国の税外収入の有力財源とされる周波数オークション制度。事業仕分けで俎上に載せられたが、総務相は一転先送りに。スマートフォンで急増する通信に対応する仕組みが必要だ。

 「あっけなく花火は消えた」。A.T.カーニー主席コンサルタントの吉川尚弘氏は12月1日、こう言って肩を落とした。地上アナログ放送終了などで新たに空く電波周波数帯域を、公平な競売方式で携帯電話会社に割り当てる「周波数オークション」導入がまたもや風前の灯になったからだ。

 川端達夫総務相は1日の衆院総務委員会でオークション導入を否定した。「今すぐには対応できない」――。つまり今年5月の電波法改正で決まった通り、オークション導入は今回の割り当てでなく、次回からに先送りされた。「今回の割り当て」とは700メガヘルツ帯、900メガヘルツ帯という携帯電話に最も適した周波数帯。スマートフォンなどで通信量が急増している携帯電話会社向けで、3社前後に使わせることが想定されている。

仙谷由人氏(左)が提起した前倒し論を川端達夫総務相が否定した(写真:時事通信)

 事の発端は内閣府の行政刷新会議が11月21日に開いた「提案型政策仕分け」で民主党の仙谷由人氏がこう発言したことだ。「(周波数割り当ては)総務省の裁量で決まると言われていて、既にどこかの会社が取ることが決まっているようなことも聞く。そんな不公平はおかしい。オークションを(700メガ、900メガ帯にも)前倒しで導入すべきだ」。

 オークションを導入すれば、落札金額は国庫収入になる。財政規律を旗印に掲げる野田佳彦政権は消費税率引き上げの前に、捻出できるカネはすべて捻出しておきたい。国民の共有財産である電波を歳入に変える周波数オークションは経済協力開発機構(OECD)加盟の先進国34カ国中31カ国で実施されている。国が割り当てを決めるより、経済原則にのっとったオークションの方が透明性が高いからだ。

 A.T.カーニーの吉川氏や、経済評論家の池田信夫氏、経済学者の山田肇・東洋大学教授らオークション導入推進派は、仙谷発言で一時色めきたった。一方携帯電話事業者は複雑な反応だ。

ソフトバンクは導入に反対

 ソフトバンクはオークション導入に真っ向から反対、孫正義社長は「スマートフォンが急速に普及する中、(オークションの議論が再燃して)割り当てがずれ込むのは危険」として総務省に意義を申し立てた。ある関係者は「ソフトバンクはドコモもKDDIも持っている700メガ、900メガ帯を持っていないため、今回の割り当てでは最優先されると見られていた。だから現行の割り当てに固執した」と見る。

 だが大手携帯電話会社幹部は、「700メガ、900メガ帯を保有していた企業・団体との交渉は相対でやることになっている。今の枠組みは最高2100億円の費用を出すべきとしているが、実際どれだけカネがかかるか分からない」と不安を募らせる。電波法では、700メガ、900メガ帯を旧家主から携帯会社に移行することは決まっているが、「立ち退き」費用は相対で決めることになっている。

 吉川氏も、「オークションは残念な結果に終わったが、むしろ重要なのは、旧家主と新しい居住人とのやり取りをガラス張りにすることだ」と指摘する。スマートフォンの普及のみならず、今後無線通信量は際限なく増えていく。そのための電波資源を確保するためには、「非効率な使い方をしている電波を召し上げて、通信サービスの提供者に割り当てることが必要」(吉川氏)。

 電波は目に見えない。それだけに周波数オークション問題も一般消費者の関心は薄い。これが電力ならどうだろう。東日本大震災による電力危機で、その供給のあり方は全国民が共有する問題になった。地震の時には携帯がつながらず困った人も多い。既にライフラインになりつつある「電波」を誰にどう割り振るのか、もう一度国民的な議論が必要だ。

(編集委員 小板橋 太郎)
日経ビジネス2011年12月12日号 12ページより目次

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