画配信の「BeeTV」、ニューステロップを流す「iチャネル」などの移行が済んでいる。

 ドコモによると、「これまで利用者がスマートフォンに乗り換える際には、特殊な手続きを踏まない限り契約していたコンテンツが解約されていた。dメニューの開設でiモードコンテンツの解約率は下がってきている」(広報部)という。現在dメニューに登録されているコンテンツやサービスは700社で約3600サイトに及ぶ。

ドコモが十数年かけて作った「iモード」。スマートフォンの普及によって引っ越しを強いられるが課題は多い(写真は山田隆持NTTドコモ社長)
写真:時事通信

 今年4~9月期のドコモの携帯電話総販売台数は1035万台。このうちスマートフォンは約35%の363万台に上った。11月には、高速の次世代通信規格「LTE(サービス名=クロッシィ)」に対応したスマートフォンの販売を逐次開始しスマートフォン比率はさらに高まる見通しだ。

 iモードは成長のピークは過ぎたとはいえ、いまだに約2万3000の登録サイトがあり、ユーザーは5000万人に上る。このまま従来型携帯からスマートフォンへのシフトが進むとどうなるか。「コンテンツ会社がドコモのサービス基盤を使ってコンテンツを提供し、ドコモが課金代行をして手数料を得る、という十数年かけて培ってきたiモードの生態系がみすみす消滅してしまう」(ドコモ関係者)。

米グーグルを刺激する恐れも

 だが、コンテンツ事業者の中にはドコモによる”民族大移動”の号令に冷ややかな見方もある。あるコンテンツ会社幹部は「小規模な会社にとって移行にかかる負担は計り知れない」と頭を悩ませる。また、既にdメニューへのコンテンツを提供している事業者も「ビジネスとして成り立つほどの収益がない」とこぼす。

 もっと深刻な衝突に発展する可能性もある。米グーグルが、「大手コンテンツ会社に対して、グーグルの課金・決済の仕組み『グーグルチェックアウト』を使うようにと個別で要請し始めている」(コンテンツ事業者)からだ。これまで、グーグルが運営する「アンドロイドマーケット」は、米アップルの「アップストア」と異なり、課金・決済の縛りが緩かった。

 グーグルがアンドロイドマーケットでのコンテンツ提供に自社の課金システムを強制するだけにとどまれば、ドコモのdメニューは問題ない。しかし、アップルのように自社の課金システムを使わなければアプリの存在を認めないなど過度な方向に突き進めば、ドコモは課金代行手数料収入を失う可能性もある。「誰が課金決済のプラットフォームを握るのか」。コンテンツ事業者はこうした動向を注意深く見ている。

 自衛手段を講ずる事業者も現れた。女性の健康管理サービスをヒットさせたエムティーアイは、スマートフォン向けコンテンツの新たなマーケット運営にも参入している。多様な決済手段を用意し、ほかの会社のコンテンツも扱う「mopita(モピタ)」がそれだ。先行き不透明なプラットフォームではなく、自らで決済手段を選びたいコンテンツ事業者が集う。

 グーグルの基盤上で展開するiモードはもはやドコモ自身が自由にできるプラットフォームではない。iモード引っ越し計画が失敗すれば、その影響は計り知れない。

(小板橋 太郎、原 隆)

日経ビジネス2011年12月19日号 15ページより目次

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